282 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/04(日) 01:52:52


連投失礼しますo( _ _ )o


「……俺かい? へへっ、よくぞ聞いてくれた! 天地無双の大剣豪……その名もギルガメッシュ様よ!」
「———ギル、何だって?」
「ギルガメッシュだって! 一回で覚えてくれよ! ギル亀でもエンキドウでもないぜ! ……本当なら仕官のための大事な体、傷つけたくはなかったが……もうこれ以上黙って見ている訳にはいかないぜ! 助太刀するぞ!」

 声がデカイ……。ウルサイ……。
 男から最初に感じた印象がそれだった。しかもギルガメッシュだって? よりによってこんな所に奴の名が出てくるなんて、悪い夢にしか聞こえない。
 だがそれでも。
 生身の人間が獣に立ち向かうなんて、自然の摂理が許さない。人は弱い。自然界の中でも屈指の弱さを誇る。弱いからこそ知恵を振り絞って何とかしてきたんだ。
 男の武器は何の変哲も無い薙刀。銃ならまだ理解できる。だが、薙刀———。
 あの男は殺される。先ほど獣の猛攻を一身に受けた俺だからわかる。ただ己の体術のみでそれ以上の脅威を打ち破るなんて……できない。

「いくぜっ、化け物! おりゃっ! うりゃっ!」

 新たな敵の出現に、獣はさも面倒くさそうに俺から足をどけ、英雄王の名を騙る武芸者の前へと立ちはだかる。その隙に俺は解放された体から上半身だけ起こし、事の成り行きを見守ることにした。
 自然と期待が高まる。
 人間である以上、獣には勝てない。しかし、こう堂々と惨劇の中へ躍り出たのならば、勝てるプランがあるのではないか? ……知らず知らずの内に、彼を見守る視線に熱が篭もる。
 武芸者の薙刀と獣の爪が交錯し—————
 ————それはもう見事に武芸者の体は宙へと舞った。

「ウボァー」
「———馬鹿な!?」

 ああ……。
 その背中に背負っていた長大な薙刀は何だったのか? その身に付けた厳つい甲冑は何だったのか?
 ふと生じた疑問に答える者がいよう筈もなく、武芸者は海へと真っ逆さま————になっていればいいものを、更なる醜態を晒そうとしていた。

「こ、このまま俺だけ海にドボンなんてなしだぜ〜! お前も道連れだ! 海へ落ちろ!」

 ———もういい、休め。
 俺の願いが通じたのか、獣に掴みかかった指は滑り、男は1人で海へと落ちていった……。

「こらァ! お前だけ汚いぞ! 覚えていろよーー! ———よ、鎧を着ているから沈む……!? 助け……ゥがばゥ、ガボォ、ぶくゥ…………」

 男は、沈んだ。

「あ、あんたは一体、何をしにここまで来たんだッ!?」

 何というかバカだ。バカに違いない。
 獣も大層白けきったらしく、その空気を一変しようと再度咆哮した。

「SYayAAAAAAAAAAAAAAaa!!!」
「うっ……」

 いくら場が白けきろうとも、これはけして洒落ではない。
 今更だが、勢いとはいえ、つい男が海に落ちることを願ってしまったのを思いっ切り後悔した。
 動かない両腕。理由は簡単。中にある筈の骨が粉微塵になっているからだ。しかしあの脅威に対処するならば、動かない腕など論外。ならば、どうする……?
 僅かとはいえ武芸者が稼いでくれた時間のお陰で、混乱しきった頭は冷静さを取り戻していた。答えは、得た。

「痛い、だろうな……。ちッ、くしょ〜……」

 だが獣に握られている少女のことを想えば、躊躇している暇などない。覚悟を決め、いつもの言霊を紡ぎ始める。

「投影、開始———。かっ、体は、剣で、できている……」

 自らの両腕を解析し、ゆっくりと設計図を組み立てる。そして———言霊の内容通りに……両の腕の中に剣を練成した。

「ぎっ…………! づっ、ア———!!?」

 想像していた以上の激痛が腕を襲った。当たり前だ。剣とは本来、肉を斬るもの。それを自らの肉の内に入れるなんて、正気の沙汰じゃない。当然、肉は裂け、紫色の腕が赤紫へと変色した。腱の配置には気を遣ったものの、それでもこの腕はもう二度と使い物にはなるまい。

283 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/04(日) 01:53:51


 だがこれでいい。震えが止まらずとも、痛くとも、動く。体を斜に構え、腕を大きく広げ————

「投影、重装(トレース・フラクタル)。———I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)———偽・螺旋剣(ガラドボルグⅡ)」

 獣もこれがただの悪あがきでないことに気付いたのか。先ほどまでの威勢の良さは消え失せ、一転して慎重に俺との間合いを測り始める。
 内心で舌打ちする。さっきまでの無防備さで俺を攻め立ててくれれば、コレは呆気なく獣の心臓、もしくは眉間を射抜いたであろう。だがこうも慎重になられては、当たる確率は半々と言った所か。心底、獣というものの厄介さに歯噛みする。
 その上、見よう見まねで投影したものの、この螺旋剣は正直俺の手に余る。足りない魔力をクオリティの再現に全てを費やしており……したがって二射目などない。この一矢が俺の全てだった。
 じり、じりと獣が俺との間合いを詰める。だがそれはひどくゆっくりとしており———1秒が1分にも、1時間にも感じられた。
 汗が頭頂から噴出し、こめかみを流れ、頬を通り、顎を伝って床へ落ちる。
 長い。
 涼しい筈の船上だというのに、汗がダラダラと全身から垂れ流れる。
 もちろん汗を拭おうと動くことなどあり得ない。俺は微動だにも、瞬きをすることもできず、当の獣はじり足によって間を詰めるという体たらくだ。
 このまま長い時間が過ぎる。徐々に空は白み始め、それが一層、大きな時間の経過を印象付けた。
 ———そして唐突に。

 カラン……。

「!?」

 背後から硬質的な音が響き————。
 その油断を獣は見逃さなかった。

「しまっ……!?」

 結局は精神力の差だった。
 所詮は一介の学生に過ぎない俺に対し、恐らくは百戦錬磨であろう獣の鍛え抜かれた心。とうに俺は詰みに嵌っていたのだ。
 慌てて螺旋剣を放つも簡単にかわされ……。
 次の瞬間。
 海が大きく盛り上がった。

「なんっ、だ……!?」
「!?」

 後ろの方からも獣とは別の驚愕した気配が発せられるが……ゆっくり後ろを振り向いて確認している暇などない。視線は前へと釘付けだ。
 そして盛り上がった海から龍の————信じられないことだが、デカイ獣をすっぽり隠してしまうほどの巨大な頭部が現れ……あれだけ暴れまわっていた獣の頭へと噛み付き、砕いた。
 ナッツを口内で噛み砕くかのような軽快な音が耳へと響き———牙の隙間からこぼれた丸いものや茶色いものが甲板を汚した。そしてその手に握られていた莫耶を、新たに海中から飛び出た掌で、意外にも優しく包み込む。
 首から上のない獣の体が前のめりに倒れた直後、龍が俺と、後ろにいるであろう誰かを睨み、吼えた。

「愚かなる人間どもめ! 未だ、プロマシアの呪縛から逃れられぬのか!?」

 先ほどの獣とは比較にすらならない咆哮。海面は震え、風が怯え、波の上に乗った船は大きく揺れた。

「生ける神々の力を授けても、お前達人間を救うことはできん……」

 そう残し、龍は少女を掌に乗せたまま、天へと去っていった……。
 全てはあっという間の出来事。少女の身を案ずることも、自らの身を省みることも、あの龍は何だとか、俺達を襲ってきた獣って何? とか……そんなこと考える隙間すらない。全ては一瞬だった。
 龍が去ってから僅かな時間が流れ、波は落ち着きを取り戻し……そこでようやく俺は甲板にある物が転がっていたのに気付いた。

「あっ、莫耶の、水晶……」

 気絶した時に落としてしまったのだろう。大事にしていたクリアイエローの水晶。ころころと床板を転がり、危うく海へと落ちようとする所を慌ててキャッチする。次に自分の腕が滅茶苦茶な状態になっていることを思い出し、激痛に喘いだ。
 見れば空はもう完全に青く染まり、穏やかな日光が降り注いでいる。
 一言、疲れた。
 考えることは山ほどあるだろう。しかし衛宮士郎はとっくに限界を迎えており————意識をフェードアウトするより他なかった。

「ちょっと、アンタ!?」



Ⅰ:目の前には見知ったあの金の瞳
Ⅱ:屁の役にも立たなかったあの武芸者が、俺に膝枕をしていた
Ⅲ:誰かの蹴りで目が覚めた

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最終更新:2007年11月15日 13:55