586 名前: ??? ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/09/30(日) 22:15:28

 知っての通り私の体は被虐霊媒体質だ。周囲に起きている霊障をその身に体現してしまうという至極厄介なもの。……それでも悪魔を探知する、という面に関してだけは最高に便利な能力ではある。
 で、私は何が言いたいかというと、今、微少であるが顔の神経がピリピリしている訳で……。

「……悪魔、か」

 この世界にも悪魔がいたことに驚いていたりする。
 すぐ傍にある店に迷い無く入る。中は酒場だ。面倒なことに客は腐るほど居るが……だが一目見ただけで大体の目星はついた。奥の席にポツンと座っている女だ。声をかけてきたウェイトレスを無視し、無駄に大勢居る有象無象どもを掻き分け、初見でナメられないよう威圧的に近づく。

「―――あ? 誰、アンタ」

 ……二度目の驚き。この女、あからさまに女の格好をしておいて、言葉遣いは男だ。さっぱりと整えられたショートカット、くりっとした丸い目、控えめな胸、そのくせ身なりには気を遣っているようで、洒落た女ものの服を着ている。ボーイッシュとやらを気取っているのだろうか?

「別に誰だっていいでしょう? 生憎と席が空いてないの。隣、いいかしら?」
「…………」

 無言の肯定。ふむ、ぶっきらぼうだが素直な性格のようだ。良かった、これなら強硬手段に移る、といったことはなさそうだ。遠慮なく彼女の隣へと陣取ろう。―――おっと、片腕が二の腕付近から切り取られている……。

「凄い混雑ね。こんな昼間から、酒なんて飲んで恥ずかしくないのかしら」
「……別にどうだっていいじゃん。そいつらにはそいつらの事情があるんだろうさ。俺たちが介入する余地なんてないよ」
「その腕、事故か何か? 見事なまでにないわね」
「…………さっきから何の用だい、アンタ。俺は1人でゆっくりとしたい気分なんだケド」

 おや、気分を害させてしまったか。私1人だとこういう対象とのコミュニケーションが致命的に下手だから困る。だがここで帰ってはまたアルドのつまらない話を聞くハメになるのだ。もう少し我慢して付き合って欲しい。

「そう言わないで。……カレン・オルテンシアという名よ。あなたは?」
「……石杖所在。『しょざい』と書いてアリカと読む。で、そのオルテンシアさんが俺に何の用だよ? 自分では気付いてないかもしれないけど、見るからに怪しいぜ、アンタ」

 怪しい……? ふむ、あまり鏡を見ることなどないが、私は怪しい顔をしていたのか。今度アルドにでも言いつけて鏡を取り寄せてもらおう。
 それと石杖とかいう名前だが、少なくとも私が見てきた中ではこの世界はヨーロッパ風の名前ばかりで日本の形式などない。これはひょっとして……。

「そう言う貴女こそ何をしているの? 怪しさで言うのなら貴女も相当なものよ。この店に入った途端、一発で目に入ったわ」
「……そんな怪しい奴にわざわざ寄ってきたアンタには敵わねぇよ。俺は別にどうってことはないさ。ただここでぶらぶらしていただけ。……知ってたかい? この店、こんな泥臭い内装なクセに、メロンジュースなんてあるんだぜ。笑っちまうよな」

 くす、とやや自虐的に笑うアリカ。
 ―――唐突にどっ、と他の客の下品な声が横切る。もう少し静かにできないものか。

「ま、それだけさ。どうだい、つまらないだろ? ……じゃ、俺の方は済んだからさ、アンタの話、聞かせろよ。丁度いい暇つぶしにはなるだろうさ。…………ん? 俺は話したってのに、アンタは話さないのかい?」

 ―――こいつ。

「……フン」



Ⅰ:話さない
Ⅱ:素直に話す
Ⅲ:悪魔を祓う

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最終更新:2007年10月22日 20:01