593 名前: ゼロの慎二 ◆mkWK7X3DHc [sage] 投稿日: 2007/10/01(月) 02:26:16
「糞――――なんだよ、なんなんだよあの女! あんなデタラメあっていいのかよ……! ライダーの宝具は一番つよいんだろ? なのにどうして負けるんだよ……! セイバーのクセにあんな宝具持ちやがって、不公平だ、不公平だ、不公平だ……!」
余りの恐怖、焦りで階段を踏み外してしまった。あっ、と思った時には既に体が回転を始めていた。
それが収まる寸前に、背中に衝撃が走った。が、そんなものに構っている隙は無い。早く逃げなければ……。そう体に言い聞かせて、必死に地上を目指す。
先程の光景が脳裏から離れない。天すら引き裂く光が、ライダーを両断する様が。
あの宝具は規格外だ。アレが味方ならばさぞ神々しくみえるだろうが、敵対していた自分には悪魔の産物に他ならない。
「ふ、ふあ、あ――――!」
故に走る。それが先の見えない闇だろうと、あの光よりはマシなのだから。振り返ればそこに眩い悪夢が待っている。後ろを見たら、ライダーの様に跡形もなく蒸発させられてしまうのではないか。そんな恐怖が、限界を超えて身体を動かす。
「はっ――――くそ、くそくそくそくそ……! 何が私の宝具は無敵です、だ!あの口だけ女。よくも僕を騙してくれたな……! 余裕ぶっていたぶってるから寝首をかかれるんだよ、間抜けがっ!」 文字通り必死に階段を駆け下りていると、そこに行く手を阻む物が現れた。
それは光の扉とでも言うべきか。暗闇の中で現れたソレは、本来恐怖の対象どころか安心すらしてしまうだろう。しかし今の自分には、先程の悪夢を思い出させるだけでしかなかった。
「――ひぃ……っ」 喉が引きつるのが分かる。光が恐いのだ。まるで火を恐れる動物みたいに、それから離れようとする。
だが恐怖に竦んだ脚は、そんな事すら出来なかった。否、階段で後退りなどしたものだから、当然のように転んでしまうのは仕方のない事だ。
そこで慌ててしまったのが致命的だった。完全にバランスを崩して、階段から転げ落ちる羽目になってしまった。
その先にあるのは光の扉だったとしても、既に抗う術は持ち得ない。出来ることと言えば、精々叫ぶ事。
「う、うわぁーーーっ!」
そうして僕は光の扉を潜った。この扉が、自分の命を救った事も知らずに。
594 名前: ゼロの慎二 ◆mkWK7X3DHc [sage] 投稿日: 2007/10/01(月) 02:30:27
やがて自分を飲み込んだ光が晴れると、そこには明るい世界が待っていた。急に増えた光量が目を襲う。
至近距離から懐中電灯を覗き込んだ時と同じ痛みが眼の奥に湧き上がる。だが、どうせすぐに収まる物なので意識の外に追いやった。
ふと視線をさげると目の前にはピンク色の髪をした子供が、ジッとこっちを見つめている。だけど僕は子供に興味は無い。すぐさま視線を周りへと移す。
一体此処は何処だよ。流石の僕も慌ててしまっう。当然だろ? いきなり光に飲み込まれたら、見知らぬ場所に来ていたんだから。
それに今は聖杯戦争真っ只中。敵の仕業かも知れないのだから。しかも僕は魔術も使えない上に、サーヴァントはもう居ない。最悪じゃないか。
「なぁ、ここは交換条件といかないか?」
それがこの世界での、僕の第一声だ。決して相手に弱みを見せては駄目だ。交渉とは気合いとハッタリだと誰かが言っていた。ガツンと上からの態度で押し通すしかない。――相手の機嫌を損ねない程度にね。
「悪い話じゃないと思うよ? 他のマスター達の情報も手には入るし、何より僕を殺しても何の得にならないからね」
周囲を見渡すがサーヴァントらしき存在は見当たらない。多分霊体化しているのだろう。油断なんてしない、全力で命乞いさせてもらうよ。
「ほら、令呪もないだろ? 既に僕はマスターの権利すら無い。だから君達には僕を殺す理由は無いんだ」
完璧だ。奪う価値の無い僕の命の対価は、有益なマスター達の情報。断る理由は見当たらない。
すると何故か周りからクスクスと――いや、口を大きく開けて笑っている奴らもいる。平民を召喚したとかなんとか――――何を言ってるんだろう。
「流石ゼロだな。平民を召喚したと思ったら、そいつはいきなり命乞いだぜ? 訳わかんない事言ってるし、ゼロの使い魔にピッタリじゃないか」
その声に反応するように、目の前の少女の顔が真っ赤に染まっていく。
「黙りなさい、風邪っぴきっ! あんたなんかただの梟じゃない。梟なんかより人間の方がましよ。大体その体に付いてる断熱材は飾りなの?年中風邪引いちゃって」
ピンク頭はふんっと鼻を鳴らし、風邪っぴきじゃないとか叫んでるデブを無視すとそばにいた中年男に駆け寄った。
595 名前: ゼロの慎二 ◆mkWK7X3DHc [sage] 投稿日: 2007/10/01(月) 02:33:19
優しげな表情とは逆に、これ以上の問答はないとばかりに引き締められた。それを目にした少女には否の言葉を紡ぐ事は出来なかった。
「……分かりました。ほら平民っ! さっさとこっちに来なさいっ」
「ミスターコルベール、やり直しお要求します。これは何かの間違いですっ! 人が召喚されるなんて聞いたこともありません」
私の使い魔が平民なんかで有るはずがない、とかなんとか――流石の僕も怒っちゃいそうだ。この僕を庶民扱いするなんて……
「おい。さっきから聞いてれば、僕に向かって庶民だの平民だの好き勝手言ってくれるじゃないか」 先程からの話を纏めてみると、僕はあの光の扉でもって召喚された。そして召喚したのは目の前のちびすけ。で、この僕に不満がある――――と言うことだと思う。相手がマスターじゃない。なら下手にでる必要は無い。
「――煩い。平民はだまってなさい」
じろりと睨んだ瞳と言葉には不思議な力が感じられた。そこで取りうる僕の行動は一つしか有り得ない。それはは――――
「……はい」
従うだけだった。
596 名前: ゼロの慎二 ◆mkWK7X3DHc [sage] 投稿日: 2007/10/01(月) 02:34:38
「残念ですがそれは出来ません。召喚した以上、この人が貴女の使い魔なのです。人間がでてきたのならば、それに意味が在るのでしょう。今は解らずとも――――ね」
そう言って優しく微笑む中年男は、まるで学校の先生のようだった――小学校のね。
「――――しかし!」
それでも納得出来ないのかピンクはなおも引き下がろうとはしない。
「――――ミス・ヴァリエール」
中年男の顔は先程の優しげな表情とは逆に、これ以上の問答はないとばかりに引き締められた。それを目にした少女には否の言葉を紡ぐ事は出来なかった。
「……分かりました。ほら平民っ! さっさとこっちに来なさいっ」
逃:ここは戦略的撤退! べ、別に敵前逃亡じゃないんだからねっ
近:大人しく言われた通りにする
夢:あぁ、神様。どうか夢なら醒めてください
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最終更新:2007年10月22日 19:01