553 名前: ??? ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/09/28(金) 23:49:26
ドン!
「―――え?」
人影がカメにタックルをかます。俺の上に図々しく馬乗りになっていたカメは、またもや無様に転がっていった。
疑問はすぐ解けた。誰だか知らないけど、この人―――俺を助けようとしてたんだ。
予想外の救援に、勇気が湧いてくる。誰だか知らないが、ありがとう。ここから思い切り反撃してやる―――!
が。これもまた予想外。難なく起き上がってきたカメに、その人影は拍子抜けするほど簡単に吹き飛ばされてしまった。「あうっ」と漏らし、地面に蹲ったまま動かない。……そう、いくら感謝してもし足りない救援者は、ちょっと、いや、かんなり弱かった。
「お、おいおい……」
思わず尋常じゃない失望感に包まれるが、そうも言ってられない。カメの興味が俺から離れて、気絶したそいつに向けられたのだから。―――何てこった、これじゃミイラとりが何とかじゃないか……!
ふと、目を凝らしてそいつを見れば、妙に小さな体格。細い手足。――――なんでさ、これって明らかに、子どもじゃん…………。勝ち目がないのにむざむざ立ち向かうだなんて……。彼(彼女?)の浅はかすぎる蛮勇に、助けられたことも忘れて、ムカッ腹が立ってきた。
「クソッ、馬鹿野郎!! ―――投影開始。おい、カメ! お前の相手はこの俺だ!」
俺の挑発が効いたのか、くるりと振り向き、好戦的に槍を構える。……今度は負けない。知ってたかい。正義の味方ってのはな、怪人に襲われている子どもがいれば、絶対に負けないものなんだぜ―――!
「クェェェェッ!」
断末魔。何をしようと寡黙を守っていたカメも、今度ばかりは堪えたのか、耳を塞ぎたくなるような甲高い鳴き声をあげた。と、同時に顔に粘度を含んだナニカを大量に浴びせられる。熱い。
「―――はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
乱れた息だけが荒野に響く。終わった。倒れたカメは、今度こそ立ち上がらない。怪物の喉元に刺さった剣を抜く。ずぼっ、と音をたてて、ソレは赤い刀身を現した。そして、崩れ去る。
いくらヒトとかけ離れた生物とはいえ、他人の生を奪った罪悪感、というのも一応あることはある。嫌悪感もそれなりにある。だが何よりも、兎にも角にも、疲れたの一言しか浮かんでこない。早く帰って、寝たい。
「はぁ、ふぅ…………ふぅ~~~」
呼吸を整え、興奮しきった頭を冷やす。ぼんやりとしか見えてなかった景色が、ピントを合わせるごとく、見えてくる。あ、もう夜明けじゃん。空は既に薄くなり、白い光が溢れてきている。爽やかな冷たい空気が、疲れた体に響く。
――――そういえば何か忘れているような気がする。何だっけ? 大事なことの筈なんだけど。
「―――あ、子ども……」
……我ながら呆れる。その子のために今まで戦っていたというのに、いつの間にか、戦う理由を忘れるほどに殺し合いに熱中してしまっていたとは。首を左右に動かせば――――いた、まだ気絶している。
本音を言えば、この子のことなんて忘れて、すぐにでも気絶して休みたい所なんだけど……だが、先程の脅威を見る限り、ここに残るのは得策ではないようだ。よろよろと立ち上がり、寝転がっている小さな体を抱きかかえる。命の恩人だ。丁重に、注意深く包み込む。
554 名前: ??? ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/09/28(金) 23:50:15
「っと、髪、長いな。女の子かな? 綺麗な金髪だな」
顔は俯いて見えないが、その光輝く金髪が、彼女の端正な顔つきを予想させた。だが、今までどんな生活をしてきたのか、みすぼらしい服はボロボロだ。所々破けて、肌が見えちゃっている。女の子なのに、ちょっと気の毒だ。
それよりも一刻も早く、ここから立ち去りないと。再びあのカメみたいな奴が来れば、やりすごせる自信など、ない。魔力も底を尽きかけている。しかも、軽い筈のこの子の体が、妙に重く感じる。腕が痛い。
「ふ~~~……」
思い出す。みんなのことを。桜。遠坂。藤ねえ。一成。ライダー。慎二。ついでにガングロ。この世界にいるのかもしれない、カレン。そして―――セイバー。……俺がこうして歩けるのも、彼女が誇りの意味を教えてくれたから。どこまでも気高い君が、俺に勇気を与え続けてくれるから。
「帰ってみせるさ。いきなり消えちゃった俺のこと心配しているかもしれないけど……でも、必ず帰ってみせる」
桜だって、一成だって、まだ俺を必要としてくれているだろうし、このまま消えるのは後味悪すぎるだろ。せめて何かしら一言くらい言ってやらないと。
考え込んでいるうちに時が加速していたのか、俺が出て来たバストゥークの門が見えてきた。いや、門というか、ありゃ洞穴だな……。来る時には気付かなかったが、あの街、山に囲まれた中に立てられていたようだ。なるほど、それならあのカメのような怪物からも、安心だ。
急ごうと駆け足で進む。が、何故だかガクンと足がくの字に曲がり、それは惚れ惚れするほどの見事さで、ひっくり返っちまった。途中、慌てて、負ぶっていた女の子を胸元に抱きかかえる。
「つっ、てぇ~……あ、危なかったぁ……。でも、もう、駄目だ……。立て、ない」
体に溜まりに溜まった疲労はピークに達そうとしていた。当然だ。今日……いや、この2日間、色々なことがあり過ぎた。動きたくとも、重くて体が持ち上がれない。オマケに目も幕を閉じようとしていた。
ぼんやりと、胸に抱いた、温かい少女を見つめる。俺が死ぬのは仕方ないけど、この子を死なせるのは待ってほしい。せめて、街まで送り届けてやりたかった……。
―――だが俺は、ここで本日最大の衝撃を味わうこととなった。
「………………あ?」
滑らかな金髪。閉じていて尚、凛とした瞳。深い碧眼。端正な顔つき。そして雄々しくそそり立ったハネ毛。
腕の中の幼き少女の顔は。
かつて俺を導いてくれた騎士王その人だった。
Ⅰ:目覚める少女
Ⅱ:悪魔に憑かれたモノ
Ⅲ:真龍の王、襲来
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最終更新:2007年10月22日 19:58