111 名前: 夢のタッグトーナメント・型月編 ◆QWcajfuhO. [sage] 投稿日: 2007/09/08(土) 23:48:24
――Interlude side Two solitary’s
私は暗闇の中にいた。そこでないと生きられないから。眩しかった日差しも、ひたすら青かった空も、今では回想すらできない。
闇にきらめく街灯に群がった虫達が、私の全てを表しているような気さえする。
今はとりあえず彼女を待つだけだ。彼女から、私の『ご飯』を提供してもらわねば。いつものベンチに座り、じっと彼女の登場を待つ。
「お待たせしました、さつき」
「―――あ、シオン。遅いよ。結構待ったよ」
「申し訳ない。秋葉のガードが厳しかったもので」
はっきりとは言えないが、奇妙な紫色の軍服?に身を包んだ彼女、シオン・エルトナム・アトラシアが会いに来てくれた。彼女から血液パックを受け取り、ストローを挿して飲み干す。彼女のおかげで、私は何とか生きることができている。いずれお礼をしなければなるまい。
「ありがとうね、シオン…。私、いつまでこんな生活続ければいいのかなぁ。シエル先輩や、秋葉さんに追われて…いい加減、疲れてきたよ。遠野くんに会いたいよ…」
「我慢、としか言い様がありませんね。何度も言いますが貴女は100%吸血鬼だ。日の出る所へ出れば灰になるし、代行者だって目を光らせている。この世界は貴女にとってあまりに不利に動いている」
「わかってる。わかってるんだけどね…」
理解はしているが、そろそろ心の方が限界だ。裕福な暮らしを経験した私にとって、この生活はあまりに過酷すぎた。肉体は耐えられても、精神がそれを許さない。とてつもないスピードでそれを磨耗していく。
「……………」
「……そういえば知っていますか、さつき」
「………何が?」
「プロレスですよ。今世間を賑わせている、タッグトーナメント。詳しい話は省略しますが、全8チームによる勝ち抜き戦で、優勝者には30億もの大金が得られるとか」
プロレス…。あまりに彼女に似つかない単語に、一瞬、目が点になる。この生活に入ってからというもの世情など全く把握出来てないが、今はプロレスがブームになっているのか。世の中何が流行るかわからない。
「でも30億とは凄い金額だね。中々お目にできないよ…。で、シオンは何が言いたいの?」
「わかりませんか? 30億あれば邸宅だって買い取れますよ。血液バンクから血を手に入れることも可能かもしれません。おっと、志貴を一生養うこともできるでしょうね」
「! で、でもシオン…。私、太陽の下になんて出ると灰になっちゃうよぉ」
「その点はご心配せず。屋敷に落ちていた真祖の髪の毛から研究し、日光完全遮断スーツを開発しましたから。少し動きにくいかもしれませんが、耐久性はバッチリですよ」
これは…もしかしておいしい話だとか? 正直プロレスなんてやったことないけど、吸血鬼となった私の腕力に敵う人なんてまずいない。これは……勝った。
「やろうか、シオン。私久々に燃えてきたよ」
「そう来なくては。ではさつき、まずは特訓だ。練習なくしてコンビネーションを発揮するなど無謀ですから」
凛とした彼女の目が、僅かに微笑んだ気がした。…まさか、シオン、落ち込んでいた私に元気を出させようとして? …彼女の心遣いに、思わず涙腺が緩む。
「さ、さつき…。まったく、あなたは。こんなことで泣くからいつまで経っても路地裏同盟なのですよ。ホラ! これは今を抜け出すチャンスなんですよ。2人で頑張って掴み取りましょう」
「うん…グスッ、ありがとう、シオン…」
お互いの友情を確かめあっている所で――――ある男が私達に近づいてきた。
「――む」
「?」
「……道を尋ねたい。蒼崎という女が経営している事務所を知っているか?」
男は一言で言い表すのならば暗い男だった。性格的にもそうなのだが、何より容姿が闇の衣を羽織ってるかのようで…近寄るだけで気が滅入ってくる。
「あ、えとちょっと知りません」
「そうか。では言峰教会は知っているか?」
「……言峰教会はこの道を真っ直ぐ行って突き当たりを右に抜けた所です」
「…ありがとう、礼を言う」
それだけ言って、男は去っていった。後に残ったのは、いつもの暗闇と、暗い影。
112 名前: 夢のタッグトーナメント・型月編 ◆QWcajfuhO. [sage] 投稿日: 2007/09/08(土) 23:49:11
「…ぷはー、息が苦しくなっちゃう人だったね。喋ってるだけで息が詰まっちゃうよ。…シオン?」
シオンは、男が去った場所を、切れ長な瞳で見つめていた。もちろん、男はもういない。彼女の張り裂けそうな雰囲気に戸惑ってしまう。
「いえ、何でもありません。っと、特訓の話でしたね。いっそのこと光が届かない山奥にでも篭りますか?」
「え…あ、はははは…。やだなぁ、冗談はよしてよ」
あれは一体何だったんだろう? それよりも、特訓をするなら早くした方がいいと思う。トーナメントの期限が迫っている。シオンも私と同じ考えらしく、私と一緒に立ち上がる。
……と、今度は青髪の男が私達に近づいてきた。またか、と内心うんざりするも、先程の暗い男と違い、こちらはやけに陽気な印象を受ける。服装もこざっぱりとし、男の性格をよく表わしていた。よく見れば金髪の少年も傍らに随っている。外国の人、だろうか?
「よ、彼女達、暇かい? どうだい、オレとお茶でもしてお喋りしようぜ」
「やめましょうよ~…。こんなこと、いけないですって」
……ナンパだ。
金髪の少年は乗り気ではない(当たり前だが)らしく青髪の男を説得しているのだが、男は構わず私達をナンパしてくる。こんなこと初めてだけど、どうしたらいいのだろう。
「急いでいますので。さつき、行きましょう」
「っとっと、待ちなって。少しくらいいいじゃない。少しだけだってば。オレが奢ってあげるからさ♪」
どうしよう…。この人は笑顔なんだけど、何だか少し怖くなってきちゃった。力だと私の方が断然上だろうけど、こういうタイプの異性はちょっと怖い。おどおどとする私とは反対に、シオンは堂々と男を見据えている。情けないけど、今はシオンが頼りだ。
しかし…事態は意外な展開に転がった。どこから現れたのか、前髪で片目を隠した男が、ナンパ男の腕を掴みあげる。その瞳は深く、ともすれば飲み込まれそうなほど大きかった。
「………」
「い、いてっ! チッ…」
ナンパ男が手を振り、男の手から逃れる。…いかほどの力が込められていたのか、ナンパ男の腕には手の平の形をした、青い痣が刻まれていた。
「…よぉよぉ、やってくれるじゃねぇか、兄ちゃんよ。こんな格好悪い痣つけられたんじゃ仕方ないわな。……いっちょ死んどけ」
「や、やめてくださいって! こんな所で、しかも人間と戦うだなんて何を考えてるんですか!」
「どいてろ小僧。こいつ只の人間じゃねぇ」
「………」
しまった。こんな大事になる前に、ナンパなんて振りきっておけば良かった。シオンもそれを感じているらしく、表情が険しい。……仕方がない、ここは私が止めるしかない。
「あの…」
「―――やめとけ。たかがナンパだ。殺し合いまでする理由がないだろうが」
「……」
拍子抜けする。突然登場した男の一言で、片目の男はあっさりと引き下がった。ナンパ男も毒気を抜けさせられたのか、纏っていた殺気が霧散していく。
この男は片目男の知人であろうか? 妙に鋭い目つきをしているが…。何はともあれ彼のおかげで事態が収拾できたのだ。感謝しなければなるまい。
「……ち、面白くねぇな。すまない、嬢ちゃんら。お茶はまた今度ってことにしてくれや」
金髪少年の小言を受けながら、ナンパ男は去っていく。それを見届けてから、片目男、そして目つきの鋭い男も去ろうとする。
「あ、あの! すみません、助かりました。ありがとうございます!」
「……こんな夜中に女2人で出歩いているからだ。気をつけるのだな」
目つきが鋭い男はこちらに一瞥もよこさなかったが、片目の男はそう漏らした後、去っていく。言葉を聞いたのはこれが初めてだが、短い中には密かな温かみを感じた。
そうして再びここには私達2人以外には誰もいなくなった。暗闇と静寂が、辺りを包む。
「はぁ、何だか短い間に色々あったねぇ。少し疲れちゃった。ね、シオン」
「………今夜は百鬼夜行が行われているようだ。不吉だ、特訓は明日からにしましょう」
珍しい。人一倍生真面目な彼女が、物事を明日から、とは。頭でも打ったのだろうか。
「はーい、わかったよ。じゃ私はもう寝よっかな。眠くなってきちゃった。ふあぁ、おやすみ~」
「…………」
――Interlude out.
1、ゴング前の激闘
2、――Interlude side Inui
3、トーナメント当日
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最終更新:2007年09月11日 08:38