564 名前: ??? ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/09/29(土) 23:58:04

―――Interlude side Ortensia


 窓を見れば、忙しく走る冒険者。重そうな鎧を身に着け、歩くたびにガッシャガッシャと耳障りな足音を響かせる。何故彼らはこれほどまでに走るのか、理解できない。猫やら熊やら雑多な種族が、言ったり来たりを繰り返している。
 青い空を見る。空を飛んでいる鳥が大喜びしそうな快晴だ。ああ、早く曇らないものか……。

「―――カレン。俺の話を聞いているのかい?」

 いけない、彼の話があまりにつまらなかったものだから、つい余所見をしてしまった。この話は一応大事な話に分類される。例え眠たくとも無理にでも聞かなくては。
 テーブルに置かれたコーヒーを一口啜り、改めて視線を目の前の男に移す。

「失礼、アルド。さあ、私には構わずに続けてください」
「…………君が聞かなければ意味はないのだがね。まあいい、続けよう。今度は人間族と獣人について話そうか。―――そうだな、まずはクリスタル戦争から話すとしよう」

 基礎となる常識は既に彼から聞いている。5つの種族、4国、獣人――――。まったく、あの駄犬、厄介な世界へと引きずり込んでくれたものだ。

「――――今から20年前。天晶暦862年から864年にかけて我々5つの人間種族と、突然現れた闇の王率いる獣人連合との間で繰り広げられた、大きな戦争……。
 今でこそ各国は良好な関係を築いているが、昔は仲が悪くてね。その隙をつかれて開戦当初は人間側が劣勢だった。今にしてみれば、何故手を取り合うことを考えなかったのか、とても不思議に見えるよ。
 それの醜態を見かねた我がジュノ大公、カムラナート様の呼びかけにより、各国のトップとの会談が開かれた。……サンドリアの龍王、バストゥークの大統領、ウィンダスの星の巫女、ザルカバードのペンドラゴン。
 そうして彼らはようやく纏まり、力を合わせ、初めて獣人どもに対して優勢に立つことができたんだ。その意味では、大公の功績は計り知れないだろうよ。
 そしてついに862年12月のジュノ攻防戦で初めて勝利した後、863年の最大の決戦、ザルカバード会戦で辛勝した連合軍は、余勢を駆って獣人どもの拠点、ズヴァール城を陥落。それぞれ5種族の英雄により闇の王は倒され、ここに一応の終着を見せた、という訳さ」

 さしずめ大魔王と勇者サマ御一行、といった所か。
 私はテレビゲームをやったことはないが、中々に素敵な王道的展開ではないか。

「タブナジア、というここからずっと西にあった大国も必死の抵抗をしたが、結局はその戦争で滅んだ。獣人らもいくらかの種族が絶滅した。今もなお獣人どもとの戦いは続いているが、双方にこれほどの痛手を被った争いは、未だかつてない。何人も、死んだよ……」
「アルド……?」

 一瞬、能面を気取っていた目の前にいる男の表情に、僅かな陰りが見えた。何だろう、それまで陰惨な歴史を淡々と話していたというのに、そこだけが妙に感情的だ。―――男の歳は恐らく30前後。彼もそのクリスタル戦争とやらの経験者なのだろうか……?

「いや、何でもない。―――そしてしばらく続くのが平穏の時代。活発だった奴らもなりを潜め、滅多に表に出ようとはしなくなった。人と獣人どもの歴史を見ても、これほど安らかな時代はあるまい。先人達の屍の上に成り立っている、ということを忘れてはいけないが……。
 しかしだ。ここ最近、大人しかった奴らの動きが妙に活発になってきている。何を企んでいるかは知らないが……だがそれなりの勝機を持って行動していると俺は睨んでいる。各国のトップどもも危機感を覚えているようだ。冒険者たちに頻繁に調査を依頼している。
 …………所詮連中は男神プロマシアの嫉妬によって創られたもの。俺たち人間とは決して相容れないようにできているのさ。俺も、獣人どもをのこのこ生かす気は全く無いがね。いずれ絶滅させるつもりさ。―――――――カレン?」

 ……いけない、また余所見をしていた。彼は紳士的ではあるが、話が決定的につまらないのが玉にキズだ。
 と、いきなり扉がバン、と音を立てて開かれた。……部下の教育くらい徹底して欲しい。

「おい、来客中だぞ!」
「いえ、すみません、あの、ボス……」

 しどろもどろに答え、私を横目で見てくる。私は邪魔、か。丁度いい。先程から椅子に座りっぱなしで疲れていたのだ。

「失礼、少し席を外すわ。散歩をしてきます」
「カレン……」

565 名前: ??? ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/09/29(土) 23:58:56

 眉を寄せ睨んでくるアルドを無視し、開いている扉から外へ出る。ギラついた太陽が、私を容赦なく、照らす。歩行者によって巻き上がった砂埃が服に絡みつく。……まったく。
 本来ならば人ごみなど最優先に忌避すべきものであるが、それでも私にだって探究心くらいある。見たことが無い街があれば、少し見回っておきたくなるものだ。
 天晶堂に帰れなくならないように、しっかり道を見て歩く。この歳で迷子、というのは恥ずかしいから。
 ―――広い大通りをぶらぶら歩く。だがいくら広くとも、こう人が多いと、快適な訳がない。窮屈なだけだ。
 酒場らしき店の前を通る。すると――――。

ずき

「痛っ……」

 懐かしい、馴染み深い痛みがした。



Ⅰ:胃が痛んだ
Ⅱ:顔の表面が痛んだ
Ⅲ:全身が痛んだ

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最終更新:2007年10月22日 20:00