811 名前: 僕はね、名無しさんなんだ 投稿日: 2006/08/14(月) 22:28:03
二、別の何かを強化する
―――世界が。
―――燃えているように熱かった。
俺の部屋に場所を移し、ベッドの上で絡み合った。瑞々しく柔らかい肉体が、交互に、同時に、俺の胸に甘えては離れていく。肺を満たしていく甘い匂い。色とりどりの髪と瞳。倒れ込むように身を委ねるメイドもいれば、恥じらいながら寄り添うメイドもいる。髪の毛を梳けば愛しさがこぼれた。我慢できずに抱き締めた誰かの肩は、折れてしまいそうなほど繊細だった。
「……もう、こんなに大きくして。嬉しいなぁ。興奮してくれてるんですね、先輩」
うっとりとそこを撫でながら囁くはしたないメイドに、お仕置きの意味も込めて口付けする。ちょんと、本当にささやかに触れるだけ。たったそれだけのはずなのに、幸福で胸がポカポカする。それは桜も同じだったようで、いつのまにか二人とも微笑んでいた。
「ずるいわ。シロウ……、お姉ちゃんにも頂戴?」
「あら。次はわたしにしてくれるのよね、衛宮くん」
不粋にも割り込んできたメイド達を、二人一緒に抱き締める。逃がさないよう、ぎゅっと強く。戸惑い身をよじり抜けだそうとする二人に、一人ずつ、大切に丁寧に口付けした。幸せすぎるこの状況に、心からの感謝をあらわす為に。
「まったく……。なんでこんな事になったんだか」
本心とは裏腹にこぼれる台詞。まあ、幼稚でささやかな抵抗だろう。既にこれでもかと骨抜きになってしまったけど、それでもこのメイド達にそれを教えるのは、男としてちょっと悔しかったから。
「それは、シェロのせいですわよ」
最後の一人、ルヴィアにも同じ事をしようかと振り向いたとき、俺の頭は彼女の細い腕に抱き寄せられた。
「ルヴィア?」
上半身ごと倒れ込み、柔らかな何かに着地する。頬に感じる誰かの鼓動。それはとても暖かくて、何故か懐かしい香りがした。
「あなたは遠い場所ばかり見すぎているのです。もう少し……、周りに目をやって下さらないと、私たちがやきもきするばかりではありませんか」
ですからこれは罰なのです、なんて呟きながら、ルヴィアの唇が近付いてくる。そういえば、ルヴィアとキスするのはこれが初めてだな、なんて今さらながら考えてると、突然、彼女の指が押し当てられた。
後少し。ほんの数センチの距離を塞ぐ障害。それが他ならぬルヴィアの指だったから、おあずけを食らったようでじれったい。
「ルヴィア……?」
優しく微笑む彼女の瞳。その光はメイド服なんてものを着込んでいても、日頃の高貴さを損ねていなかった。
「シェロは気付いていないかもしれませんが、これは私のファーストキスなんですよ? それを奪う勇気があなたにありまして?」
「あ……」
クスクスといたずらっぽく笑うルヴィアゼリッタ。それにどんな反応を返せばよかったのか。あんなにも焦がれた数センチが、今はこんなにも遠く感じる。清らかな唇を穢すのは、俺なんかにはあまりにだいそれた……。
一、キスをする
二、俺にはできない
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最終更新:2006年09月04日 16:52