313 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/05(月) 20:21:00
心地良い眠りについていた。
蒙昧とした意識の中、柔らかい感触を頬に感じ、思わず頬擦りする。確かな人間の匂いが、まるで俺が赤子に戻ったかのように安心感を与えさせてくれた。
体は、動かない。
だがそんなのがどうでも良くなるほど、この感覚は心地良い。
できれば永遠にこの状態が続くことが望ましいとすら思うが、それでも残酷な光によって意識は半ば強制的に呼び戻される。
微かな苛立ちを感じた後、本能的に瞼を開けた先には————
「おっ、目が覚めたようだな」
———隅の方に寄せられた青空を除き、むさい男の笑顔が視界の大半を占めていた。
瞬時に理解する。
最高の安らぎを与えてくれた枕の正体は、男の汗臭いフトモモだった。
「ほ、ほぎゃああああ!? テメェ、何やってやがんだーーーー!!?」
にべもない。一刻も早くその危機から逃れようと体を起こすが————体は俺の意に反し、中途半端な角度まで上がった後、倒れた。驚こうとするも、続けて腕に走る激痛。気のせいか、頭もくらくらしてきた。
「いっ———ぐ、あ!!?」
「お、おい……」
「———無理しないでゆっくり寝ていることをお勧めするわ。貴方のソレ、明らかに重症よ」
声の主を見れば。全身を布でぐるぐる巻きにした3頭身の誰か。声の音調を考えれば、多分女性だと思う。だが彼女なんて覚えがない。一体、誰だ?
「えっと、誰?」
3頭身は盛大に溜息をついた後、幼子に言って聞かすようにしっかりとした口調で答えた。
「———怪我の影響で記憶が錯乱してるのかしらね……。ホラ、私よ。昨日、港町で貴方達と会った……」
3頭身はそう言いながら、被っていたフードを取った。そこには思わず遠坂と見紛ってしまうそっくりさんの顔。そしてピーンとインスタント食品に湯をかけた如く甦る記憶。
「あ、あーっ、あのスリの……」
「し、しーっ! それは置いといて……どう? 思い出せた?」
「ああ。しかし、何故俺はこんな所に、って、あっ……」
今度こそ完全に思い出した。少女と共に船に乗ったこと。少女の背負った何かを垣間見たこと。少女と俺がよくわからない獣に襲われたこと。突然海中から龍が出現し、少女をさらっていったこと。
辺りを見回せば。2人の姿があるだけで、少女の姿はそこになかった。
「————————ッ!」
「おいっ、何をする気だ!」
決まっている。少女を、取り返す。
動かない両腕に早々に見切りをつけ、背筋を以って上半身を持ち上げる。フラつく足に苛立ち、地団駄を踏みながら立ち上がって歩を進める。だが半ばでここが海のど真ん中だという事実に気付き、瞬時に泳いでいけばいいという結論に辿り着いた。膳は急げと甲板の端へと行くも———いきなり太い腕が俺の首に巻きついて、勢い余った体は床板へと転がった。
「…………何しやがる」
「バカヤロウ! お前、その体で海に飛び込むつもりだったのか!? 傷口に海水が入って腕が腐っちまう……いや、その前に動かない腕で泳ぐなんぞ沈むのがオチだぜ!」
「………………それじゃあ、彼女は……このまま放っておくっていうのか……?」
「それは……しかしな……」
314 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/05(月) 20:22:49
答えに窮し、武芸者は口を噤んだ。
わかっている。奴の言い分が明らかに正しいと。俺が今の状態でいくら勇もうとも、何も状況は好転しないって。慌てふためくその姿は、傍目からみれば無様ですらあるだろう。……だが、それならどうしろというのだ?
いくら考えてもこの胸に空いた大穴を埋める術などない。ただ呆と空虚な風を流し込むくらいなら、無理だとわかっていても行動するしかないじゃないか!?
……少女とはまだ出会ってそれほど大きな時間を共にした訳ではない。だが、俺を信頼してくれた、あの無垢な眼差しを裏切る行為だけはしたくないのだ! なら……!
「———おい、坊主」
「……ん?」
「スリプル」
「!?」
呼ばれて目線を送った先に、男の指があったと思えば———急激な眠気が俺を襲った。同時に萎びる我が闘志。
「な、に、を……」
「お前さん、しばらく眠ってな。幸いこの船の行き先はウィンダスだ。魔法国家の連中ならその傷を癒す手立てがあるかもしれん。それまで大人しくしていることだ」
「う、ぐ……」
信じられない。男が使ったのはこの世界の魔術だろうか? ついさっきまで寝ていたというのに、まるで三日間完徹したかのような睡魔が脳を直撃する。起きようとする俺の意思に反し、瞼が物凄い力で引き下がってくる。
「お嬢ちゃん、生憎と俺はどうしても外せない先約があるんだ。悪いがしばらく坊主の面倒を見てやってくれんか?」
「いいわよ、別に」
「悪いな。船上じゃロクな手当てなぞ期待できんが…………そろそろ港が見えてきた。適当な院に駆け込むだけで、タルタルの奴らが何とかしてくれるだろうさ。同族だろ? 気兼ねはない筈だぜ」
「…………」
3頭身は、しかし武芸者の言葉には答えず、無言で俺の傍まで近寄ってきた。しかし半覚醒の鈍い頭では何の反応も返せない。
彼女は俺の耳元に口を寄せ、一言、呟いた。
「———ごめんね……」
何故?
だが、その言葉の真意を反芻するよりも早く、俺の意識は闇に落ちた。
——Interlude side ?????
「南のラインから……膨大なエネルギーが逆流してきています!」
「何だと! これは……まさか龍王!? 馬鹿な、早すぎる……」
「時が近いということさ、ナ……モ……ダ君。我々ジラートの悲願を成就する時が。もちろん、君達クリュー人にとっても、ね」
「…………」
「しかし、まだまだ役者は揃ってなどいない。闇の王も。クリスタルの戦士も。世界の終わりに来る者も。カスであろうと無能であろうと、撒かれた種の収穫の時は必ず来る」
「長かった……。真世界、永遠の楽園……。一万年の夢が、遂に……」
——Interlude out.
最終更新:2007年11月15日 13:58