785 名前: ◆dJsTzPZ4UE [sage] 投稿日: 2007/10/10(水) 07:07:38


 うーん、仕方が無い。
 たまの里帰りなのだし、少しは藤ねえとも遊んでやるべきだろう。

「わかった。
 その箱は後で一緒に開けよう。
 その代わり、絶対に他の箱は持って帰ってもらうからな」

 俺の返事を聞くなり、藤ねえは胸を反らして満面の笑みを浮かべた。

「まっかせなさい!
 士郎も約束破ったらダメよ?」
「はいはい、わかってるよ」

 まあ、あんな笑顔をされると、こっちとしても約束は破れない。

 それにしてもあの喜びよう。
 そんなに退屈していたんだろうか、藤ねえは。

786 名前: ◆dJsTzPZ4UE [sage] 投稿日: 2007/10/10(水) 07:11:29

:::::空は曇り:::::

 荷物を片付けて、ついでにちょっと掃除。
 藤ねえの私物ダンボールを廊下に纏めて、とやっている間に、おやつの時間になっていた。

 ガスはまだ止めたままなので、持ち込まれていた湯沸かし器でお茶を淹れることにする。 

「ねえ、士郎。お土産はー?」

 煎餅を頬張りながら、藤ねえはこたつでぬくぬくしていた。
 これだけ自堕落に生活していながら太らないのは、きっと全力でお祭り騒ぎをしているからなのだろう。

「あるわけないだろ。
 物の整理をするだけのつもりだったんだ。
 藤ねえが未だに俺の家に入り浸ってるとは思わなかったし」
「別に入り浸ってるわけじゃありませんよーだ」
「土曜の昼間っからゴロゴロしてるくせに何言ってんだ、このトラ」
「いつも居る訳じゃないわよ。
 今日待ってたのは、士郎が戻ってくるって、遠坂さんが知らせてくれたから」
「遠坂、が……?」

 ちょっと意外だった。
 遠坂が俺の行動を予測していたのはともかく、わざわざ藤ねえに報せたのことが、だ。

「そう。昨日、わざわざ電話して教えてくれたの。
 …電話がきたのは真夜中だったけど」

 藤ねえは身振り手振りを交えて、そのときの様子を語った。
 なるほど、きっと遠坂は時差があることを忘れていたんだろう。
 うーむ、気づいて慌てる遠坂の姿がありありと思い浮かぶな。

「近いうちに士郎が日本に帰るつもりだからって。
 何日に帰ってくるのかは聞いてなかったけど、誰も居ないと士郎が寂しいかなーとお姉ちゃんは待ってたのです」
「そっか…ありがとな」

 一応、藤ねえに礼を言っておく。
 熱いお茶を啜るのに必死で、聞いてなさそうなのは気にしないことにした。

787 名前: ◆dJsTzPZ4UE [sage] 投稿日: 2007/10/10(水) 07:15:15

「それにしても…遠坂のヤツ」
「ん? 遠坂さんと何かあったの?」
「いや、ちょっと―――喧嘩しただけだ」
「またぁ? 二人ともよく喧嘩するわね。
 やっぱり頑固者同士だと、どっちも折れないからかしら」

 頑固者同士、というのは確かにそうだ。
 遠坂とはしょっちゅう口論になるのも事実。
 付け加えるならルヴィアともだが。

 基本的にあの二人はお人好しで、誰かのために怒ってる。
 だから日常行事に組み込まれてる普段の喧嘩では、ガンドで雨あられになっても決定的な亀裂にはならなかった。

 その二人と――別離した。
 殺すぐらいのつもりで魔術を使ってきたから、向こうから折れてくるとも思わない。
 俺もそれは望まないし、俺から折れることもない。
 多分、もうあの二人と会うことはないだろう。

 会いたくないのでも、会うつもりがないのでもない。
 俺たちが出会うということがなくなっただけのこと。
 出会うとしたら、それこそ金脈でも掘り当てるような偶然か。
 必然として出会うのだとすれば―――敵として顔を会わせる以外にはないと思う。
 だから俺は、二度と会わないで済むことを願っていた。

「今度は何で喧嘩しちゃったの?」
「うーん、育ってきた環境の差っていうのかな…」

 結局はそういうことなのだと思う。
 衛宮士郎が望むのは魔術使いであり、二人が進む先は魔術師であったということ。
 アイツらが怒ったのは当然だし、それは俺のことを考えたからこそ怒ってくれたんだろう。

 ただ俺にとって、魔術師としての義務は一番に優先すべきものじゃない。
 たとえ、その義務に従うのが俺のためだとしても。
 だから――遠坂とルヴィアと道が分かれたのは必然だった。
 もとより彼女たちと違い、俺にとっての魔術は手段でしかなかったんだから。

「ふーん。まあ、それはいいけど。士郎はすぐに向こうに帰るの?」

 遠坂との喧嘩についてあまり突っ込んだことは訊くつもりはないのか、唐突に藤ねえは話題を変えた。
 それは俺にとっても有難い。
 深く訊かれれば、どうしても魔術のことや俺のこれからのことに言及しなけりゃいけない。

「そうだなー、今日明日ぐらいはこっちに居ようかと思ってる」
「やったー! それだけあれば、士郎のごはんが久しぶりに食べれるわね。楽しみだなー」

 本当は明日一番にでも日本を発つつもりだったのだが、そうすると藤ねえの相手をする暇がない。
 俺を待っていてくれたのだから、ちょっとは相手をするべきだと思うし、昔馴染みに会うのもこれが最後になるかもしれない。
 桜や美綴あたりは進学しているから判らないが、一成やネコさんは地元に残ったままの筈だ。
 久しぶりに挨拶ぐらいはしておかないと、後で俺が帰ってきてたことを知ったら怒るだろう。

「うん、そうだな。街がどのくらい変わったかも見て回りたいし、ちょっと行ってくるか」
「え!? ちょっと士郎! ごはんは!?」
「夕飯の時間までには帰ってくるから、それまでにダンボールはどうにかしてくれ」
「ぶぅーっ!」

 野次をよそに、とっとと支度を済まして玄関を出る。

 冬至こそ過ぎたが、やはりまだ陽は短い。
 太陽の傾き加減からすると、向かう先は新都か深山町かどちらか一方にした方がよさそうだ。
 さて、どっちにするか―――

 1:深山町へ。
 2:新都へ。

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最終更新:2007年10月22日 20:28