710 名前: ゼロの慎二 ◆3WmQZKDzxM [sage] 投稿日: 2007/10/07(日) 05:55:27

続:意識が飛んだのは一瞬だけ。僕らの戦いはまだまだ終わらないっ。

 ――――ガッ……ハッ!
 壁と爆風に押しつぶされた肺から空気が押し出される。呼吸困難からの苦痛で意識が戻る。
 ――頭がイタイ。頭から何かが垂れてくる。恐らくは紅い雫だろう。大した量ではないので無視しても問題ない。
 それより酷いのは、ナイフを持っていた右腕。皮膚は焼け、肉が裂けている。これでは使い物にならない。
 痛みのあまり、再び意識が遠くなる。
 そしてなにより酷いのは喪失感。先程まで漲っていた活力は消え去り、気持ちも冷えてきている。
「どう? これで判ったでしょ。あんたじゃ私にはかなわない。これが貴族と平民の差。覆る事の無い現実。絶対的な理なの」
 その勝ち誇ったような顔――――キニクワナイ。
 その蔑む様な目――――ユルセナイ。
 その勝利を詠う口――――オゾマシイ
 魔術師とただの人間。それは今まで僕を苦しめたモノ。決して認められないモノ。
 ――――認められないならば抗え。気に食わないなら叩き潰せ。許せないならば打ち倒せ。おぞましいならば滅ぼしてしまえっ!
「そう、そんなに自由になりたいなら止めないわ。――――私が手を下してあげる。これがせめてものの慈悲よ、逝きなさい」
 ――ゴツン
 辺りに響き渡る鈍い打撃音。それは目の前の少女の頭から発生していた。
 竜を従えていた女か。一号を止めてるみたいだけど、関係ないねっ!
 今回は邪魔させない。アイツだけはぶっ飛ばす!
 爆風に蹂躙され、混沌と化した食堂の床に転がるナイフ。それを二つ拾い上げる。
 一つでは、また爆発させらたら武器が無くなってしまう。なら複数持てば良い。
 注意していれば、爆発させられる方を投げ捨てる余裕は十分にある。
 ナイフを拾い上げると、再び力が湧き上がる。腕の痛みも引いていく。靄のかかっていた頭の中身も、晴れ渡っていく。
「ほらルイズ。謝って」
「嫌よっ!私は悪くないっ」

711 名前: ゼロの慎二 ◆3WmQZKDzxM [sage] 投稿日: 2007/10/07(日) 05:58:31

 謝る? そんな事で収まるとでも思ってるのか、この馬鹿達は? 隙だらけだよ……
 体を低く縮め、筋肉という弦を引き絞る。限界まで蓄えられた力で、この体を矢とする。
 これで終わりだ。死ぬのはお前なんだよっ!
 限界を超えた跳躍に耐えられず、床のタイルに亀裂が奔る。それ程までに高速で飛来する『矢』に反応したことは賞賛に値しよう。
「――――え?」
 だが避ける事は出来ない。反応したのは眼だけ。動くものを視線で追うという、人間の本能とでもいうべき性質がそれをさせただけにすぎない。だから体は動かない。間に合わない。
 しかし、僕の手に握られたナイフが彼女を傷付ける事は無かった。
 それは偶然。それは必然。爆風に吹き飛ばされ散乱していた椅子やテーブル、料理や食器の数々。何の事は無い。目標が、それに足を取られて転倒していたのだ。
「――なっ……何よ、今の……人間の動きなの?」
「はっ! 運だけは良いみたいだなっ。どうだい、君の言う覆らない現実とやらが覆った気分は?」
 口元がつり上がるのがわかる。この優越感――たまらないね。相手の命を握っているという事実。僕の意志一つで詰める蕾。その相手が、先程まで自分を見下していた者なのだ。 さぁ、これでサヨナラだ……
 「――――スリープ・クラウドッ!」
 突然視界を靄がつつむ。それと共に平衡感覚が薄れていく。意識を保てない。頭がクラクラする。まるで何日も眠らなかった時に訪れる、限界を超えた先にある感覚。
 ――――もうだめだ。なにもかんがえラレなイ……

敵:もう貴方とはやっていけないわっ! 実家に帰らせて頂きます
仲:喧嘩の後は仲直り。漢は拳で分かり合う悲しい生き物なのだよ

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最終更新:2007年10月22日 19:26