573 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/15(木) 20:00:13
左へ行こう。
特にこれといった意味などないが、今日は左という気分なのだ。
岩に囲まれた道をしばらく歩んでいけば奥は袋状の行き止まりとなっており、そこには藁葺きの日傘の下にいる1人のミスラと、1人の顔見知りが楽しそうに談義していた。
「だから……ねェ? シーフというものはぁ……」
「うん、うん……はぁ〜、なるほど」
「あらぁ、いい子ねぇ。物分りが良くて助かるわぁ。それでねぇ、不意打ちはどうするかというとぉ……」
……なんて、怪しげな講義を受けている。
正直あまり関わりたくなどないが、やっとこさ知り合いに出会えたんだ。勇気を振り絞って突撃しよう。
「よう」
「うぅん? あなた、なぁにぃ? あなたもあたしと仲良くなりに来たのぉ?」
「えっと、俺は……」
「あら、アンタは……。おはよう、ようやく目を覚ましたのね。怪我は大丈夫……じゃないっぽいけど、歩けるくらいなら快調じゃない?」
相変わらず両腕は俺の意思に反してブラブラ揺れているだけだが、確かに言われてみれば、歩ける程度なら軽症の部類に入るのかもしれない。
「で、お前はどうしてまたこんな所に? 街から出て行ったとばかり思っていたけど」
すると俺の発言を待ってましたとばかりにニヤつき、先程まで話していたミスラに向けて手を掲げた。
「ふふふ、そりゃあ決まっているじゃない。何を隠そう、私がウィンダスに来たのは、著名な泥棒であるナナー・ミーゴ先生に弟子入りするためだったんだから」
「こ、こらぁ、人前で堂々と泥棒発言してんじゃないわぁ。表の顔はトレジャーハンターよぉ」
どちらもやってることに違いはない気がする。しかも表の顔って。
「まさかこうして面と向かってお話できる日がくるとはねぇ……」
「そう言ってもらえるとあたしも嬉しいわぁ」
ナナー・ミーゴの尻尾が大きく跳ねる。何故だか耳もぴょこぴょこ動き、全身で喜びをアピールしている。
罪狩りどものせいでミスラはおっかないと無意識に判別していたが、こういう仕草をされると中々可愛いって思えてくるじゃないか、うん。
「アンタもシーフに興味があれば弟子にしてもらえば? ハッキリ言ってアンタ弱いし、ビシバシ鍛えてもらえばいいんじゃない?」
「いや、遠慮しとく」
とりあえず即答しておいた。
俺が弱いって発言が少々引っかかるが、さすがに泥棒になるつもりは毛頭ない。
と、突然ナナー・ミーゴが思い出したかのように口を開いた。
「……そーだぁ。あなた、ついさっきここに運ばれてきたヒュームでしょう? 知っているわぁ、クリスタルを持っているんですってぇ?」
「……何だって?」
何故それを知っているんだ。
問いの言葉を皮切りに、彼女を見つめる心境が親愛の情から猜疑心へと堕ちる。
またクリスタル、だ。
せっかく穏やかな気持ちでいれたというのに、その単語のせいで一気に脳内が不快感に支配される。……ウンザリだ。
「それが一体、どうしたって?」
「ちょっとお姉さんに見せてくれなぁい? 世界を創造した石だなんて————トレジャーハンターなら誰しも憧れるわぁ」
冗談じゃない。拒否の意味も込めてそっぽを向く。むっときたのかナナー・ミーゴは眉根を寄せて俺を睨みつけてきた。
「……仕方ないわぁ。こうなったら、実力行使で……」
「何?」
直後、寸前まで目の前にいたナナー・ミーゴの姿は霞み…………気付けば背後から伸びてきた腕によって俺は一瞬で地面に組み伏せられていた。
「い、づっ……! な、んで!?」
「あらぁ、腕を掴んだはいいけどぐにゃぐにゃじゃなぁい……。これじゃあ組み伏せる必要すら感じないわぁ」
「せ、先生、なるべくお手柔らかに……」
そういう問題じゃねぇだろ!
心のツッコミを無視し、続いて女性特有の細くて鋭利な指が懐をまさぐる。尖った爪が俺の胸を容赦なく引っ掻いた。
574 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/15(木) 20:01:04
「ごめんねぇ。でも、ま、もうちょっと大人の世界を勉強してから出直しなさいねぇ」
クリスタルが、盗られる————!?
「そこまでだ。ナナー・ミーゴ」
予想外の登場人物に、場が固まる。頭を持ち上げ声の主を確認すれば————そこに白髪、白装束の弓使いが立っていた。頭には俺を組み伏せている泥棒と同じ長い耳、そして腰からは尻尾が垂れている。この人も、ミスラだ。
「……あーあ、またぁ? しつこいわねぇ、セミ・ラフィーナのお嬢ちゃんはぁ」
「現行犯だな。今度こそ言い逃れはできんぞ」
「いやぁよ。あたしまだ捕まりたくないものぉ。……今回の授業はここまでねぇ。縁があればまたお会いしましょう?」
「あっ、待って!」
ナナー・ミーゴは一般的なヒトの身体能力を明らかに超えた脚力で、岩の向こうにある森の彼方へと飛び去っていく。その姿はまるでバッタやノミだ。そしてその後を懸命に追い縋る3頭身。
「……やれやれ。そこの君、大丈夫?」
白装束のミスラは手を差し伸ばすが、ややあって腕が動けないのに気付き、脇の下に手を入れて体を持ち上げてくれた。
「あ、ありがとう、助かった。……あんたは?」
「星の巫女様の元に仕える守護戦士、セミ・ラフィーナと申します。エミヤシロウ、ね? 今回のご用向きは、巫女様と三博士の決議により、君とクリスタルの正式な処遇をご通知するためです」
「………………」
やはり、この人も……。
「率直に申し上げます。君にクリスタルを預けることはできません。我々ウィンダスが責任を持って管理することに相成りました」
言いながらセミ・ラフィーナは手を俺に向けて示す。そこに握られているのはどこからどう見てもクリスタルが発する山吹色の輝きだった。
「あんた、何故それを!?」
「……管理がずさん過ぎるわ。あの部屋に置きっぱなしだったのを私が保護したのよ。やっぱり君に持たせておくには危険ということね……。もっとも、そのお陰で泥棒に盗まれなかった、ということですけれど」
しまった。そう言われれば、外出する際に全然クリスタルのことを気にしなかった。寝起きの虚ろな頭だったとはいえ、過去の自分をブン殴りたくなってくる。
だがいくら後悔しようとも、クリスタルは既に袂にはない。それに……畜生、ウィンダスという国が総掛かりで俺がクリスタルを所持するのに反対しているんだ。くそ……ッ!
「————チャンスはあるわ」
「へっ?」
「そこまでクリスタルを手元に置きたいと言うのなら、チャンスはあります。私が語った通達にはまだ続きがあるの。……クリスタルを所持するには、悪意がない者、加えて一定以上の実力を保持する者に限る、と。シャントット博士に感謝することね。他の二博士が猛反対する中、彼女が半ば強引にこの条件を付加するよう、取り繕ったのよ」
意外な言葉に穴を空けられ、体内に満ちていた怒気が抜けていく。
妙な展開ではあるが…………だが何の取っ掛かりがない状態と比べれば、何と希望に満ち溢れた条件であろうか。あの小さなシャントットが一国にどれだけの発言力を持つのかとか、どうしてそんなことをしてくれるのかという疑問はあったが、ただ純粋に彼女の心遣いが嬉しかった。
「勘違いしないで。クリスタルを持つことが許されるのは心に悪が住まわない者だけよ。具体的には強さよりもそこに重きを置くのでご注意を」
「俺は何をすればいい?」
「修行をしてもらいます。君はこれから————」
注
ナイト、侍、忍者、獣使い、詩人、召喚士、青魔道士、からくり士、コルセアがないのはシナリオの都合上難しいためですのであしからず。
最終更新:2007年11月18日 23:01