451 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/10(土) 17:59:56
シャントットの小さな手の平が眼前に伸びてくる。水晶が自らに渡ることを半ば確信しているのか、有無を言わさぬ迫力すら感じる。
……だが俺の返答は、そんな彼女の機嫌を大きく損ねるものだった。
「できない」
「————なんですって!? 貴方…………この世界に好からぬことが起こっても構わないとおっしゃってるんですの? わたくしの説明、ちゃんと聞いていましたの?」
可愛い彼女の顔が大きく歪み、両手に膨大な魔力が蓄積されていく。標的はもちろん、俺だ。
「……許せませんわ……。こうなった以上、力ずくで解決するしかありませんわね……。覚悟なさってくださいまし」
「いや、ちょっと待て。そもそも何で俺が持っていたら世界が滅亡するだの物騒な結論に行き着くんだ? 別に俺、これを壊そうだなんて全然思ってないぞ」
「貴方になくとも周囲の連中にある場合、どうしまして? 貴方のようなヘッポコくんがクリスタルを守りきれると思っているのですか? オホホ、笑わせないでくださいまし」
「あっ……」
ここにきてようやく彼女が言いたかったことを理解する。この数日間、散々味わった圧倒的実力差。それに対処できるだけの力がない限り、俺にクリスタルは渡せないと彼女は言っているのだ。
こうなれば俺が彼女に反論する権利などあろう筈もなく、部屋には重苦しい沈黙だけが残った。それでも、俺は……。
「——それでも。クリスタルを手放すということは……。クリスタルは……」
「…………一個人の感傷に過ぎませんわ。貴方は自身のワガママに世界を付き合わせる気ですか? 身の程を弁えた方が貴方のためですことよ?」
その通りだ。俺は何を言っているんだ。
しかし……。
俺は少女を取り戻したいだけなのだ。なのに……。何で周りの連中は俺達をそっとしてくれないのだろう?
————いかん、少し悲しくなってきた。目頭が潤んできやがる。
「……そういえば先程から、クリスタルは渡された物だとおっしゃっていましたわね。その方は男、ですか?」
シャントットの発言により、明らかに空気が変わった。
どうしてそんなことを聞くかはわからないが、場は俺を詰問する雰囲気から、慎重に聞き取る雰囲気に変化していた。それが彼女の気遣いかどうか知る術はないが、どちらにしろ今の俺にとってありがたかった。
「——いや、女の子だよ。でも、それがどうして?」
「女? 名前は何といいまして?」
「知らない。聞いても教えてくれなかった。————あの、俺の質問にも……」
「使えないヘッポコくんですわねぇ……。で、そのお方は今どちらにいらっしゃるんですの?」
「あ、ああ。それが……実はさらわれてしまって……」
「————さらわれた!? 誰に、でしょう……?」
「龍だよ……。俺が乗ってきた船より大きな龍。プロマシアがどうとか言っていたけど」
思い出す。あの龍はとにかくデカかったが、それ以上にとことん強大だったことを。俺達を襲った獣の頭部を一撃で噛み砕いた衝撃、今も忘れずに鮮明に再生できる。
だが話を聞いたシャントットは、呆然と意味不明な単語を呟いていた。聡明な彼女故に明確な返答が返ってくるとばかり期待していたのだが、これはちょっと肩透かしを食らった気分だ。
「恐らく……バハムート……。しかも、男神……。まさかラグナロクではあるまいし……。いえ、ですが…………」
「あの、シャントット?」
「なるほど、わかりました。とりあえずこの件は一時保留といたします。今は貴方に預けておきますので、大事に保管していてくださいまし。ごきげんよう」
シャントットはそれだけ言い残し、扉に手をかけた。
これは少女のクリスタルが取られる危機が過ぎ去った、ということか? よくわからないが、その前に俺にはまだ聞かねばならないことがある。
「ちょっと待ってくれ!」
「……何ざます? わたくし、1秒も惜しいくらい急いでいるのですが」
僅かな苛立ちを含め、さも面倒くさそうに小柄な体躯を巡らせる。だがこれは先程からどうしても気になっていたことなのだ。きちんと答えて欲しい。
「あのさ、俺がここに運ばれた時————」
最終更新:2007年11月15日 14:05