930 名前: ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/10/14(日) 23:35:49

 魔力を足に通わせ、アスリート並のスピードで街を駆け抜ける。その歩幅の広さはダチョウに肉薄しているほどの錯覚すら感じる。様子を見ようと集まる野次馬を掻き分け前へ、前へ。
 遠かった路地も一瞬で縮まり、俺はものの数分でバストゥーク南門へと辿り着く。そこにはもくもくと土煙をあげるコンクリート片。それは地面に刻まれた爪跡だった。タイル張りの床に、巨大な獣が抉り取ったが如く、大きく斜めに裂けていた。
 ―――心臓の鼓動が重なる。あれほどの破壊……並大抵の力では不可能だ。
 その怪異の持ち主を確認すべく視線を奥へと射る。そこには巨大な怪物が――――ではない。到って小柄な女性が3人、仁王立ちで群衆を見据えていた。
 だがあまりの変事に脳が麻痺していたのか。彼女らには長い尻尾が生え、一本線の入った目、愛嬌のある口……まるで猫のような容姿をしているのに気が付いた。しかも……何というか……長い槍、禍々しい巨大な鎌、短剣を以って武装している。鎌を持った奴なんて頭にフルフェイスの兜すら被っているではないか。

「どうする? この人だかりから探すのかい?」
「さて、どうしたものか。1人ずつ尋問をするのが確実なんだろうが、そんな時間などありはしないだろうな」
「ハイ! ハイ! ボクに提案がありまーす! それならぁ……今この場で全員に向けて問い質せばいいと思います!」
「馬鹿、そんなことでホイホイ名乗り出る奴がいると思うかい? そうだねぇ……何ならアタシ1人に任せてくれればすぐに終わると思うよォ?」
「出過ぎるなスカリーY。我々の任務を忘れるなよ。だが、そうだな、ここはスカリーXの案でいってみるか。心にやましいことがある者なら顔にでる筈だ」

 そう呟いてから、彼女らは再度俺達に向けて視線を投げつけてきた。

「バストゥーク市民の方々よ! 我々はミスラ本国から派遣されてきた罪狩り。まずは突然押しかけてきた非礼をお詫びする。だが我々は絶対の正義により行動している! 我々の任務を邪魔する者には相応の罪を狩らせてもらうこととなる!
 ……解っていただけた所で単刀直入に問いたい。―――『土のクリスタル』を盗んだ者は誰だッ!!」

(ざわ……)

 どよめきが野次馬どもから漏れる。それほどまでに、リーダー格と思われる女から発せられた気迫は凄まじかった。
 要するに彼女らの言い分はこうだ。……盗られた物を取り返しにここまでやって来た……。俺はこの国にきて間もないからその真偽を嗅ぎ分けることなんてできないけど、それでも彼女らのやり方は常軌を逸していることだけは理解できた。

931 名前: ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/10/14(日) 23:36:35

 しかもクリスタルはどこかではなく盗んだ者は誰だときたものだ。彼女らの目的は、盗まれた物を取り返すだけではない。盗人を何らかの方法で処分することも含まれているようだ。
 そうして……この街の警備員であろう赤い服を着た女性が、通報でも受けたのか慌ててここまで走ってきた。

「これは……一体何事です? 貴女方、ここはバストゥーク共和国ですよ? 貴女方にはしかるべき措置を取らせていただきます」
「アラァン? アンタひょっとしてミスリル銃士隊かい? 丁度いい、大統領に取り次いでおくれよ。ミスラ本国の罪狩りが来たってサ」

 鎌女の言葉を聞いて、駆けつけてきた女性は一気に青ざめる。その様は本当に非常事態なんだって知らしめるには十分すぎた。
 彼女らが先程から言っている罪狩り……そしてミスラ本国。ミスラ、という言葉自体ならシドの説明で聞いたことがある。ウィンダス連邦に住む猫に瓜二つの種族……。なるほど、確かに彼女らの容貌は猫そのものだ。さっきからぷらぷら揺れている長い尻尾、そして各々被り物をしているので見えないが、恐らくピンと尖った耳もある筈だ。
 本国、というのはここから遥か東にあるウィンダスのことか? だがそれならば彼女らはどういう用でここまで来たというのだろう?

「早くしてよね。ボクたちこう見えてもとっても忙しいんだから!」
「………………」

 警備員らしき赤い服の女性は、思案気に顔を伏せて顎に手を添える。一国の警備を任されている者がそれほど迷うなんて……。目の前の3人はどれほどヤバイ相手なのだろうか。
 ふと何気なく視線を横にずらす。そしてその先に、俺はとんでもないものを見てしまった。

「うっ、うっ……」

 丁度あの3人から死角となっている物陰から、嗚咽を漏らしながら様子を見ている莫耶の姿。片手には俺が頼んでいた食材が入っているであろう買い物袋。……その幼き体は震え、心底彼女らに怯えきっていた。大きな瞳には涙すら滲んでいる。
 リーダー格が呟いていた言葉を思い出す。心にやましいことがある者なら顔にでる筈だ、と。莫耶、まさかお前!?



Ⅰ:彼女に近寄る
Ⅱ:見なかったふりをする
Ⅲ:罪狩り達の注意を引き付ける

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最終更新:2007年10月22日 21:04