452 名前: ??? ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/09/24(月) 00:21:49
彼女の視線の先には、小柄な少女がいた。
ウェーブがかった銀髪。着ているだけで彼女の職種を特定出来る黒い服。相変わらず四肢に巻きつけられた包帯が痛々しい……。そしてその薄い金色の瞳は、まるで闇夜にぼぅと光る月だ。
だが勘違いしてはいけない。その儚げな印象とは裏腹に、彼女の腹の中には、それはもう、とんでもない位のエゲツなさを秘めていたりするのだから……。
「カレン、ね。どうしたのかしら? 彼女が外に出歩いているとこ、今まで見たことないんだけど……」
「俺も……」
――――別段、彼女は引きこもりとかじゃない………ハズ。
以前直接彼女から聞いたことだが、何でもカレンは、悪魔祓いとしての特製故か、周囲の霊障をその身を以って体現してしまうという厄介な体質を持っている。その腕に巻かれた包帯は、それによって浮き出た傷が原因だ……。
だから無闇に外に出歩けば、いつ霊障が自分を襲ってくるかわからないし、むざむざ傷を作りに外へ出る理由なんて、まずないだろう。
そんな彼女を、悪魔探知機として使っていた教会の連中には怒りが沸いてくるが………だが、この冬木の監督役をしている限りは、それほど酷い傷には見舞われなくなった筈だと信じたい。だって遠坂がこの町をしっかり管理してくれているし、俺やセイバー達もいるのだから。
「というか、体質以前に、カレンってインドア派じゃなかったっけ? まさかとは思うけど、聖杯戦争の影響で、町に変な怪異でも起こってるんじゃあないでしょうね……」
「それはないと思うけど。俺、時々キャスターと会って話す機会があるんだけど、そんな話、全然聞かないぜ」
「うーん……」
顎に手を添えて考え込む遠坂。魔術の専門化(スペシャリスト)であるキャスターが何も言ってこないのだ。俺達がどうこう言っても仕方がないと思う。
―――それでも、遠坂は傾げた首を戻さない。
別にそんな大げさに考えなくてもいいと思うが………。それにわざわざ予想しなくたって、堂々と声をかけて、本人に何をしているのか聞けばいいだけのこと。まだこちらに気付いていないカレンに向かって、俺は駆けて行った。
「――――――あっ、危ない、士郎!?」
「……え?」
突然の制止を呼びかける声。すると――――俺のすぐ横をぎりぎり通り過ぎ、そしてカレンのいる場所に向かって、大きなトラックが突っ込んでいった。
「う、うわ、あ、危ないッ!? カレン!!」
のろのろと首をこちらに向け、自らに突進してくるトラックに、ようやく気付く。―――駄目だ、反応が遅すぎる! ………ふと、以前カレンに言われたことが頭に浮かんだ。霊障の影響で、彼女は力いっぱい走れない体なんだって!
「――――くそっ! 投影開始!!」
右手をトラックに向けてかざし、いつもの言霊を紡ぐ。後ろで遠坂が何か言っていたが構うものか。目の前の人を助けられず、何が正義の味方か―――!
「熾天覆う七つの円環(ローアイアス)!!!」
ピンク色の壁が彼女の前に立ちはだかり、鉄の塊から守る。………七枚の筈の花弁は、せいぜい一枚しか再現出来なかったが……それでも、トラック一台からは十分だったようだ。呆としている彼女を、優しく包み込む。
……………やっちまった。魔術の秘匿は、絶対。参ったな……協会から、凄腕の魔術師達が俺を殺しにやって来るのかも……。
―――――だがこの先の展開を、誰が予想出来たであろうか。
ローアイアスから白い光が溢れ…………いや、俺自身から溢れた光が、俺とカレン、そしてトラックを飲み込んだ。包まれたんじゃない、飲み込まれている。ブラックホールか何かのように、この光はどこかへと繋がっているんだ―――!
……遠坂がまた何か叫んでいた。でも、何故かはわからないけど、耳鳴りが鳴っているみたいで、聞こえないんだ………。マズイ、引きずり込まれる!
だがパニックを起こしている俺をよそに、同じく引きずり込まれている筈の彼女はいたって冷静に金の瞳で俺を捉え、そして弱々しい腕で俺の手を掴んだ。
「――――衛宮士郎」
何故か。
カレンの声だけは聴こえていた。
Ⅰ:騎士の国、サンドリア王国
Ⅱ:錬鉄の国、バストゥーク共和国
Ⅲ:緑の国、ウィンダス連邦
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最終更新:2007年10月22日 19:49