723 名前: ファイナルファンタズム ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/10/07(日) 23:43:42

 ―――目で見るのではない。感じるのだ。
 自然と浮かんでくる余計な雑念をはらい、一寸先の世界を幻視する。
 ……それは例えるのなら綱渡り。一瞬の機微、自身との戦い。
 恐れるな、勇気を持て。
 指先から震えが止まらない。慎重に、乙女の肌に触れるが如く、慎重に関節を動かすんだ。
 繊細に先端の糸を手繰り寄せる。これは非常に脆いものだ。強すぎても弱すぎてもいけない。
 ビーンと振動が指から腕、肩、そして脳へと達する。あと一息だ。よし…………。

「フィィィィィッシュ!!!」

 ざっぱぁん

 街を大きく横切る堀から元気な魚が飛び出してきた。地面に打ち上げられたというのに、ビチビチと跳ね回っているのがその証拠。―――まったく、手こずらせちゃって!
 その反動で逃げられては拙いので、急いで魚籠に放り込む。すると先に中に入っていた魚どもが体を振って歓迎した。……釣ってから6時間が過ぎようというのに、この世界の生物はどれも相当強い生命力を有している。
 …………それと今傍を通り過ぎたカップルが俺のことを不思議そうに見つめてきたけど、勘弁して欲しい。今の叫びがヘンなのくらい自覚しているよ……。

「よし、っと。これで数えて60尾くらいかな……。ふーっ、釣りなんて久々にやったけど、結構楽しいじゃん」

 つい時間も忘れて熱中してしまった。本日未明から釣りを始めたのだが、もう日は最上へと昇っている。家で待っているあの食いしん坊もお腹を空かせている筈だ。
 ……はじめに言っておくと、この大量の魚は全部食糧として釣った訳ではない。
 ―――この世界には競売というシステムが存在し、免許も何もない素人がモノ…………薬、食糧、自作の手芸品などを、管理者を関して売ることが出来る。
 競売、といってもそれは元の世界の競売とは少しルールが違い、出品者が商品に決まった値をつけ、落札者がその値段で商品を買うという、まぁ言ってしまえばフリーマーケットのようなものだった。
 最初それを知った時には、食中毒やらの心配はしないでいいのか、と懸念したものだが、どうやらこの世界の住人たちはそんな細かいことを気にしない性質らしい。
 それで何故俺が釣りをしているかというと、この釣った魚を競売に出品して金にする、という寸法だったりする。

「釣れた魚は全部堀ブナか。ラッキー、高値で売れるぜ」

 所詮只のフナのくせしてここでは妙に価値が高い。その割には拍子抜けしてしまうほど簡単に釣れてしまうので、儲け放題だ。今の所個人的七不思議のワーストワンである。
 ……とはいえそれも1ダースほどはウチの食欲魔人の胃に納まってしまうのだが。頑張れ、俺。
 釣れた魚が新鮮な内に、今日も大繁盛である競売の窓口へと向かう。うん、凄い人ごみ。今日も大繁盛だ。
 ―――以前係員の人に「ナマモノなんて出したら腐らないのか?」という質問をしたのだが、どういう保存法を行っているかは極秘らしい。冷蔵庫なんてない筈だけど……まる?
 競売の係員へ引き渡し、出品手続きを済ます。こういった手軽さもこの競売の魅力だ。
 あとは出品証明書を発行してもらい、後日商品が売れた時ここにそれを持っていって売上金と交換し、取引は終了となる。

「さて、早く帰ろう。腹空かせて待ってる奴がいるからな」

 今日の昼飯である食材もここで買い揃え、足早で我が家であるモグハウスへと直行。
 ……天を見上げればさんさんと輝く大要。――それにしても時間を忘れていたのは拙かった。怒ってなきゃいいんだが……。
 長い路地を抜け、急いでモグハウスの入り口へ飛び込み我が家へと向かう。番号確認、鍵オーケー。ついでに言い訳スマイルもオーケー。さあ、行くぞ―――。

 ガチャ

「すまない、待った?」
「―――遅いぞ、シロウ」

 ずずーんと我が家の上座へ居座る少女。うわ、すごい睨んでる……。
 ―――ウチの小さな王様のご登場である。



Ⅰ:―――俺は彼女を娘として育てることにした
Ⅱ:―――俺は彼女を妹として育てることにした
Ⅲ:彼女は只の同居人である
Ⅳ:―――俺は彼女を未来の恋人として育てることにした(後の光源氏である)

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最終更新:2007年10月22日 20:13