388 :とても気持のいいFate ◆edf0CCxP0Q :2007/11/09(金) 00:34:12
ロ:優しく焦らす。
「イリヤ」
両手をタオルで拭ってから、頭を撫でて問いかけた。
「少し休もうか? 俺も喉が渇いてきちゃったし」
「……うん」
意地悪をしすぎて取り返しのつかない事になる前に、俺の理性が残ってる今のうちに、クールダウンを試みる。イリヤスフィールという少女は魅力的すぎて、このままだと彼女を傷つけそうで怖かったから。
新しいタオルを用意して、垂らしたオイルを拭き取っていく。燻り続ける熱にモジモジと脚を擦り合わせていたようだけど、そこは気付かないふりをするのが男としての義務だろう。一瞬、最後にちょっと刺激してみようかなんて意地悪なアイディアが浮かんだものの、頭を振って振り払った。
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「ねえシロウ。マッサージって、みんなあんなものなの?」
用意した日本茶を吹き冷ましながら、イリヤが恐る恐る尋ねてくる。その顔は快楽の思い出に戸惑っていて、俺は調子に乗りすぎたかと反省した。
「やりすぎたか? ごめんな」
「う、ううん……。気持ちよかったよ。最後はちょっと刺激が強かったけど、嫌いじゃ、ないかも」
「そっか。ありがとな」
「そうよ」
赤面しつつも目を反らさず答えてくれる健気なイリヤ。そんな彼女に見とれていると、しばらくして、思わぬ追撃を見舞わされた。
「シロウだったから……」
「イリヤ?」
「あんな事されて嬉しいのは、シロウがシロウだからだよ?」
なんて、反則。上目遣いで恥ずかしそうに、はにかむイリヤは卑怯すぎる。本当に、あまりにも直球で嬉しかったから、力の加減なんて忘れてイリヤをギュッと抱き締めていた。
「痛いよ……、シロウ……」
「ごめん。だけど可愛すぎるのが悪いんだ、イリヤ」
腕の中に聞こえる鼓動の音が、今はこんなにも愛おしい。
389 :とても気持のいいFate ◆edf0CCxP0Q :2007/11/09(金) 00:35:10
気力が漲ってるのが自分でも分かる。今までも十分本気だったけど、今の俺はそれ以上だ。とにもかくにもイリヤが愛しい。気持ちよくしたい。癒してあげたい。ただそれだけを心底欲して、アロマオイルの瓶を手に取った。
「気合いが入ってるね、シロウ」
「もちろんさ。覚悟はいいか? イリヤ」
再びうつ伏せになったイリヤの背中を、そっと撫でて確認した。イリヤの微笑みを確認してから、いよいよ上半身のマッサージに入る。と、そのとき。
「ねえ、シロウ? 背中、水着の上があるとやりにくくない?」
小さくイリヤが尋ねてきた。
「まあな。でも大丈夫だぞ。それくらい俺の方でなんとかするし」
「…………いいわ」
「……え?」
「水着……。外しても、いいよ」
極限まで顔を上気させて、そんな爆弾発言をイリヤがした。あまりといえばあまりの展開に、脳の機能がフリーズする。
「イリヤ、それは……」
「だってシロウだから。どんなに恥ずかしくったって、何をされたってわたしは平気。……平気だから、大丈夫だからシロウに好きなだけシテほしいの」
勇気を振り絞ってそこまでいわれて、どうして首を振る事ができただろう。ごくりと、喉の音が大きく鳴った。フワフワと、まるで夢遊病のように手を伸ばす。紫色のチューブトップに手をかけると、何の抵抗も引っ掛かりもなく腰までずれた。アクセントのなくなった白い背中に、吸い込まれるように釘付けになる。
「……下も、取って。ほ、ほら、腰のマッサージも、大切なんでしょ?」
「いいのか? 本当にどうなっても知らないぞ。」
カラカラな喉を誤摩化すように、茶化した声を無理につくる。だけどそれは下手すぎて、かえって鼓動が激しくなった。
「大丈夫よ、シロウ。わたしはあなたになら何をされても大丈夫。……だってわたしは、シロウのお姉ちゃんなんだからね」
イリヤも俺と同じなのか、無理して陽気に笑おうとした。まったく、義理とはいえ兄妹だから似てるのか。ちっとも誤摩化せはしなかったけど。
「いくぞ」
「うん」
するりと、脚から水着が抜けて外れた。今やベッドの上に横たわるのは、生まれたままの姿のイリヤ。その輝き、オスを誘う本能的なメスの魅力に、俺は心底打ちのめされた。
ああ、どうしてこんなにも美しいのか。とにかく白い。そして細くて艶やかで。風呂の中であんなにも見たのに、新鮮さが少しも損なわれないのが不思議ですらない。うつ伏せに横たわるイリヤの肢体が、ふっくらとしたお尻の凶悪なラインが、ただそこにあるだけで凶器となる。
魅了されて動かない体を無理矢理に動かして、オイルを背中に垂らしていく。油の切れたロボットのようだ。あまりにも愚かで滑稽に、呆れるほどにぎこちなく、衛宮士郎という名の人形がマッサージの続きを開始した。
とっくにムードに酔っていたのか。理性がイリヤの裸体に耐えられそうにない。風呂場の時とは決定的に違っている。主導権は俺にありそうで俺にはなく、何よりこの空気が甘くて重い。背中にのしかかる重圧に耐えられそうになかったから、このままだとまともにマッサージを続ける事ができそうになかったから、下らない冗談を口にした。
390 :とても気持のいいFate ◆edf0CCxP0Q :2007/11/09(金) 00:36:36
「俺のお姉ちゃんなら、イリヤ、これからは姉さんって呼んだほうがいいか?」
……もしくは藤ねえと同じようにイリねえとか。———しまった。なんて下らない。口に出した瞬間に後悔した。喉がいっそう渇いていく。こわごわとイリヤの反応を伺おうとして、目を見開いて絶句している事に気がついた。
まいったな。そこまで呆れられてしまったか。手痛い失敗が冷水となり、沸騰した脳髄を一瞬で冷却する。
別の世界に旅立ったままのイリヤの背中を、細心の注意をもって指圧した。イリヤが勇気を出して盛り上げてくれた雰囲気は台無しにしてしまったから、せめてこれだけは満足させないと。……いまさらこんな事をしても、埋め合わせにすらならないけど。
やがて、腕と背中を終えて、首筋と肩の周りに重点を置こうとした頃のこと。ずっと静かだったイリヤの身体が身じろぎして、イリヤの唇が震え始めた。
「……もう一度」
「え?」
「もう一度お願い、シロウ」
「そうか、そんなに怒ったのか。変な事言ってごめんな、イリヤ」
「違うっ! そうじゃない。そうじゃないから、シロウ。お願い、もう一度いいなさい。今の、よく聞こえなかった」
なんで、イリヤはこんなにも必死なんだろう?
「いいけど。だからさ、姉さんって———」
「姉さん?」
「ああ、姉さん」
「……もう一回」
「姉さん」
「ねえ、さん……。シロウが、姉さんって……」
「……ばか、こんなので泣く奴があるか」
「え……?」
言われて、初めて頬に伝う涙を感じたイリヤは、それ以上耐えきれずに決壊した。
「だって……。だってだってだって……っ! シロウが、シロウがわたしのこと姉さんって! キリツグもお母様ももういないのに! それでもシロウが姉さんって……っ!」
「……馬鹿だな、イリヤ。俺なんかが弟で何が嬉しいんだ。大体、俺達は、藤ねえも桜も遠坂だって、もうずっと前から家族じゃないか。……まあ、こんな弟で良かったら、これからいくらでも呼んでやるけど」
「うん。うん。うん……!」
顔をぐしゃぐしゃにして抱きついてくるイリヤを、俺も精一杯優しく抱き返した。俺までオイルがついてしまったけど、そんな事は関係ない。落ち着くまでそのまま抱き締めて、涙をタオルで拭いてあげた。いや、落ち着くまでなんかじゃない。それからも長い時間、二人はそうして抱き合っていた。
イリヤの唇は柔らかくて、微かに涙の味がした。
最終更新:2007年11月15日 14:29