497 :とても気持のいいFate(二周目) ◆edf0CCxP0Q :2007/11/12(月) 17:28:01


択:ルヴィア以外に誰がいるんだこの執事

 穏やかなロンドンの午後だった。俺はルヴィアの屋敷でいつも通り、執事として働かせてもらっている。今はとあるパーティーに招待された彼女に代わって、辞退する旨を代筆していた。

 手紙の代筆や屋敷の管理、金銭の扱いなど、執事は意外と書類仕事も多い。特に俺の場合、ルヴィアの実家や協会関連などとのやり取りから自然に多くなる裏の仕事を回せるというので、重宝されている分尚更だった。

 だからある日の事、ルヴィアに机を貸してほしいと頼んだところ、小さいながらも部屋を一つ用意されてしまった。高々一人のアルバイトに対する破格の待遇に、俺は心底感謝したものだ。机が一つと小振りの本棚しかないけど、日当たりがよくて気に入ってる。

 しかも中でつながっている隣室には、なんと仮眠室まである始末。最初にドアを開けたときは呆然としたものだ。いいのかルヴィア、俺なんかにこんな待遇あたえちゃって何考えてるんだ、と隣でクスクス笑っていた彼女に尋ねてみたけど、お気になさらずにと微笑むだけだった。

 まあ、その仮眠室こそが最大の贈り物にして曲者だったのだけど。

 残った書類仕事も後半分というところで、ぶらりとルヴィアが訪ねてきた。別にそれほど珍しい事じゃない。むしろよくある日常だった。雇い主が顔を見せたところで俺は挨拶するぐらいで仕事を続けるし、彼女の方もそれを眺めながら何かを伝えたりあるいは何もせずにくつろいだり。時にはこの部屋で魔術の文献を読みふける事もある。正直、それは自分の部屋や工房でやればいいとも思うけど、ルヴィアががそれで落ち着けるなら、俺はなにもいう事はない。

 今日のルヴィアは珍しいドレスを纏っていた。仕立て上げたばかりだろうか、俺の記憶にない形だ。全体として蒼く、ルヴィアにしては大胆に、胸元が大きく開いている。やっぱりあれも袖が外れたりするんだろうか。するんだろうなぁ。

 それにあの胸元。ただでさえ大きな胸が、柔らかい谷間がこぼれんばかりに露出して強調されてる。それがあまりにも似合いすぎて、魅力を引き出しすぎて逆に困る。自分がどれだけ男達の視線を引き寄せるか、ちょっとぐらい意識してくれてもいいんじゃないか? ここは執事として注意すべきか。あるいは男として似合ってると褒めるべきか。

 そうやって仕事をしながらルヴィアを観察してると、彼女が挙動不審な事に気がついた。

 ルヴィアの目が、普段あれだけ堂々とした瞳が、そわそわと落ち着かずに泳いでいる。何故か意味もないのに俺の名前を呼んでみたり、仕事している周りをうろついたり、さらには部屋の隅からパイプ椅子を持ち出して隣に座ってみたり。どうしたんだって聞いてみても、何でもありませんと首を振るばかり。それでも、何かを言いたそうに沈黙している。

「シェロ? 私には魅力がありませんか?」

 挙げ句、そんな事を呟きつつ落ち込んでしまった。

「本当にどうしたんだ、ルヴィア? 何か相談したいのなら遠慮なくいってくれていいぞ。幸い、ここには俺とルヴィアの二人しかいないから誰かに話を聞かれる心配もないし」
「ええ、二人っきりですからこそ、その……」

 じっと、何かを求めるようなルヴィアの視線。だけど俺には分からなくて。

「ルヴィア?」
「———っ!」

 分からないから聞こうとしたのに、物凄い勢いでそっぽを向かれた。あんなに顔を赤くしてるし、もしかしてルヴィア、怒ってる?

498 :とても気持のいいFate(二周目) ◆edf0CCxP0Q :2007/11/12(月) 17:29:09


「……もしかして、気付いてやってますか?」
「なにがさ」

 憎らしそうに上目遣いで睨むルヴィア。恥ずかしそうに頬を染めて、ちらちらと仮眠室へのドアを盗み見る。困った、本気で分からない。ひょっとして眠いのか? それとも具合が悪いのか? だったらこんなところで寝ないでルヴィアの寝室まで抱えていこうかお嬢様、と申し出ても、ルヴィアは赤面したきり答えない。

 ちなみに、先からルヴィアが気にしている仮眠室は、それほど広くもないが狭苦しくもない程度。最初この部屋を与えられて純粋に喜び、ルヴィアに感謝しつつより一層仕事に励む事を誓ったのが懐かしい。

 しかし、どういう事だろう。内装のほとんどがルヴィアの好みに侵食されていき、ベッドからテーブル、壁にかかっている絵画まで、あっという間に彼女の趣味にあわせられていた。まあ、別にそれくらいは屋敷の主人なんだから構わないけど、私物まで持ち込んだらルヴィアの部屋が寂しくならないか、と尋ねたところ、では二人の共用という事にいたしましょう、とそれはもう嬉しそうに微笑まれた。

 つまりそういう事だ。

 侵食はとくにベッドの周りが著しい。天蓋付きの豪華なそれを彩るのは、可愛らしいレースで縁取りされたクッションに、それはもうフカフカな、あるいは固くて頑丈なぬいぐるみの数々。脇にある小さな戸棚には、以前からルヴィア愛用だった小さなポットと、どこからともなく調達してきた白磁のカップ、ペアセット。それぞれ蒼と赤銅のラインがアクセントなり。

 とどめにこの部屋は一階だが、二階にあるルヴィアの寝室の真下に位置している。もちろん天井には抜け穴があり、その存在を守る結界の解除キーを知るものは、世界中で俺とルヴィアの二人だけ。

 つまりあの部屋は、ルヴィアにとって本当の意味でのプライベートな空間、すなわち聖域になっている。そこにいるとき、彼女は思う存分少女に戻り、心行くまで女になれる。

 ———あ、ひょっとして。そういう用事だったりいたしますか?

「ルヴィア、まさか」
「ふんっ! もういいですわ」

 気付くのが遅かったのが気に入らないのか、無意識に焦らしてしまったのがまずかったのか、ルヴィアはすっかり拗ねてしまった。話し掛けても振り向いてくれない。しまった。この拗ね拗ねモードに入ったら厄介だぞ。

 まず第一に空気が痛い。気まずさだけで押し潰されそう。直情的に怒ってくれた場合ならまだましだけど、悲しみと不満を纏われたら俺は耐えられない。さらにやばい事にここはルヴィアの屋敷でしかも二人っきりだから逃げ道がどこにもない。まさか早退するわけにもいかないからなぁ。

「なあ、ルヴィア……」
「話しかけないで下さいませ!」

 そういいながらも俺の隣から動こうとしないお嬢様。というか話しかければ怒るけど構ってやらないともっと怒るというのは理不尽の無限地獄ではなかろうか。

「ごめん」

 椅子から立ち上がり、なだめるように後ろから肩に手を置いた。

「触らないで下さいませ」

 だけど、ルヴィアは身体をよじって振りほどく。その瞳には怒りの欠片が滲んできた。

「慌てて体を触って誤摩化そうなんて、私、そんなに安い女に見えまして?」

 俺を睨む視線が鋭く痛い。痛い上に怖い。なんだか、足掻けば足掻くほど薮蛇だ。そうこうするうちにルヴィアの瞳は潤んで今にも泣きそうになって、やばいぞ衛宮士郎どうしよう?
選:優しくなだめる。
択:激しく襲いかかる。
肢:あえて分からないふりをする。

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最終更新:2007年11月15日 14:37