463 名前: ??? ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/09/24(月) 21:02:13

「――――――もし……。もし、そこの方!」
「う、う~ん………」
「あ、良かった、目が覚めたのですね」

 優しい声で目が覚めた。
 閉じていた瞳をゆっくり開けて、目の前を見れば……その声の持ち主は、穏やかな顔をした女性。静かな微笑が、彼女の人格を物語っている。その人が倒れている俺を、綺麗な丸い瞳で上から覗き込んでいる。……ああ、こんな癒し系の人、久々に見るなぁ。ウチの女どもは殺伐としていかん。
 と、回想に耽っている俺を、少し不振な目で見る彼女。っと、何か口を聞かないと。

「……えっと、キミは?」
「え、あ、はい。コーネリアと申します。あの、大丈夫ですか……?」
「コーネリアさんか。はじめまして、俺は衛宮士郎」

 コーネリア……外国の人だろうか? まぁ外国だろうが何だろうが、セイバーもライダーも日本人じゃないんだし、そう驚くことでもないが。
 時に彼女の言葉に違和感を覚え、辺りを見回せば………俺は知らない街の中に居た。しかも広場のど真ん中で寝転がっていたようであり、人々の注目を一身に集めている。

「っとっと、な、何だあ?? ここ、どこ……?」

その言葉がまずかったのか、それまで聖母のような顔をしていた彼女の眉間に、皺が寄る。実に不可解な……俺のことが理解できないといった素振りだ。

「ここはバストゥーク共和国の商業区ですが……。あの、何度も言いますが、本当に大丈夫ですか?」
「バス……トゥーク???」

 知らない。もしかすれば外国の地名かもしれないが、まず日本じゃないことだけは確実だ。だが俺っていつ海外旅行したんだっけ?? それにこのコーネリアさん、妙に日本語ペラペラだな……。

「あの……」

 まずは状況整理だ。初めに、何故俺はこのバストゥークとやらにいるのか? ………これは俺が最も知りたいことではあるが、いくら頭を捻っても、何も出てこない。確か下校時に遠坂と会って、それで偶然カレンにも会ったってことぐらいしか思い出せない。

「すまない、いくつか聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「はい、構いませんよ。別に用事もありませんし」
「あのさ、俺の他に近くに倒れてる奴いなかった? えと、髪を両側に括った赤い服の女性と、銀色の髪をして、黒い服を着た女性なんだけど」
「いえ、知りませんけど……。私があなたを見つけた時には、周りに誰もいませんでしたよ。通行人の方々も、いつの間にか、気付かない内にあなたが倒れていたと言っています。えっと……『冒険者』の方ですか?」

 冒険者? 冒険者って、あのアマゾンをカヌーで渡ったり、未発掘の遺跡を調査したりする、いわば世界不○議発見のアレ……? 遠坂やカレンのことも気にはなったが、でもその単語が今ここに出てくる理由がわからない。

「どうしたの? コーネリア」
「あ、グンバ……」

 少しも話が進まない状況に業を煮やしたのか、1人の子どもが俺達の前に割って入ってきた。俺も声を聞いて、そいつが普通の子どもなんだって思っていた。うん、思っていたんだけど……。

「う、うわ! 熊!? 熊の子ども……!?」

 思わずそう呟いてしまったと思った。だって、その子の容姿が、どう見ても熊が髪を残して体毛を剃ったかのようにしか見えなかったのだもの。サイズこそ小さかったが、犬のような黒い鼻と灰色の肌が、彼が人間でないことを示している。

「ひどいな。『ガルカ』を見るのは初めてなのかい? 確かに人間族の中では希少種だけど……それでもどこの街にも1人はいると思うんだけどなぁ……」
「………困りましたね、もしや頭を強く打ったのかもしれません。少し待っていてください、シドさんを連れてきますので」

 ……なんて失礼こと言って、コーネリアさんはどこかへと駆けて行く。俺の傍には、つい熊って言っちゃった、それでも熊っぽい子だけが残った。

464 名前: ??? ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/09/24(月) 21:03:00

「………ここ、商業区じゃ別にどうってことはないけど。鉱山区でそんなこと言っちゃあ駄目だよ、お兄さん。特別に忠告してあげるけどね、『ガルカ』のみんなは『ヒューム』に相当敵愾心を抱いてるんだ。だから最悪、殴られるだけでは済まなくなるかもしれない」
「あ、ああ、わかった」

 本音を言えばあまりわかってないが、この場ではそう言い繕って置くのが最良だと、俺の中で声がする。それにこの子には悪意が感じられない。純粋に親切心で忠告してくれているのだ。

「お兄さん記憶喪失なのかい? どうも言動が妙だね。多くの『ヒューム』はここバストゥークが出身なんだけどな……。それとも『エルヴァーン』達のサンドリアが出身? それとも『ミスラ』と『タルタル』の国であるウィンダスの出身なのかな?」
「????」

 訳がわからない。ヒュームやらエルヴァーンやら……この子は何が言いたいのだろう? 全く話の取っ掛かりがつかめない。それにバストゥークを始め、サンドリアやらウィンダスやら、全然聞いたことがない国名ばかりじゃないか。そもそもここ、日本じゃないとしたら、どの地方に当たるんだ???

「ね、ねえ君。ここってヨーロッパなのかい? フランス? イギリス? それともスペイン?」
「解らないな……。お兄さんは何を言いたいんだい? 言いたいことが全く解らないよ。……………あ、そうだ! お兄さんもしやアトルガン出身だね!? それじゃあここ一帯に疎いのも頷ける。あそこはつい最近まで鎖国状態にあったからなあ。情報の行き来なんてなかったんだし」
「アトル、ガン??」

 ―――駄目だ。まるで宇宙人と会話している気分になってきた。世間では常識として片付けられていることも、この少年には一つも通用しない。それどころか訳のわからないことばかり言いやがって……。
 徐々に苛立ちが積もり、普段の俺からは考えられないような暴力的な気持ちになっていく。この子どもに溜まった鬱憤を思い切りぶつけてやりたい。そうしたら少しは気が晴れるかもしれない。

「いや、違う、か……」

 そんなの正義の味方にあるまじきこと。子どもに、ましてや親切に俺に構ってくれるこの子に暴力なんて振れない。三流の安っぽい悪役なら話は別だが。
 安易な行動をとろうした自分に、強烈な嫌悪感が募ってく。

「お兄さん、元気をだして……。コーネリアを見たろ? 大丈夫、ここは親切な人がたくさんいるよ。きっと何とかなる。――――幸いお兄さんは『ヒューム』だしね……」
「ん? 何か言った?」
「いや、別に。そうそう、第5の可能性を忘れていたよ。お兄さんザルカバードの出身という可能性もあるね。お兄さんが悲しそうなのは、そのせいなのかもしれない……。無理もないよ、国、獣人どもに滅ぼされちゃったからね………」
「ザルカバード?」
「ありゃ違ったかな。それともただ記憶喪失なだけかい? ま、何にしてもそう焦ることはないさ。手がかりはたくさんある訳だし、工房長のシドさんもきっと親切にしてくれる筈だよ」

 そうは言うが、この子やコーネリアさんと俺には何か決定的な溝がある。それが何かまではわからないが、それが埋まらない限り、もしくはそれをはっきりと認識しない限り、いくら意思の疎通を試みたところで無駄ではないだろうか。
 ―――情報が圧倒的に足りない。何故俺はここに居るのか? ここは一体どこなのか? まずはそれを把握しないと話にならない。そのために俺がまずすることは――――。



Ⅰ:ここで大人しく待つ
Ⅱ:街を探索する
Ⅲ:街の外へ出る
Ⅳ:とりあえず腹が立ったので目の前の子どもを殴る

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最終更新:2007年10月22日 19:51