341 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/07(水) 00:34:04
再び。
まどろんだ意識は醒め、心は現実へと呼び戻される。
今度こそ頭部に触れた柔らかさが確かな布のものであることを確認し、それでも万が一のために、これがただの布でありますようにと祈りながら瞼を開ける。
そこには。
「——えっ?」
数人の子ども達がベッドに身を乗せ、衛宮士郎を凝視していた。
「う————」
「うわあっ! 起きたっ、起きたよう! 逃げろ〜〜!」
子どもらは俺が目を覚ましたのを確認すると、慌てて我先にと外へ逃げていった。その間、実に5秒。
思わず口を丸くする。
まず浮かんできたのが、「何だありゃ?」という台詞。彼ら(彼女ら?)はこちらが悲鳴を上げるよりも先に怯えだし、あろうことか本気で逃げ出す始末。
本来ならこの状況に混乱している所だが、予想外の展開に脳は覚醒し、お陰で辺りをしっかりと確認できるほどの冷静さを取り戻していた。
まず首を左右へと見渡す。ここはどこかの家の中だ。木とレンガの割合が半々で、かつて住んでいた純和風の建築とは趣を異にしていた。心なしか柔らかい空気を感じる。
周囲へ向けていた視線を手元へと移す。なるほど、自分はベッドに横たわっている。体にはシーツがかけられ、枕もフカフカしていて気持ちがいい。自分をここに寝かせてくれた人には感謝せねばなるまい。
ふと自然に目は自らの腕へと集中した。途端、大きく跳ねる心臓。
ぐるぐるに巻かれた包帯。ソレは怪我をした場合、確かに自然な処置ではあるが……しかし、普通と比べて明らかに奇妙な在り方をしている。しかも俺はソレに見覚えがあった。
「——カレン」
両の腕に巻かれた包帯は、赤かった。ただしそれは血で染まったからではない。元々そういうカラーリングをしていたから赤いのだ。
聖骸布————。
この世界にもあるのかは知らないが、聖骸布を見てそう直感できる。これは彼女が巻いてくれた物だ。丁寧な結び目を見る限り、あの毒舌の彼女の姿を連想し難いが……。
そう思い当たれば結論は早かった。
会おう、彼女に。
そうして体を起こすべく腕に力を込めるが——数センチ持ち上がった腕は、しかしすぐに力なくダラリと垂れた。
「いやあねえ……。下品ったらありゃしない。そこの貴方、怪我人は大人しくしていることが仕事でしてよ。分を越えた行為には相応の酬いがつきものですわ。わかったら見苦しい真似などせずに動かないでいてくださいませ」
ギクリと身を震わせ、顔を扉の方へと向ければ……だがそこには3頭身の、可愛く髪を結んだ金髪の子どもが立っていた。その身を包んでいるのは子どもらしからぬ黒い法衣だ。
「えと、お嬢ちゃんここの家の子? 突然お邪魔しちゃってゴメンね。今、お父さんかお母さんいる?」
「…………わたくし、ブチ切れますわよ。わたくしが10の指で数え切れる程度の歳だというのならば、貴方なんて父親の(ピー)の(ピー)ただの(ピー)でしかありませんわ」
「………………」
なんて下品な言葉を使う子だろう。
よくわからないが、彼女はこの家の子どもではないと言っているのだろうか?
「……そうそう、忘れていましたわ。はじめまして、わたくし、シャントットと申します。ウィンダスの研究者をしておりますわ」
「ん? 研究者? しかもウィンダスだって? ……あっと、俺は衛宮士郎って名前だ。よろしく」
「よござんす。時にエミヤシロウとやら。貴方の懐に入っていたあの水晶。今はそこの机の上に置いてありますがね、少しの間貸していただけませんこと? アレには少々気になることがあるんですの」
水晶……。
軽く周囲を見渡せば、なるほど、すぐ傍の机の上に煌く輝きが丁寧にもハンカチの敷かれた上に置かれている。
だが、貸す、とは……。
そもそもあの水晶は俺の所有物ではない。少女が持っていた物だ。俺が勝手に人に貸すなどあり得る筈がない。
それに……。
少女が残した水晶を手放してしまえば、もう二度と彼女に会えないようで……。別段これは俺の感傷に過ぎないが、しかしどうしてもその行為に及ぶのは躊躇われた。
「宿泊料と治療代だと思えば安いものですわ。そう案ずるまでもなく、すぐ返しましてよ。わたくしに渡さねば……当然、すぐにでもここを出て行ってもらうかもしれませんわねぇ。オホホホホホ!」
「ヒデェ……」
最終更新:2007年11月15日 14:00