141 名前: 夢のタッグトーナメント・型月編 ◆QWcajfuhO. [sage] 投稿日: 2007/09/10(月) 20:14:42

――Interlude side Inui


 ―――バレないように、そっと廊下を渡り歩く。足の指を巧みに使い、一足、二足。廊下が軋まないように慎重に歩を進める。
 いくら実の姉だろうと、このオレ様の真の姿を見られることだけは避けねばなるまい。目標地点まで順調に近づいている。……よし、あと少しで玄関――――

「……有彦。お前何やってんだ」
「げ」

 マズい、何てこった。あと少しの所だったのに、一子の奴に見つかっちまった!
 相変わらずはだけたシャツに咥えタバコとルーズななりだが、目だけは妙に冷めていて、こちらに遠慮なく突き刺さってくる。
 対するこちらは緑色のキノコの着ぐるみに身を包んだ、自分でもどうかと思うファッション。……この状況ではこちらが圧倒的に不利だ。スネーク、ここは誤魔化してやり過ごすんだ。

「……………有彦? 何を言っているのでちゅか? ボク、おばけキノコでちゅよ。今から極悪人を退治する旅に出るのでちゅ!」
「あーー……」

 一子の目がさらに冷めきっていく。聞き間違いだろうか、一瞬溜息が聞こえたが…。
 背中から噴き出る汗。一子、頼む、見逃してくれ―――。

「別にいいんだけどさ。有間以外に迷惑かけることはするなよ。あとあまりやりすぎるなよな」
「ありがてぇ、さすが一子! …でちゅ。待っていやがれ遠野! 妖怪おばけキノコがモテモテのお前に天誅を下してやるでちゅ!」

 やれやれという溜息が聞こえたが、んなもんに気を留めず、遠野の屋敷までレッツらゴー!通行人全員が手回していたかのように視線を集めてきたが、構うものか。オレの目的は一つ。
 野郎、シエル先輩だけでなく、秋葉ちゃん、アルクェイドさん、しかも屋敷のメイド2人、さらには最近来日したシオンちゃんにまで手を出しやがって……許せねぇ! このピコピコハンマーで奴の頭をぶっ叩かない限り、この鬱憤収まりきれねぇ、でちゅ。
 ピコピコ、ピコピコと走る。遠野、待っていやがれ。

 ―――正直この衣装では相当難儀したが、ようやく山の上の屋敷に辿り着くことができた。いつ見ても大きな屋敷が、オレの目の前にそびえ建っている。
 ……と、直後にリムジンが通り、これまた大きな門の前に止まる。不審者に思われるのも何なので、急いで薮の中に隠れる。
 真っ黒な車だ。キラキラとしたツヤが綺麗だ。屋敷の誰かが乗っているのだろう、ここの財源にはいつもうんざりさせられる。そう思って見ていると…何と麗しの秋葉ちゃんが降りてきた。丁度学校の帰りだったようだ。

「おほ、おほほ~、秋葉ちゃん。……む? まだ誰か降りてくるな。遠野の野郎か?」

 もしそうならここから飛び出して襲い掛かってやろうかと思ったが……しかし意外にも降りてきたのは秋葉ちゃんに劣らずの美女。前髪をパッチリ揃え、その穏やかな立ち振る舞いは真正のお嬢様なのだと実感できた。思わず頬が緩む。
 今すぐにでもデートのお誘いをかけたいが、この姿ではそれも叶わない。……遠野、恨むぜ。

「凄いですよねー、まさかリムジンとは。これだからお金持ちってやつは…」
「まったくだ。でも秋葉ちゃんとあの美少女なら許す。しかし遠野は許さん」
「志貴さんには厳しいですね」
「まーな」

 そして……秋葉ちゃん達に続いて、今度は凛とした顔の、これまたお嬢様チックな子がリムジンから出てきた。彼女もまたどこぞのお嬢様だろうか? 庶民とは明らかに違う顔つきだ。先程の美少女とは対照的な凛々しさが素晴らしい。羽織っている赤いコートが彼女の全てを物語っている。

142 名前: 夢のタッグトーナメント・型月編 ◆QWcajfuhO. [sage] 投稿日: 2007/09/10(月) 20:15:28

「すげーぜ。畜生、口説きてぇなぁ…。遠野なんて放っといて普通の格好で来りゃ良かった。あーあ、ついてねー」
「どうしてそう口説きたがるんですかね。人間顔だけじゃないでしょ」
「当たり前だ。しかしあの子たちはそれ以外もあると見た。上物だぜ、多分。…っと、お?」

 最後に………何てこった、お嬢様の必需品、縦巻きロールを備えた金髪美女が降りてきやがったじゃねぇか!? あの青い瞳、恐らく日本出身ではあるまい。―――百鬼夜行だ。美人の百鬼夜行だ。出来ることなら全員と口を聞いてみたい。だが、このキノコスーツが邪魔をする…!

「わぁ、凄い。縦巻きロールだなんて今時見ませんよ。これは大物ですねェ~」
「立ち振る舞いも完璧だ。典型的なお嬢様じゃねぇか…。スゲェな、どうしてわざわざ遠野の家に来たんだ…。はっ、まさか!?」

 最悪な光景が頭に浮かぶ。まさかあいつ、シエル先輩たちだけではなく、あの子たちも手中に収めようと画策しているのでは!?
 ……熱で脳がとろけそうだ。怒りで目の前が真っ白になる。外道、許せん。

「行くぜななこ…。遠野を、殺す」
「ちょっ、ちょっ、一体何を…。あ、熱くならないで」
「うるせぇっ! ここで熱くならなきゃいつ熱くなるってんだ! その蹄を離しやがれ!」
「嫌です! 絶対に離しません!」
「ええい、離せ! 離すんだななこ! ななこ…ってアレ?」
「はい、何ですか?」

 気付けば。オレの傍らに、目を丸くしたななこがいた。手を見れば相変わらず実用性皆無の蹄が見える。

「…お前、一体いつの間に」
「さっきですよ~。藪の中でコソコソ隠れているのを見つけて隣にやってきたんです。あれ、てっきり気付いてたとばかり思っていましたが」
「気付いてねー。全然気付いてねーよ。お前声ぐらいかけろよ」
「かけたじゃないですか。返事もしてくれましたしね」
「…………」

 とりあえずゲンコツをかますが難なく避けられ、代わりに蹄の一撃を喰らう。くそったれ。
 ムカついたのでななこを睨みつけるが、ふと蹄に奇妙な形をしたタトゥーが施されているのが目に入った。…またご主人の『改造』だろうか。

「焼きごての次はタトゥーか。お前の主人もいい趣味してるよ」
「!」

 オレに気付かれたのがまずかったのか、さっ、と慌てて蹄を隠すななこ。とっくにバレているので意味がないと思うが…。その後、へらへらといやらしい笑みを浮かべる。

「何だよ」
「いえいえ。ふふ、何でもありませんよぉ」
「チッ」

 本来は遠野を成敗するためにここまで来たのだが…奴はここにはいないようだ。ならば長居は無用。乾有彦はクールに去るぜ。別に彼女たちの存在に後ろ髪を引かれている訳ではない。

「あ、そういえば知ってます?」
「…何が」
「うふふ、近々開催されるタッグトーナメントですよぉ~。それに私、出ますから。うへへ、凄いパートナーも入る予定ですしねェ~」
「あっそ。勝手にしてくれや」

 正直どうでもいい。世間は賑わってるようだが、プロレスなんて興味がない。それに流行に乗り遅れまいと必死になる気分にはどうもなれない。
 ……ななこがニタニタ笑っているのがどうも癪だが、放っておいて、オレは再び遠野探しの旅へと戻った。


――Interlude out.



1、ゴング前の激闘2
2、『あーっと、選手たちの入場だーーっ!』

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最終更新:2007年09月11日 08:44