753 名前: ファイナルファンタズム ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/10/08(月) 22:30:58

 ―――2人の出会いは劇的だった。
 魔物に襲われる俺と、それを助けようとして逆に返り討ちにあった少女。
 ……結局のところは俺が1人でカメを倒すことになった上に、直後気絶して誰かに運ばれもしたけど…………思えばそこから俺は彼女に魅かれていたのかもしれない。
 俺と強い繋がりを持った彼女と瓜二つなこの少女。
 それは以前、尊敬する彼女から受けた恩義……かもしれないし、もしくは愛情という可能性もある。一目見ただけで少女から他人とは思えぬ強い何かを感じたのだ。
 もちろん、正義の味方を志す身としては、危険な目に遭っている誰かを見捨てることなんてできない。だけれどもその使命感を越えた、イマイチよくわからん感情が芽生えたのがはっきりと自覚できた。
 加えて……。
 倒れている子ども。そしてそれを心底ホッとした表情で見つめる中年男……。
 身寄りの無いこの子に、かつて見たあの憧憬を重ねてしまったのだ。俺を助け続けてくれた彼女とは別に、あの炎から俺を助けてくれたオヤジへの恩義も連動していたのだろう。こうなっては少女を手放す方が無理というものだった。

 ―――だが、彼女を引き取る理由を色々説明したけど……それよりも何よりもッッ…………!
 この齢9歳に届くか否かという無意味にきらついた純真な瞳ッッ……! まだたどたどしい喋り方ッッ……! サラサラと揺れる金髪ッッ……!
 今俺に昼食をせびっている幼児セイバーは……ッ!
 とんでもなく可愛いかったんだよォォォォーーーーーーーー!!!!
 この子を手放す……? 無理! こんなチャンスをみすみす捨てる奴なんぞ男じゃねぇ……ッ!
 俺がいずれ……立派なレディに育ててみせるぜッッ……!

「……シロウ?」
「――――ん? あ、ああ、悪い……。早速昼飯に取り掛かるよ。腹減ってるんだったな」

 い、いかんいかん。気付けば赤面しながらガッツポーズしてた。ていうかチャンスって何だ。
 気を取り直して、材料を台所に並べる。今日はフナの塩焼きだ。この世界ではパンが主流みたいだけど、思い切ってご飯に挑戦してみた。店先で売られていた時は仰天したものだが、それよりも、いかにもヨーロッパ出身っぽいこの子、アジアの主食である米を食べられるのだろうか。そういう意味でも興味深い。
 言ってもいないのにお手伝いをしようと皿をテーブルに並べる幼児セイバー。手際はもうひとつといった所だが、その表情からは十分一生懸命さが伝わってくる。―――ああもう、可愛いなっ!
 必死にハグしたい感情を押さえ込め、もう一品、ウィンダス風サラダを追加。うん、今日の昼飯はこんなモンかな。
 湯気が沸きたつ釜を見て、米が炊き上がったのを確信する。魚もさっきから香ばしい臭いを醸し出している。完成だ。
 調理を終えた料理を彼女か並べてくれた皿に添え、2人で椅子に座る。さあ、食べよう。

「いただきます」
「い、いただきます……」

 何故だか言いにくそうに食事の挨拶をした後、少女は頬一杯にご飯を口にした。……良かった、米は口に合うっぽい。

「……どう? おいしい?」
「――――おいしい」

 思わず破顔。ああ、こういうありふれた幸せっていいな……。
 俺自身、自分が作ったものは正直あまり美味しいとは感じない。だけど、こうして一緒に食べてくれる人がいれば、どんな物でも美味しく食べられるのだった。……今にして思えば、藤ねえが毎朝家に来てたのはそういう意味だったのかもしれない。
 だけど……この完璧そうに見える食卓にも実は一つ欠点がある。

754 名前: ファイナルファンタズム ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/10/08(月) 22:31:49

「……あ、口にお弁当付けてるぜ、えっと……」
「?」
「よいしょっと」
「…………」

 何となく気まずい雰囲気に包まれながら、口元についた米粒をとる。
 ……俺自身、それなりには彼女と親密になれたと自負している。彼女も初めは少し固かったが、今は俺に心を許してくれていると理解できる。
 でも……彼女は一番大事なことを教えてはくれない。
 お気づきいただけただろうか。
 俺が何度聞いても、彼女は自分の名前を絶対に教えてくれることはなかった。
 最初は混乱して怖がっているのだろうと思った。
 ある程度時が過ぎれば、まだ自分を信頼できてないのかなとも思った。
 だけど……どうしてだか名前を言うのだけは断固として拒否しているのだ。
 正直こればかりは参った。何故かって呼ぶときに非常に困るのだ。何よりもいつまで経っても俺は彼女に受け入れられないんだって寂しく思う。事情があるにせよ、これはすぐにでも解決しなければならない問題だ。
 ―――そこでこの衛宮士郎は考える。
 それなら適当にあだ名を付けてしまえばいいではないか、と。
 彼女に違和感なく呼び合えるいいあだ名。…………決めた。よし、これでいこう。

「なぁ……」

 俺の呼び声に多くの食事を頬張りながら、少女は不思議そうに顔を上げた。



Ⅰ:セイバーって呼んでいい?
Ⅱ:アルトリアって呼んでいい?
Ⅲ:アーサーって呼んでいい?
Ⅳ:莫耶って呼んでいい?

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最終更新:2007年10月22日 20:16