723 名前: Fateサスペンス劇場 ◆7hlrIIlK1U [sage] 投稿日: 2006/08/13(日) 23:58:56

二、桜のものだ

 走れ。間に合え。早く。間に合わないと、桜が。もっと、もっと、加速する。それでも、遅い。息を切らしながら桜の部屋まで全力で駆け付けた時は、既に皆が揃っていた。

「遠坂っ、桜は?」
「あ、士郎。ほら……、そこ……」

 細い指が震えながら、鏡台の前を指し示す。そこには、予想だにしなかった最悪の光景が……。

「これは……。なんて、ひどいことを……」

 ひどすぎる。あまりにも無惨だ。桜が。昨夜まで楽しそうに笑っていた桜が、今はもう見る影もない。何もこんな姿にしなくても。そんな、怒りとも絶望ともとれない気持ちが胸の奥からマグマのように沸き上がる。悲しすぎて涙が溢れて、猛りすぎて汗が噴きだす。許せない。俺の大切な家族に。大切な人に。大切な桜に。その彼女にこんな仕打ちは許せない。

「額に肉って書くなんて……」
「大丈夫ですか? サクラ、ちゃんと落ちそうですの?」
「ううっ……、これ油性ですよ……」



 泣きながら額を洗う桜を皆で慰めてから、ひとまず朝食を取る事にした。文字はなんとか落ちたけれど、それでもこんな事は許せはしないというのがみんなの意見だ。食べ終わったら早速犯人を捜す事に誰もが賛成した。

「現場、という事で桜の部屋を調べてみたけれど、参考になりそうなものは何もないな」
「そうですわね。部屋中にネコっぽい足跡が残っていて、明るい金髪の髪の毛が落ちていて、天井に大きくネコアルク参上って書かれていますけど、今回の件には関係ありそうにありませんわ」

 これでは調査は難航しそうだ。桜自身も寝てたから犯人の顔なんて見てないし、証拠になりそうなものも何もないときては。

「ねえ、シロウっ、これ見て!」
「ああ、今行く」

 ベッドの脇でイリヤが見つけたのは、小さな紙切れにかかれたメッセージだった。

『―――次は子象を描くにゃ。覚悟しておくがいいぞよ、少年よ。許してほしければ昨日持ち去ったメイド服と慰謝料のネコ缶三個を献上すれ。PS、なんかちょっと見ない間に髪がのびておなごみたいな体つきになってるけどあちきの気のせいかにゃ?』

「ほら、シロウ。なんてことなの。これは……」
「犯行、予告? なんて大胆ですの!」
「全くだ。ふてぶてしいにも程がある」

 ……しかし、……しかし、だ。考えたくないけど、今この島には俺達五人しかいないのはまぎれもない事実。それなら犯人はもしかすると―――。

「士郎……」
「先輩……」

 深刻な思考に陥ったとき、不意に後ろから声をかけられた。

「士郎、今二人で話してたんだけど」
「はい。先輩。もしかしてわたしに落書きした人は……、こんな事考えたくないんですけどひょっとして……」
「俺も今、その事について考えてたところなんだ。ちょっと、イリヤとルヴィアも聞いてくれ。一つ大切な話がある」



「つまりシェロは私たちの中の誰かが犯人だっておっしゃるのですね」
「……俺だってそんな事考えたくもないさ。でもな」
「シロウのいいたい事は分かるわ。その可能性が高い事もね。もしこの島がどこか別の場所に、そう、例えば地下トンネルででもつながっているって荒唐無稽なケースでもなければ、当然行き着く結論よ」
「ああ……、そうだな」

 認めたくないけど、そうなる事になる。ということは、つまり―――。

「つまり、わたしたちがとれる選択は二つに一つってことになる。

 一、このまま犯人を捜してきっちりお灸をすえるか。
 二、何もなかった事にして残りの日数を楽しむか。

 さあみんな、どうする?」

725 名前: Fateサスペンス劇場 ◆7hlrIIlK1U [sage] 投稿日: 2006/08/14(月) 00:02:45

「一ね」
「一に決まってますわ」
「わたしも、一がいいと思います。復讐とかじゃなくて」
「ええそうね。わたしも一を選びたいかな。士郎は?」
「おう。もちろん一だ」

 仲間だからこそ、家族だからこそ、きちんと向き合って道を正してやりたいから。誰かが間違ったとき、それを見てみぬふりするのは優しさじゃないと思うから。だから、決心は以外と早くついた。

「よし、決まりだ。犯人を、捜そう」



 ひと段落したと思ったら、そこから先が修羅場だったってことはよくあるけど、本音をいえばそんな事態はなくていいと思っている。

「で、その格好は、何よ」

 ああ、今日だけは、今だけは、自慢の視力が急激に落ちたと信じたい。

「メイドだけど?」
「ええ、メイドですよ」
「メイドに決まってると思うけど」
「メイド以外の何に見えますの?」

 ……なぜか、ものの見事に、全員同じデザインのメイド服だったから。しかもどこかで見た事ある奴。

「……なんでさ」
「わたしはてっきり先輩が用意したのかと思いましたけど?」

 桜さんはとんでもない事をおっしゃる。

「リビングに落ちてたけど? 人数分。サイズもそれぞれぴったりで。あんたが隠し持ってたか、投影したかじゃないの?」
「せっかくシェロが用意して下さったのですから、みんなで着てみるのもいいかなという話になったのですが」

 口々に勝手な事をおっしゃる皆さん。もしや日頃からそんな目で見られてたのか? だったらちょっと悲しくなる。

「濡れ衣だっ。冤罪だっ。大体犯人探しとかするんじゃなかったのかよ!? 遊んでる場合じゃないだろ?」
「まさか。それはそれ、これはこれでしょ」
「そうですよ。せっかくのバカンスなんですから、思う存分楽しまなきゃ損じゃないですか」

 フリフリのレースを揺らしながら、フフフッと妖しく詰め寄ってくるご一行様。あんっ、ちょっと! こんな朝っぱらから、そんなっ!

「ご奉仕してあげるよ、お兄ちゃん」
「ご奉仕って何さー!」



一、意地でも理性を強化する
二、別の何かを強化する

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最終更新:2006年09月04日 16:49