189 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/10/28(日) 23:24:04
——Interlude side Magus Sisters
「スカリーZだ。少しはマシになっていてくれよ、少年」
「…………」
言葉を投げかけられた少年は、しかしそれに応じることなく、あからさまに顔を顰めて去っていった。
軽い挑発で発破をかけてやるつもりだったが、これでは僅かに張り合いがない。良くも悪くも若い、ということか。
だが……。
苦笑を漏らし、目を閉じる。
アレはアレで見物だ。あの小僧、どこからどう見ても騎士の出で立ちではなかった。恐らく若き冒険者といったところか。ならば自分の隣に居る娘がどういう人物なのか知らないというのも道理。彼らの旅路は祝福されているのか、呪われているのか……。
正直仕事なぞ放り投げて彼らの顛末を観察し続けたいが、それは叶わぬ話。できることといえばその後の展開を自らの頭の中で夢想するのみ。
一年後に私と手合わせする約束だが———楽しみだ。もしそれが彼女の隣に相応しからぬ実力のままならばその場で首を刎ねてしまおう。
「姉さん!」
「姉貴」
振り返れば、私に遅れ、後ろから妹らが走ってきた。次に私が1人で居ることに訝しみ、辺りをキョロキョロ見回している。
「……ちょっと。アイツらはどこに行ったのサ」
「逃がした」
直後。
殺気が場を冒し尽くす。
「待て、話を聞け。結論から言えば、今回の任務はどうやら上の連中の勘違いだったようだ。あの小僧はただの奇人だが、途中で出て来たあの娘はれっきとした貴人だ。ザルカバードの…………だよ。まさか女だとは思わなかったがね」
「ああ、やっぱり」
「気付いていたのか? ラグ」
「うん。少し前、ボク、運良く遠目で見ることができたから。気付いていなかったのはドグ姉さんだけだよ」
大鎌を背にしたフルフェイス、スカリーYことドグが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「チ、それならそうと早く言やあいいんだよ、バカ姉貴」
「いちいち説明していたら逃がしてしまうだろうが。そら、帰るぞ。本国に報告がすんだら仕事の山が待っている。狩らねばならぬ罪はまだまだ腐るほどあるのだからな」
「わかってるよ。……ねぇ、姉さん、ボク達のコードネームの『スカリー』だけど……もうちょっとなんとかなんない? 物々しい感じがして、ボク好きじゃないんだ」
「我慢しろ、罪狩りとはそういうものだ。大体罪人どもに好かれる処刑人がどこにいる? いるとすればそれは行為に痛みを伴わせぬうつけだ。偽善と変わらん。誰に言われなくとも首を掻っ切ってやる」
「あ、マグ姉さん……」
慌ててラグが私の後を追いかける。自らの行為を省みる……それは自身が辿ってきた軌跡を大いに貶める行為だ。敢えて一言で示すならば『無駄』という言葉が似合う。
無駄。私の仕事は罪を狩る——即ち人の命を奪う仕事だ。故に無駄などあっては許されない。自身が歩んできた道を信じないということは今まで摘んできた命を冒涜するに等しいから。かつてそれを行ったあの女……目の前の罪から逃げ出した私の——私達の母を私は許さない。
自身の咎から逃げることは叶わない。今も、これからも。
だから私はこれからも狩り続ける。罪を。……命を。
——Interlude out.
190 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/10/28(日) 23:25:33
「ふぅ、ふぅ」
「暑いな。歩くのが辛いならおんぶしてあげるけど……」
「いや、いい。ありがとう、気持ちだけ受け取っておく」
足に吸い付いてくる砂の感触を確かめながら、慎重に一歩を踏み出す。
眼前に広がるのは金色の砂。あざとく生えた椰子の木。けして高くはないが、幅が大きい岩場。そして無遠慮に全てを焙り照らす太陽。
別段太陽が苦手だとかいう性質ではないものの、砂丘初体験の身としては堪えた。汗と塩と砂に塗れた体、乾燥して皮膚が剥がれた鼻、重心が安定しない足……。そしてとにかく砂丘と称する割に広大なのだ。
あの後。
罪狩り達の登場により街にいられなくなった俺達は、とりあえずここ一帯を旅することにした。俺は未だによく解ってないこの世界を知るために。莫耶は何やら修行のために。
とはいえ旅をするにしても拠点がないことには始まらない。今更バストゥークに帰る訳にもいかず、新たにウィンダスという街に居住するべく俺達はそこへ続く港へと向かっていた。だが……。
「なあ、いつになったら着くんだ?」
「……もう少し、だと思うが」
ろくな準備もしないままで旅に出るにしては、やはりこの距離は厳しかった。ただの旅路ならまだしも、この世界には無差別に襲い掛かってくるとんでもない輩がいるのだから。
俺が最初に出会ったカメは勿論、丸い火の玉に目と口が付いた自爆好きの獣人、でかい鼻と小さな体格が特徴の獣人(他の獣人と比べて知性が高く、自らをゴブリンと名乗っていた。どのみち俺達に襲い掛かってくることに変わりはなかったが)、人間以上に大きな体格をしたトンボ、etc、etc……。兎にも角にも彼らのお陰で道中はお世辞にも楽とは言い難かった。
ちなみにどいつも戦いはしたが、殺してなどいない。初めて遭遇したカメとの一戦は……戦い終わったその場は、自分以外の命も危機に曝されていたこともあり、終わった後は安心以外の感情など得られなかったが、それでも命を奪う後味の悪さだけは拭い去ることができなかった。あれは出来る限り経験などしたくない。
「ん、見えてきたぞ。港町だ」
「おっ……」
少女が指差す方向には、なるほど、街の名前が記されたゲートが掲げられていた。ここを潜った先に町があるという訳か。
「フフ……」
「?」
「それっ、一番乗りはもらった!」
「あっ……」
あまりに到着が嬉しかったため、ついつい童心に返って駆け出す。続いて慌てて俺の後を追う莫耶。正直自分でもどうかと思うが、手ぶらで砂丘を横断したのだ。この喜び、察してほしい。
「ま、待って! フ、フライングだぞ!」
「待ちませ〜ん。衛宮選手、ゴール手前……後少し! なおビリの選手には荷物持ちの罰ゲームが課されます♪」
「酷い……。うう、今まで2人で頑張ってきたのに……」
「衛門士郎も時と場合によっては卑怯な手を使うこともあるのだ」
「う、裏切られた……」
少し後にうっ、うっ、と嗚咽をこぼす音が聞こえる。やりすぎたかな、と後ろを振り向くも、何故か声の主は見当たらなかった。
「隙あり! 一着は莫耶選手で〜す♪」
「あっ、ひでぇ!」
「自業自得だ。はい、荷物持ち決定! このまま宿を探した後、この町を散策することにしよう。荷物持ちさん、頑張ってくれ」
「は、は〜い……」
女の涙は何とやらと言うが……侮れんなぁ……。
191 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/10/28(日) 23:26:27
気を取り直し、改めて町の中へ入る。
と、ふと彼女の後ろから、布に包まって顔が隠された誰かがこちらに向かって走り寄って来た。てっきり俺達に用があって、直前で止まるんだろうなぁとか思っていたが……それは予想を僅かにずれ、そのまま莫耶に体当たりした。
「うわっ!?」
「な、何だ!?」
そして……倒れる彼女に手を差し伸べることもせず、そのままそいつは町中に向かって走り去っていった。
「だ、大丈夫か?」
「…………ない」
「え?」
「ス、スリだ! く、シロウ、早くあいつを追いかけてくれ! た、大変な物を盗まれてしまった……。は、早く追いかけてくれ!」
「お、お、おう?」
「頼む、急いでっ!」
普段の物静かさとはうって変わり、凄い剣幕で俺に詰め寄る少女。
訳もわからずほぼ条件反射でソイツを追いかける。だが、こうもあからさまなスリの割に足が遅く、差はぐんぐん縮んでいった。そしてそのまま盗人に覆いかぶさる形でタックルをかます。
「うっ」
布からはみ出た二括りにされた黒い、長い髪……。それが何故だか見慣れたもののような気がして……つい勢いに任せてそいつが被っていた布を剥ぎ取った。
「チッ……」
見慣れた気がするのも道理。
左右一本ずつ括られた髪、この状況でなお不敵に笑う口元、凛とした目、それらを俺は知っている……!
「ゲ、ゲェ、遠坂!?」
最終更新:2007年11月15日 13:46