373 名前: ??? ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/09/20(木) 21:05:14
――Interlude side Little princess
――――燃え盛る炎。赤い森。崩れゆくキングダム。穏やかに鳴く梟。
………無念。
何がいけなかったのか? 何が私達を追い詰めたのか? 何故私は涙を堪えて必死に逃げ回っているのだろう? わからない…。私は今ほど自分の幼さがこれほど憎く思えたことはなかった。
「皇子……いえ、姫。必ずしも正しい者が勝利するとは限りません。正義に『絶対』という言葉などありません。時には悪が勝つこともあるのです」
「父上の正義は…綻んでいたのか? 私は……父上ほどの正義の人を未だかつて見たことがない。民に尽くし、国に尽くし、より良い未来を創るために悩み抜いたあの方が、負ける、だなんて…」
「姫、先程も申しましたとおり、『絶対』などどこにもないのです。あるとすれば、人心を尽くし天命を待つのみ…。あらかじめ約束されたことほど信用できぬことはありませぬ」
紅く燃えた城に振り返る。中には父上、そして母上がいるはずだ。
巨大な炎が城をすっぽり飲み込む。……父である王の死と共に、キャメロットは、落ちた。
―――息が苦しい。呼吸が上手くできない。涙で視界は滲み、馬鹿みたいに垂れた鼻水が口を濡らす。胸が痛くて痛くて……堪らない。
「…………急ぎましょう。奴らは我々に追っ手を差し向けているはず。ここで王家の血が途絶えては、国の復興は実質不可能。―――姫、あなたには是が非でも生き残ってもらわねばならないのです」
彼の言葉に応えたくとも、胸の痛みで口が開けない。代わりに何とか頭を縦に振ることで賛同の意を示す。私も王族の端くれ。そんな当たり前のこと、言われるまでもない。
――――待っていて欲しい。
いつになるかはわからない。しかし祖国よ、待っていてくれ。私は必ず帰ってくる…………!
「―――いたぞ!! 皇子だ! ペンドラゴンの皇子がいたぞぉ!!」
どこからか声が響いた直後、わらわらと異形の者どもがこちらに向かって突進してくる。
………巨大な芋虫、カラスの頭をした人間、人間にしてはいかつすぎる体格をした鬼、そして二足歩行のカメ。ある者は槍を持ち、ある者は素手で、私を殺しにやって来る―――!
「いかん! 姫、ここは私が食い止めます。貴女は全霊をもって逃げ延びてください!
―――いずれ仲間が集まり、反撃に移る機会は必ず訪れます。それまで、貴女は身分を偽って過ごすのです。いいですね、絶対、その時が来るまで貴女の血筋がバレるようなことがあってはなりませんよ!?」
「……うう、うえっ、うええっ……」
走る。騎士に言われたとおり、全力で走る。騎士の逞しい背中に守られ、私は夢中で駆けた。儚い騎士の真摯な忠義、そして哀愁に涙が玉のようにこぼれたが、必死に堪えて足を動かした。枝を踏み、小石に躓き、誰かの死体を飛び越え、足に血豆が出来ようとも私は走った。
限界などとうに超えている。でも、走って気を紛らわせない限り、この大きすぎる空虚感に呑み込まれそうで怖いのだ。もしソレに呑み込まれれば、私は消えてしまう……。
――――そうして、気付けば夜は明け、上を見れば、見慣れた青い空が私の上に照らされていた。辺りの豊かに生えた草原が、やけに爽やかだ。
………周囲を見渡すが、追っ手はいない。私は、あの悪夢の闇から解放されたんだ―――。
ふと喉の渇きを覚え、近くにあった湖に身を乗り出してみれば………そこにはいつもの、鏡で慣れ親しんだ自分とは違い、みすぼらしい少女が映っている。身に着けていたはずの鎧はいつの間にか剥がれ落ち、色とりどりの装飾品も、またどこかに落としてしまっていた。
平民――――。もう私は王族などではない。ただの、どこにでもいる、少女…。
「でも、父上、母上……仇は必ず討ってみせます。そして国も必ず取り返してみせる。それまで…………どうか、私に勇気をください―――」
――Interlude out.
375 名前: ??? ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/09/20(木) 21:08:23
少女は全てを奪われた。
父母も。豊かさも。国も。
救いの手はなく、抗うだけの力も持たず。
求められた「王」としての役目は、少女から家族や友人、
普通の生活や穏やかな心、そして普通の少女としての生き方も奪った。
目の前に道はあるのか? その結末には何が待っているのか……?
いずれ少女は抜けない筈の剣を抜く。
血と吐しゃ物にまみれ。一抹の恐怖と、大きな希望を抱え。
剣を胸に、彼女は人であることすらやめた。
Ⅰ:泣きながら丘を駆ける幼き少女
Ⅱ:木刀を振りながら、必死に鍛錬に勤しむ少女
Ⅲ:豪華な剣を抱え、1人街路を歩く華奢な少年
投票結果
最終更新:2007年10月22日 19:43