120 名前: Fate/testarossa ◆JtheEeHibM [sage 二日目・二度目の教会] 投稿日: 2007/09/10(月) 12:16:57


  一度約束したんだから、ちゃんと守らなければなるまい。
  それに、俺が送れば遠坂の手を煩わすことも無いんだし。

 「いや、俺が送るから。遠坂は戻っていいぞ」

 「いえ結構です。衛宮くんの家はすぐそこでしょう?
  いちいち出直すのも面倒でしょうし、今日は休んだらどうかしら」

  学校で見かけるときと同じような、優等生然とした態度で返す遠坂。
  先刻までのやりとりでこれが演技だと判ってはいるが、それでも騙されそうになる。
  だからだろうか。

 「俺のことはどうでもいい。遅くなったら危ないのは遠坂だって同じだろ?」

  なんて、いつもの感覚で続けてしまった。

 「――――――へえ。私のアーチャーじゃ護衛にもならないってことかしら。
  随分と大きく出たじゃない、衛宮くん?」

  なんだか遠坂の気迫が増している。
  さっきの一言のどこがそんなにまずかったのか、被っているネコ越しに怒りがひしひしと伝わってくる。

 「誰もそんな話はしてないだろっ。
  俺はただ、こっちに任せて遠坂は休んでいいって………」

 「わざわざどうも。敵に心配されるほどおちぶれてなんかいないわよ」

 「だから聞けって。俺、遠坂の敵になるつもりはないぞ」

 「は?」

  お前は何を言ってるんだと言い出さんばかりの視線で睨まれる。
  よほど想定外だったのか、被り直したネコがもう取れかかっている。

 「聖杯戦争に参加しておいて『敵じゃない』? 何言ってるのよ。
  マスターになった地点で、他のすべての主従は敵に決まってるじゃない」

 「いやだから、そのマスターにだってなる気はない。
  聖杯戦争なんてものにも参加するつもりはないぞ」

  それを聞いて遠坂は、一瞬、何か信じられないモノを見たような顔になる。
  …………まさか、あの遠坂凛の百面相を見る日が来るなんて思っても見なかった。

 「なに、アンタ。
  偶然こうなっただけで、聖杯戦争のことなんかこれっぽっちも知らないってわけ?」

 「おおまかな話はさっき聞いたから知ってるぞ。
  けど偶然こうなったっていうのはあってる」

 「――――――――」

  今度は黙り込まれてしまう。
  遠坂みたいな美人に無言で凄まれると、その、すごく怖い。

 「―――決めたわ。見逃すなんていったけど、やっぱりついて来なさい。
  現状を解らせて性根を叩きなおしてあげる」

  有無を言わせぬ気迫と共に、一方的に言いつけられた。

 「と、遠坂?」

 「聖杯戦争についてはもう聞いているんだったら、あとは教会ね」

 「―――凛」

  俺の返事など待たずに話を進めようとする遠坂に、後ろから声がかかった。
  声の主は先程から変わらず、溜息でも吐きたそうな有り様だ。

 「アイツならこういう奴への追い込みは得意だろうし……って、なにアーチャー?
  止めろっていうのは聞かないわよ。
  参加者にすらなってない奴を倒しても意味はないし」

 「一度決めたら梃子でも動かないのは良く知っているからな、そんなことは言わん。
  だが二つだけ忠告させてもらおう。
  凛。君は間違いなく、無駄なことをしようとしているぞ」

 「……分かってるわよ、そのぐらい。で、もうひとつは何?」

 「………これは確認でもあるのだが。
  無関係な人間の前で、こうも包み隠さず話してもよかったのかね?」

 「―――――――あ」

  しまった、という呟きがこちらまで聞こえてきた。
  ………って。
  もしかして遠坂、ものすごくドジなところがあるんじゃないだろうか。

121 名前: Fate/testarossa ◆JtheEeHibM [sage 二日目・二度目の教会] 投稿日: 2007/09/10(月) 12:17:58


  ――――結論から言えば。

 『巻き込まれた一般人なんだから、教会で保護してもらうのが妥当でしょ』

  氷室の処遇については、そんなところに落ち着いた。
  なんでも昨日訪れた言峰教会は、聖杯戦争の監督役が控えているらしい。
  そこでは参加するマスター達の監視や、一般社会への隠蔽などを手掛けているという。

 『ありがとう遠坂。お前がいいやつで、本当に嬉しい』

 『ど、どうせアンタを連れて行くんだし。ついでよ、ついで』

  それでも、遠坂がランサーのような選択をしないことは、単純に嬉しかった。


  そのあとどうにかバスの最終便に間に合い、徒歩だと一時間はかかったであろう行程を短縮できた。
  その折、アーチャーの姿を見えなくして料金をケチる遠坂が見られたのは、はたしてラッキーと言えるのかどうか。
  隣に座ったフェイトを極力意識しないよう、ずっと暗い窓の外を眺めているうちに、バスのアナウンスは目的地に着いたことを知らせてくれたのだった。

 「こっちは、だいぶ大きな街だね」

 「新都側は再開発が進んでいるからな。
  このあたりはオフィス街だから人気はほとんど無いが、繁華街は遅くまで明かりが絶えない」

  はじめて来た新都を前に軽く周囲を確認するフェイト。
  今はあの武器は持っておらず、警察か自衛官を思わせるような制服姿だ。
  氷室は彼女の横で解説役を買って出ている。
  そして、

 「早く行くわよ。今回はそっちじゃなくて、丘の方なんだから」

  二人のさらに先を行き、一行を引き連れる遠坂。
  今は見えないが、その背後にはアーチャーがついているはずだ。
  バスから降りた集団は、妙なまとまりを見せつつ、教会へと向かっていた。



  坂を上りきり、ふたたび言峰教会の前に来る。
  もう一度来ようとは思っていたものの、まさか翌日に、しかもこんな用事で訪ねることになるとは思ってもみなかった。

 「遠坂嬢、少しいいか」

  広場に入ってすぐの位置で、氷室が足を止めている。

 「何、氷室さん?」

 「この教会は監督役がいる、いわゆる中立地帯と考えていいのだな?」

 「ええ。明確な規定は無いけれど、そう考えて間違いないわ。
  だからあなたを匿ってもらおうと思っているのだけど」

  聖杯戦争について説明済みというのは遠坂も知っており、すらすらと説明する。
  どうしたの、と続けそうな遠坂に対し、氷室は少し考える様子を見せた。

 「……いや、素人考えなのだが。
  中立地帯になっているのなら、サーヴァントは連れて行かぬ方が良いのではないか?」

 「武器の持ち込み禁止ってこと? そんな細かい事まで気にする必要はないと思うけど……」

  武器なんて言い方は無いだろ、と言い出す前に、遠坂は結論を出した。

 「ま、どうでもいいことで難癖つけられるよりはマシか。
  アーチャー、セイバーとここに残ってて」

 「―――構わん。ここなら中で何かあったとしてもすぐに駆けつけられる」

  わざわざ姿を現して、アーチャーが同意を示す。
  俺にも聞こえるように返事をしたのは、こっちの同意を促すためだろう。
  フェイトの方を見る。

 「私も賛成。すぐに助けに行ける距離だし、このぐらいのことで士郎に迷惑がかかるといけないから」

 「………そうか。すまないフェイト、悪いけどここで待っててくれ」

 「うん。士郎も気をつけてね。危なくなったら、すぐに呼んで」

  正面からまっすぐ見つめ返してくるフェイト。
  気恥ずかしくなり、つい視線を逸らす。
  ……と。

 「―――ほう。今夜会ったばかりとは思えぬやり取りだな」

 「今生の別れじゃあるまいし、おおげさよ」

  後ろに二人、呆れた様子でこちらを待っていた。

 「ほらさっさと行くわよ」

  そんなに待たせたつもりは無かったんだが、遠坂からすれば待ち長かったのだろうか。
  追い立てられるような形で、聖堂への扉へと進んでいった。



*選択肢*
  長くなったので2分割。この選択肢は本編の流れには影響しません。
  選ばれた分は次回投下分のオマケとして出されます。

 【薔薇人形に】:没選択肢のあらすじを聞く。(過去の選択肢名を1つ明記のうえご投票下さい)
 【ごすんくぎ】:早く続きをコピペする作業に戻るんだ。

投票結果

  • 【薔薇人形に】 0
  • 【ごすんくぎ】 5 決定

128 名前: Fate/testarossa ◆JtheEeHibM [sage 二日目・二度目の教会] 投稿日: 2007/09/10(月) 16:43:08


  広い礼拝堂には、昨日と同じく人影が無かった。
  外が暗い分、昼間に来たときよりもここが隔離された空間に思えてくる。

 「立派な教会だな。オルガンが弾かれる様は絵になりそうだ」

  初めて来たという氷室が感想を漏らす。
  確かにオルガンの曲なんかはこの部屋にぴったりだろう。
  だが、あの神父がオルガンを弾く様子は想像できない。
  ……いや、似合いすぎることが問題なのか?

 「やめて欲しいわね。アイツのオルガンなんて聞いたら心を病むわ」

  遠坂も同じ考えに至ったらしい。
  同士を見つけたようで少し安堵する。

 「遠坂も苦手なんだな、あの神父」

 「と言うか、アイツを苦手に思わないやつなんていないんじゃないかしら。
  正直こんな用事でも無ければ絶対来ないわよ」

  心底嫌そうな顔をしている。
  ここで『あの神父をからかう子を知っている』なんて言おうものなら、矛先がこちらに向けられることうけあいなので黙っておく。

 「きれいー! 居るんでしょう、さっさと来なさい!」

  奥に向かって神父を呼びつける遠坂。
  教会も広いんだし、さすがにこれで出てくることは、

 「―――いきなり何だ、騒々しい」

  出て来やがった。
  本当は機を伺っていたのではないかと疑ってしまう。

 「再三の呼び出しにも応じず、来たかと思えば客連れか。
  ……ふむ、茶会なら茶菓子ぐらいは出すが」

 「冗談。今回は一般人の保護とそこの素人の教育よ」

 「―――ほう、私を頼ってくるとは珍しい。
  しかし妙だな。二人いるが、被害者のほうも無事とは」

 「男の方が七人目。彼女は何も知らなかったそいつへの説明を一緒に聞いてた一般人よ」

 「なるほど。確かに珍しい話だ」

  神父がこちらへ視線を向ける。
  相変わらず、相手を圧倒する空気をまとっている。
  氷室の方も緊張しているのが分かる。

 「……教会なら安全だって聞いたぞ。氷室を匿ってくれるんだよな」

  ここはちゃんと確認しないといけないところだ。
  睨むようにして問いただす。

 「お前が七人目だったか、衛宮士郎。奇妙な縁もあるものだな。
  ――――さて、質問に答えよう。
  ここではその少女を匿うことはない」

 「ちょっと、綺礼?! どういうことよ!」

 「君がそれを訊くか、凛」

  実に楽しそうに、神父は笑う。

 「もとより神秘の隠匿を旨とするのは魔術協会の方針だ。
  そのための口封じを手助けする理由も、妨げる理由も教会には存在しない」

  祭壇に登りながらも、言峰の言葉は途切れる様子が無い。

 「確かに、放置するにはこの少女は知りすぎている。
  だがここはマスターの避難所ではあるが一般人の避難所ではない。
  出来る事といえば、聖杯戦争に関する記憶を消して帰してやり、他のマスターに襲われないことを祈る程度だ」

 「そんな無責任な話があるか。
  アンタ、教会の人間だろ。魔術師による被害を見過ごしていいのかよ」

  微かな期待をかけて問う。
  だが言峰綺礼は、予想通り、慇懃な仕草でおかしそうに笑った。

 「あいにく、この教会の任務は“聖杯”の査定でな。異端狩りは範疇外だ。
  目撃者の消去は魔術師としての最低限の自衛と言っていいだろう。
  聖杯戦争のルールを守ってさえいれば、その程度で参加者にこちらから干渉する事は無い。
  ……そうだな。確実に守りたければ、自分で保護すればよかろう。
  君にはマスターとしての力がある。
  最後まで勝ち残ればその少女が襲われる事も無くなり、聖杯も手に入る」

  言峰は笑いをかみ殺している。
  現状を受け入れられない俺の様子を愉しむように。

129 名前: Fate/testarossa ◆JtheEeHibM [sage 二日目・二度目の教会] 投稿日: 2007/09/10(月) 16:43:56



 「どうした少年。君には叶えるべき望みがあるだろう、いい案だと思うが?」

 「………そんな願いなんて無い。
  第一、マスターなんて言われても実感が湧かない。
  マスターっていうのがちゃんとした魔術師がなるモノなら、他に選び直した方がいいんじゃないか?」

  言いながら、自分でも薄々は感じ取っていた。
  ―――この聖杯戦争というものは、見過ごしていいものではなく。
  なにかとんでもなく、性質の悪いものだということを。

 「それは勘違いだ。
  ひとたびマスターになれば譲ることも辞めることも出来ない。
  聖杯によって選別され、その身に聖痕が刻まれたときから、その試練を受けるより他に道は無い」

  そしてこの神父も、俺の思っていることに感づいている。

 「令呪とサーヴァントを失えば、マスターの責務からは開放されよう。
  冬木の聖杯は霊体だ。
  手にするためのサーヴァントもそれを律する令呪も無い者は、聖杯戦争に関わることは出来ないからな。
  だがいいのかね。
  ここで降りれば、他のマスターによってどのような事態に陥ろうとも、それは看過するということになるが」

 「それは―――――」

  こちらの戸惑いを見抜いた上で、暴力のような言葉を叩きつけてくる。

 「過去四回の聖杯戦争では戦いは凄惨を極めた。
  最後の戦いは十年前になるが、そのときには相応しくない者が聖杯に触れ、街には災厄の爪跡が残された。
  今回がそのような事にならん保障はどこにも無い」

 「――――十年、前……?」

  息が詰まる。
  こんな馬鹿げた争いがもう五回目だというのも驚きだが、それ以上に。
  十年前の災厄という言葉が、ひどく重い。

 「十年前というと、新都の……」

  氷室の声が、どこか遠い。

 「そう、この街の者なら誰でも知っていよう。
  五百名もの死傷者を数えたあの大火災こそ、聖杯戦争による爪跡に他ならない」

  ―――あの、地獄が。
  聖杯戦争によるものだというのか。

 「――――――――」

  ――――吐き気がする。

  視界がぼやける。

  ぐらりと体が崩れ落ちる。

 「え、衛宮?!」
 「ちょっと衛宮くん?!」

  ――――踏みとどまった。
  こみ上げてくる怒りと、二人に情けない格好を見せまいという意地で、歯を食いしばって吐き気をこらえる。

 「どうした少年。なんなら少し休んでいくかね」

  神父は心配など全くしていないそぶりで聞いてくる。
  上等だ。
  腹が立つが、今は吐き気を抑えるのにちょうどいい。

 「――――問題、ない。アンタに心配されるいわれは無い」

 「それは結構。……私からの話はここまでだ。
  判断に必要な分は語った。あとは自身で決めるだけだ」

  高みから見下ろして、神父は最後の決断を問う。

 「聖杯を手にする資格があるのはサーヴァントを従えたマスターのみ。
  君たち七人が最後の一人になったとき、聖杯は自ずと勝者の元に現れよう。
  その戦い―――聖杯戦争に参加するかの意思をここで決めよ」

 「――――――」

  戦う理由が無かったのはさっきまでの話だ。
  今は戦う理由も意志も確かにある。

  俺は―――


 【Soul Collector】:……刻印を破棄する。
 【Hero’s Resolve】:―――戦う。

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最終更新:2007年09月11日 08:43