736 名前: ゼロの慎二 ◆mkWK7X3DHc [sage] 投稿日: 2007/10/08(月) 01:17:04

敵:もう貴方とはやっていけないわっ! 実家に帰らせて頂きます

 目覚めは激しい痛みと共にやってきた。それは体中、中でも右腕は特に酷かった。
「い゛っ――――てぇ……」
 寝返りを打つだけで、身体が悲鳴をあげている。痛みに思わず泣きそうになってしまうが、なんとか堪える。
 あれ? なんで僕はこんな所にいるんだ……
 そこは見知らぬ天井。あのおぞましい蟲が支配する館ではない。あのすえたような鼻をつく臭いが無いのだ。
 いまだぼやけた意識を巡らせ、現状を認識しようとする。
 ――――そうだ。僕は……訳の分からない所に召喚されたんだっけ。そして――召喚者と喧嘩コロシアイになって……そうだっ!あの後どうなったんだっ?
 勢い良く起きあがろうとしたが身体は言うことを聞いてはくれない。
「――ア……がっ……」
 身体の答えはこの苦痛。おそらく僕は負けたのだろう。
 そこで疑問が湧く。ならば何故自分は生きているのか? と。あの時はお互い相手を殺すつもりだったのは間違い無い。ならば負けた僕が生きている道理は無いのだ。いや、生きているのだから文句はない。――――無いのだが納得はいかない。
「――――糞っ」
 それが何にたいする罵倒なのかは、自分にもよくわからなかった。
 さて、目が覚めたのは良いが、何もする事が無い。いやする事、すべき事はあるのだ。あるのだが、出来ないのでは仕方がない。
 ――ガチャリ
 突然開いた扉へと視線を向ける。たったそれだけで、涙が出るほど身体が痛い。
 扉から入ってきたのは、僕をこの世界に呼んだ少女。僕をこの世界から消そうとした悪魔。
「――――目が覚めたの?」
 少女は少し気まずそうに声をかけてきた。それもそうだろう。僕達は殺し合いをした仲なのだ。平然となど出来る筈がない。
「――――ああ。死ぬ程身体が痛いけどね」
「それはそうよ。完全骨折、亀裂骨折併せて十数カ所。右手はグチャグチャになってたんだから。それでも治療はしたのよ……」
 右腕をみると、確かに爆発で吹き飛ばされた時よりは大分マシだった。

737 名前: ゼロの慎二 ◆mkWK7X3DHc [sage] 投稿日: 2007/10/08(月) 01:22:46

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
「――は?」
 なんだ、今の呪文? 思わずすっとぼけた返事をしてしまう。
「私の名前よ」
 今の長ったらしいのが彼女の名前らしい。はっきり言って、一回聞いただけでは覚えられない。
「ふぅん。それで僕はこれからどうなるんだ? 傷を治したって事は、すぐに殺されたりはしないんだろ」
 少女はジッと此方を睨みつける。自分は可笑しな事を言ったのだろうか?
「――名前」
「え?」
「――――あんたの名前よっ! 人に名乗らせて、自分は名乗らないの?」
 名乗らせたって……勝手に名乗ったんじゃないか。とは言え、ここで返さないのも失礼だろう。
「――山田太郎だ」
 失礼だけど、正直に教えてやる義理もない。
「ヤマダタロウ……変な名前ね」
「お前、失礼な奴だね。人の名前に」
 というか信じてる? そうか、こんなボケが通じる訳ないか。訂正するのも面倒なので放置しよう。
「それで、あんたをどうするか……って話だったわよね。殺したりしないわ。あれはちょっとムシャクシャしてたのよ、水に流しなさい」
 この女、ムシャクシャしてたってだけで僕を殺そうとしやがったのか?
「――おい」
「何よ、文句でもあるの?」
 当たり前だ。殺されかけたのに、水に流せと言われて、はいそうですかなんて言えるわけがない。
「馬鹿か、お前。そんな簡単に許せるわけ無いじゃないか」
「細かい奴ね。器の小ささが知れるわよ」
 やっぱコイツとは、根本的に合わない。大体、殺されかけた事は小さくなどないだろうに。
「――――仕方がないでしょっ! 自分の一生がかかったコントラクト・サーヴァントで平民なんか出てきたんだから……
メイジの能力を表す使い魔が、何の力も無い平民だったのよ? その意味が分かる? 私は『世界』に無能だと言われたの。
貴族の家に産まれたのに、魔法が使えない。家族にすら同情の目を向けられる。そんな私の気持ちがあんたに分かる? 
私は皆からゼロの蔑称で呼ばれてる。そしてそれはあんたが証明した。私には魔法が使えない、才能が無いってね」
 それは鬱憤をはらすように。自分自信に言い聞かせてるようだった。だが今の言葉に疑問を感じる。

738 名前: ゼロの慎二 ◆mkWK7X3DHc [sage] 投稿日: 2007/10/08(月) 01:26:00

「君達の言う魔法ってのは、空を飛んだり空気の塊を叩きつけたりする事か?」
「ええ。それならフライやエア・ハンマーで出きるわ」
 そうか。この世界の魔法は僕達の世界の魔術とイコールなわけだ。
「なら君は魔法を使っていたじゃないか。君の魔法で僕の腕はこんなになってるんだ」
 ほらっと、腕を掲げてみせる。しかしルイズは首を振る。
「――違う。それは魔法が失敗しただけ。あれは爆発を起こそうとした訳じゃないの。あの時、ナイフを別の物に錬金しようとしたのよ。私は魔法を失敗すると爆発するのを利用しただけ。私に攻撃魔法なんて――いえ、まともな魔法なんて使えないわ」
 それは違う。魔法――魔術が使えないって言うのは発動すらしない事なのだ。それは僕が一番知っている。
「いや、やっぱり君は魔法を使ってるよ。使えないって言うのは、僕みたいな奴を言うんだ。君は魔法を使える。ただ失敗してるだけだね。僕から言わせれば、それは贅沢なんだよ。失敗しようが、使えるだけ良いじゃないか。成功する可能性があるだけ良いじゃないか。僕は魔術師の家系に産まれた。それも結構な大家のね。でもそれは僕に受け継がれなかった。それでも諦めきれなくて、必死に知識を集めたよ。そうすれば自分もいつかは魔術師になれると信じてね。だけど学べば学ぶ程、それが無駄だと理解した。そんな僕に言わせたら君は我が儘なんだよっ」
 ルイズの言葉が癪に触った。魔法が使えない? ふざけるな。魔術師になるために聖杯戦争に参加した僕にとって、彼女の言葉は心底頭にきた。
 単に失敗しているだけなのに使えない? それは失敗する事すら出来ない僕への嫌味か?

739 名前: ゼロの慎二 ◆mkWK7X3DHc [sage] 投稿日: 2007/10/08(月) 01:29:26

「それで僕に八つ当たりの結果がこれか――全く迷惑極まり無いねっ!」
 反省はしてるのだろう。反論はなかった。
「それで結局僕はどうなるんだ? そんなに僕が嫌なら、元の世界に帰してくれよ」
「――――出来ないの」
 ナニヲイッテイル
「あの儀式は呼び出すだけのもの。帰す方法はないわ」
「――おい、どう言う事だよっ……!」 かっとなり、胸倉を掴みあげる。身長が低く、線も細い彼女の体は易々と持ち上がった。
「元々人間が出てくる筈がないのよっ。使い魔になった動物は文句を言わない。今までにこんな事無かったの……帰る方法なんて誰も知らないのよ」
 ――――それじゃあの家に■を独りにする事になるじゃないか。
「おい、そんな冗談はわらえないよっ! いいから僕を元の場所に帰せ!」
「――苦しいわよっ! その手を離しなさい。」
「離したら帰してくれるのか? 元の世界に帰れるのか?」
 無駄な事は分かってる。それでも聞かずにはいられない。僕は帰らなくちゃいけない。じゃなきゃ■が……
「――――ごめんね、ヤマダタロウ」
 それは彼女からの初めての謝罪だった。
「あ~その名前嘘だから」
 その後、滅茶苦茶蹴飛ばされた。

還:僕はなんとしても元の世界に帰らなくちゃいけない
住:諦めてこの世界での身の振り方を考える

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最終更新:2007年10月22日 20:15