482 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/12(月) 01:42:32


「————銀髪の娘がいなかった? 多分黒い服を着た……」
「…………」

 途端に彼女は眉間に皺をつけ、こちらを睨みつけてきた。

「な、何?」
「何だも何も、貴方、あの礼儀知らずな糞餓鬼の知り合いでして? なら言っておいてください。今度わたくしの前に現れたらブチ切れますわよ、と。ああ、まだ胸がムカムカする……」

 …………大体何があったかは把握した。

「ムカムカするのを抑えて聞いて欲しいんだけど、その糞餓鬼は今どこにいるんだい? 俺の腕の治療をしてくれたのは、そいつ?」
「どこにいるかだなんて知りたくもありませんわ。わたくしは貴方がここに運ばれた時に居合わせませんでしたが、傍にいたタルタル達によれば、それはもう何てこと! 酷い毒を辺りに撒き散らしていたとか。いやあねぇ……」

 手振り足振りのオーバーリアクションで話の再現を行うシャントット。
 絶対的に人のことは言えない気がするが、被害に遭いたくないので黙っていることにする。

「その時にこの赤い包帯を俺に巻いてくれた、と?」
「そうらしいですわね。総合的に見れば、貴方の腕はわたくし達タルタルの治療と、お下品な小娘との共同で行ったことになります。一応小娘が巻いた包帯に毒が含まれていないか調べましたが、検出はされませんでしたので安心なさってください。オホホホ、別に貴方が死のうが生きようがこちらにとっては全く痛くも痒くもありませんけど」

 気を失っていた間にここに運ばれた時、偶々ここにいたカレンが聖骸布を巻きつけて治療してくれたことに間違いはない。ただ、彼女の性格の悪さが仇となり、依然として行方は知れないが。
 だが俺が眠っていた時間なんてせいぜい数時間程度の筈だ。なら彼女はまだこの街に留まっているのではないか?
 シャントットの姿を見回せば、彼女はもう説明の義務を終え、再び扉に手をかけようとしていた。

「————シャントット!」
「……まだ何かあるというのでして? いい加減にしてくださいませ。雷を落としますわよ?」
「いや、あの……ありがとう」

 瞬間、時が止まったかのようにこちらを見つめる。しかしすぐに我に返った彼女は無言で扉を開けて出て行った。
 そして部屋には俺だけが残された。

「——さて」

 どうするか? 決まってる。
 カレンはまだここにいる筈だ。探しに行こう。
 両腕が動かない分、背筋と腹筋を以って上半身を持ち上げる。寝起きの体はぎしぎしと鈍い反応を返したが、普段鍛えていた恩恵もあって比較的容易にそれは成された。
 幸い服は着替えさせられてはいない。このまま外へ行こう。
 ふらつく体を抑え、徐々に平衡感覚を取り戻そうと躍起になる。
 扉を肩で開け、外の世界へ身を晒せば、直後、パッと煌く陽光。網膜を焼く光の根源を無意識に追って…………俺はここが幻想の世界なのだと改めて実感させられる羽目になった。

483 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/12(月) 01:43:52


「…………何でさ」

 太陽の隣には巨大な木。
 いや、確かにそれは平凡極まりない木だったのだが、普通のソレとは明らかに規模が違った。
 天を貫く、という表現があるが、正しくはこの木のために用意された言葉ではないかという錯覚に囚われる。その様相は現代のビル群など軽く跳ね除け、数百メートルにも達そうという偉丈夫っぷりをアピールしていた。
 でかい。少女をさらった龍なんて目じゃないほど、デカイ。

「すげぇ、な」

 思わずそう漏らしてしまうほど、それはデカかったのだ。ずっと見つめていると、まるで大樹に吸い込まれそうなほど……。

「っと、いかん、感心する前にカレン探しにいかないと」

 放心していた我を取り戻し、仕切り直しの意味も兼ねて自身の目的を口にする。すると今まで見えていなかったのが不思議なほどの豊かな草木が周囲に浮かび上がってきた。
 豊かな陽光、豊かな草木、けしてタイル張りではない自然な砂利道。まるでピクニック先かのような穏やかさがここにはある。ウィンダスは緑の国、か。バストゥークとはまた違った安らぎを感じる。
 地図の一つもあれば探索も楽だったのだが、こうなれば軽い散歩と思って地道に歩くしかあるまい。というか実際、散歩でもしたい気分になってきた。
 しばし綺麗な空気と爽やかな緑光を存分に堪能しながら歩いていると、『森の区』と書かれた標が目に入った。ここもバストゥークみたいに区で分けられているんだ。
 とにかく俺には前に進む以外の選択肢など頭になく、当たり前のように前へと進んだ。しばらく細い道が続いた後、俺の目に飛び込んできたのは……。

「うお、キリン!?」

 恐らく飼われているのか、囲いの中で草を食べている2匹のキリンの姿だった。そして彼らを世話しているのは……。

「……よーしよし、がっつくなよ、ホラ」

 頭に生えた人間でない何かの動物の耳……お尻と腰の間に生えた細長い尻尾……人間とは僅かにかけ離れた目、愛嬌のあるω形の口……。しかしそれらを俺は知っている。あの罪狩りどもと同じ……。

「よぉ、お前。さっきから何をジロジロ見てんだ?」
「え、わっ?」

 気付けばいつの間にやらその世話係の人は眼前に立ち尽くしていた。

「ミスラが珍しいのか? それともダルメルが珍しい? どっちにしろ無言で見つめられるのは気持ち悪いよ。せめてアタシに一言断ってからにしてくれ」
「あ、す、すまない」

 女性はそれだけ言い、自らの持ち場へと戻っていった。
 迂闊だった。以前シドから説明を聞いていたものの、面と向かって目にすれば、やはり一度や二度見ただけでは順応が追いつかない。
 ミスラ……。出会った4人とも女性だったけど、男もいるのだろうか? もしいたら男で耳、尻尾はちょっと気持ち悪いな……とかそんなくだらないことを考えてしまったり。
 見学もそこそこに、更に歩を前へと進める。
 地面は土から木へと変わり、いつの間にやら自分は橋の上を歩いていた。

「……ん、道が2つに分かれているな。さて、どうしたものか?」



Ⅰ:左へ(ケチな泥棒)
Ⅱ:右へ(盲目の狩人)
Ⅲ:引き返す(身勝手な赤魔道士)

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最終更新:2007年11月15日 14:09