319 :とても気持のいいFate ◆edf0CCxP0Q :2007/11/05(月) 20:46:38


ろ:ちんまいお姉ちゃんに傅きなさい

「シロウ、駄目?」

 上目遣いでねだられた。期待半分、不安半分で揺れる瞳。雪うさぎのように真っ赤な光が、俺の心臓を鷲掴む。ぎゅっと、胸元で合わせた手がいじらしい。普段の天真爛漫さが嘘のようだ。いつも妹のようにしか思っていなかったのに、どうしてだろう、今は姉のようにしか思えない。

「そんなに……、凝ってるわけじゃないだろう?」
「ううん。凝ってるの。すごく、とても凝ってるわ。だから、ね? お願いシロウ」

 目をそらして誤摩化しても通じなかった。むしろかえって迫られて、逃げ道はどんどん塞がれていく。ドクン、ドクン。聞こえる鼓動は俺のものか。それともイリヤのものだろうか。イリヤが一歩一歩近づく度、秒針が一つ一つ進む度、彼女の瞳が泣きそうに濡れる。

「そうだな。イリヤ」

 心を決めて手を伸ばした。ビクッと固まるイリヤの頭を、よしよしと撫でて安心させる。

「まずは風呂に入っておいで。その間にを準備をしておくからさ。いいかイリヤ。今日は幸い二人だけだし、時間はたっぷりあるんだから、たっぷり暖まってくるんだぞ」
「———うんっ!」

 イリヤは嬉しそうに頷いて、とてとて風呂場へ歩いていった。だけどその背中はいつもより少し重そうで、確かに、疲れが溜まっているのかもしれない。

「———しかしなぁ」

 オイルを手に取って呟いた。なんでこんなものが流行ったのだろう。我が家にエステ用アロマオイルを持ち込んだのは遠坂で、凝りだしたのは俺と桜だ。いや、そこに藤ねえが一式丸ごと大量に仕入れてきたのが決定打だったか。とにかく、今、衛宮家ではマッサージが小さなブームになっている。

 客間のベッドを用意して、アロマオイルをあたためる。香を焚いて室内を整え、カミソリの準備も忘れない。なんか、改めて見ると随分本格的な雰囲気ではなかろうか。

 うむ、どうせならとことんこだわってイリヤを喜ばせてみたいのもだ。上流階級を素で行く彼女をびっくりさせるぐらい、贅沢で行き届いた一時にしたい。そう、具体的にいえばセラがハンカチ噛んで悔しがるぐらい。よし決めた。主夫の意地にかけてそうしてやる。

 それなら最初はどうしようか。
エ:まずは肩こりをどうにかしよう。
ス:背中から全身を攻めなければ。
テ:入浴の世話からするべきじゃないか。

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最終更新:2007年11月15日 14:21