91 名前: ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/10/21(日) 21:44:03

「――――ゼッ、ゼッ、ゼッ、ハッ……」

 荒野を駆ける。いつかカメと戦ったあの荒野を。少女と出会ったこの荒野を。
 相変わらず木枯らしが吹き荒れる大地。潤いを感じさせないそれは、とても生ある者の気配を連想できない。砂利を踏み、枯れ木を蹴散らす。
 ―――街でドンパチ騒動を起こすのだけは避けたかった。だとすれば、足は自然とここに向かうのも道理。ここなら被害なんてまずありえない。
 だが腕に抱えた莫耶が重い。足もパンパンに脹れている。おまけに先程の投影により魔力はほぼ枯渇していた。もう、限界だ……。

「ハァ……くっ、ハァ……ハァ……」
「……シロウ?」

 知らず知らず足は止まっていた。追われているのは自覚しているけど……それでも体は停止を呼びかけている。胸に鋭い痛み、そして足に鈍い痛み。これ以上走れば心臓が破裂しちまう……。

「シロウ、ここで止まっては奴らに追いつかれてしまう。さあ、立って。せめて歩くだけでも動かないと捕まってしまうぞ」
「ハァ、ふぅ……。そ、そうは言うけどなぁ、あそこからここまでずっと休み抜きで走りっぱなしだったんだぜ……? ちょ、ちょっとは休憩させてくれ。もう、限界だ……」

 抱えていた少女を地に降ろし、地べたに座り込む。
 後ろを見る。少し前まで居た街の外壁は、既に視界からはぼやけて映る。距離にして数百メートル以上はあるだろう。これならこちらの位置を正確に把握してない限り、簡単に見つかることはない。
 幸い俺を襲った獣人の姿も見えない。休むのなら今が機会であろう。

「ふぅ……」

 呼吸を整える。ここだっていつまでも安全ではあるまい。休憩時間はせいぜい1分。安全を確実に保障しない限り、それ以上一定の場に留まるのは危険すぎる。
 ……と、それまで

「シロウ」
「……ん?」

 少女が滅多に見せない真摯な顔で俺に呟いた。

「あの、シロウ。あ、ありがとう……。貴方がいてくれなければ私はどうなっていたかわからない。罪狩り達の前に躍り出たのも彼女らの注意を引き付けるためだろう?」
「………………」
「罪狩りという者は、ここより遥か南のミスラ本国に所属する、罪人どもを狩るためだけに鍛え上げられたプロフェッショナルだ。誰もがその名を聞けば体の芯から震え上がる。
それを貴方は敵わないくせに真正面から向かっていった……。本当はその無謀を力の限り罵ってあげたい所だけど……でも貴方が私を助けようと動いてくれたのは本当に嬉しかった。これで貴方に助けてもらったのは二度目だ。ありがとう……」
「……うん」

 逃走中の身だというのにここだけ妙に温かい空気に包まれる。その雰囲気は…………何というか非常に照れくさい。
 こちらが赤面している様子に気付いたのか、莫耶は俺にニッコリと微笑む。見れば彼女の頬もほんのり朱色に染まっているではないか。その罪人を狩る罪狩りにどうして狙われているのかとか、土のクリスタルって何? といった質問をしたかったのだけれど……その微笑の前に全部吹き飛んだ。あぁ……何故だかとっても恥ずかしいぞっ!

「そ、そろそろ行こうか。十分に休憩できたし」
「あ、ああ、そうだな、行こう」

 ズボンに付いた土を払い、照れ隠しになるべくスムーズに立つ動作を行う。兎にも角にも今は安全な場所まで逃げることを考えるべきだ。
 滑らかに気持ちを切り替え、傍らの莫耶に視線を投げかける。だが……今しがた休んだばかりだというのに彼女の表情は青く染まっていた。

「莫耶……?」
「――――シロウ! 後ろに跳んでっ!」

 にべもない。聖杯戦争を生き抜いたこの身は、頭よりも先に体がその意味を理解し跳躍した。続いて遥か上空から落ちる流れ星。

 ―――ドズン!!

「うおおおっ!?」

 さっきまで座り込んでいた地面に大穴が空いた。その流れ星が文字通りただの石の塊だったらどれほど愉快だったろう。だが穴を穿ったそれは隕石ではない。人だった。

「……けほっ、けほっ」
「お、お前は……罪狩り…………」

 この身を震え上がらせた、あの罪狩りどもの内の1人、リーダー格の槍使いが目の前に佇んでいる。……自身が起こした土煙に咳を強要されながら。

92 名前: ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM [sage] 投稿日: 2007/10/21(日) 21:45:33

「けほっ……ふぅ、案外近くに見つかって良かったよ。まさか遮蔽物が極端に少ない所に逃げるとはな……。お陰で街から一足跳びで来られた」
「お前……一回の跳躍でこの距離を……?」
「別にそう難しいことじゃないさ。竜騎士なら誰だってできる。……戻って来い、飛竜。報告、ご苦労だった」

 そう言うと彼女の半分の身長にも満たない小さな竜が、罪狩りの肩に止まって消えた。

「さて」
「く……」

 もうどうすればいいかわからない。
 撒いたと思えば追いつかれる。その因果の逆転が脳を混乱させ、正常な判断を見失わせた。
 足にしがみつく誰かの感触。……そうだ。彼女だけは、守りたい……。

「…………」
「待て。罪を狩るのは一時中断だ。私はただその娘の顔を見せてくれればそれでいい」
「……なんだって?」

 莫耶は……こんな怪しい奴に彼女を関わらせるのはできれば避けたい。だが顔を見るだけってどういうことだ? 大体マークするのなら彼女ではなく俺だ。罪狩り達と騒動を起こしたのは俺なのだから。でも……ならばこの行為の意図は?
 最善の決断をすべく迷っている内にじっくりと莫耶の顔は見られていく。まるでわからない。今、事態はどこに転がっているんだ!?

「なるほど、やはり……。いや、ご無礼をお許しください。なるほど、今回の罪狩りはこちらの手違いだったようです。所有者が持っている物は別段盗難でも何でもない、か。その体に隠されているのでしょう? 匂いでわかります」
「??」
「…………」

 それまで威圧的だった口調も和らぎ、莫耶を見つめながらしたり顔で顔を上下に振っている。?マークが頭中を占め始める。……全く理解できない。

「ただし。その状況は我々にとってあまり好ましいものではありません。一年です。それまでに御身の境遇を改善しなければ、例え所有者といえども剥奪させていただきますのでそのつもりで。―――おい、小僧」

 ……俺にはあくまで威圧的なのな。

「……何だよ」
「彼女のナイトならナイトらしく強くあれ。そのレベルでは正直情けなさすぎる。せめて私達3人の視線に耐えられるぐらいはないと苦しいぞ」
「くっ……」
「―――だが先程の機転は褒めてやる。貴様のその何かを守ろうとする純粋さ……。弱いとはいえナイトの資格はままあると見た。鍛えろ、強く。そして今から一年後、どれだけ貴様が強くなったのか試してやる」

 強く……。
 聖杯戦争の頃、あの守られっぱなしな自分じゃない。今度は俺が守る側。強く……。

「もうすぐここに妹達が来るでしょう。彼女らは少々機転が利きにくいタチです。自らの無事を案ずるのならばすぐにお離れください」
「わかった……。一年の約束、確かに承ったぞ。その時を楽しみに待っていてくれ。―――シロウ、行こう」

 毅然と歩き去っていく少女。そしてその後ろを慌てて付いていく俺。
 後ろを振り返る。そこには竜騎士と名乗った猫女が口元に笑みを浮かべながら俺達を見送っていた。

「スカリーZだ。少しはマシになっていてくれよ、少年」

 返事をするのは、憚られた……。
 何故なら一年でサーヴァントに拮抗するほどの強さを得るなんて、どだい無理な話であるから。

――――――。
――――――――――。

「なあ、これからどこに行くんだ? 持ち物だって着の身着のままだし…………街に戻った方が良くないか?」
「いや、このまま戻っても事態の収拾を追及されるだけだ。ならこのまま出て行ったほうがいい。シロウだって強くならなければいけないのだろう? なら街に居続けるよりこのまま旅を重ねた方がいい」
「しかしな……」

 思い出す。今までお世話になってきた人達の顔を。
 コーネリア、グンバ、シド……。誠意を以って俺に接してくれた恩人……。さすがに礼の一つもなしにお別れをするのは申し訳がない。
 だけど……スカリーZと名乗ったあの女から、安全を省みるのならば他の2人に会うなとも言われている。このまま街に戻るのはいささか察しが悪い。

「このまま北へ向かえばサンドリア。高原を抜けて東に行けばジュノだ。あるいは砂丘を越えて西の船場に行けばウィンダス行きの船に乗れるが……どうする?」
「どうするったって……俺、ここの地理全然わからないよ。莫耶が決めてくれ」
「そうか? ならば決めよう。私は―――」



Ⅰ:三国中継地点であるジュノに行きたい
Ⅱ:サンドリアに行って騎士道を学びたい
Ⅲ:ウィンダスで魔法の勉強をしたい

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最終更新:2007年10月22日 21:55