548 :とても気持のいいFate(二周目) ◆edf0CCxP0Q :2007/11/14(水) 01:19:41
優しくなだめる
そうだ。大切なのは俺自身じゃない。ルヴィアを悲しませてしまったんだ。何よりもそれを償わないと。気まずい、なんて事情は些末だし、都合よく押し倒すのは論外だ。この女性を傷つける事のほうが、遥かに衛宮士郎にとって重いのだから。
「ごめん。悪かったよルヴィア、気がつかなくて」
「……知りません」
誠心誠意謝っても、ルヴィアはぷいっと顔をそらす。声には相変わらず怒りが滲んでいて、機嫌がよくなる徴候はない。唯一救いといえるのは、彼女がこの部屋にいてくれる事だけだった。
それでも、俺は少し安心した。
こうやって拗ねる事も、素直な怒りをぶつける事も、彼女にとって甘えの一環だと気付いたから。少しまで前の遠坂と同じだ。きっと、幼い頃から颯爽と輝かしく生きてきた分、こういった行為に飢えているのだろう。こんなところまで二人は似ている。その幼さが愛しくて、未熟な俺でも二人の力になれる事が嬉しすぎて、いつの間にか、この一時に感謝すら抱いていた。
心のままに拗ねて、甘えられる相手がいる事はいい事だ。素直な自分を表に出せる事は幸福だろう。それを受け止めてくれる家族の価値を、俺は痛いほど知っている。衛宮士郎には長い間、姉でいてくれた女性がいたから。
強くて煌びやかなだけの人生はきっと悲しい。誰だって人間なら当たり前だけど、たまには羽を休めないと疲れてしまう。まあ、遠坂とルヴィアにとっては俺なんかが相手じゃ不満だらけだろうけど、それでも一生懸命やっているんだ。できれば、もうしばらく俺の幸福につきあってくれないか。
勝手な喜びを噛み締めつつ、ポンと頭の上に手の平を置いた。
「あ……」
そのままよしよしと撫でてみる。しっとりしてさらさらな金の髪がシルクのようだ。頭の丸みが面白い。ルヴィアも、今度はなぜか振り払わず、俺の好きにさせてくれた。
「ほらルヴィア、いつまでも聞き分けないのは可愛くないぞ」
自然に、優しい声がでた。将来、もしも娘ができたなら、父親としてこんな想いを抱くのだろうか。俺よりずっとしっかりした女性に対して失礼だとは思うけど。
「悪かったですね、どうせ私は可愛くなんてありませんわよ」
気がつけば、ルヴィアの声色も少し和らいでいる。それでもしっかり拗ねているのは、流石と褒めるべきか手強いと感心すべきだろうか。
「そっか」
「そうですわ……」
「だけどルヴィアは可愛いぞ。可愛くないルヴィアだって凄く可愛い」
我ながら無茶苦茶な事をいっている。しかし本心だから仕方ない。知らず、頭を撫でる手に力がこもる。愛情をルヴィアに伝えるように。本心を曝け出してしまえる為に。
「……………………」
その想いが少しは届いたのか。しばらく俯いたままだったルヴィアは、やがてぽつりと呟いた。
「あなたの、シェロの言葉なんて信用できませんわ」
「なら、どうすればいい?」
「……態度で示して下さいませ」
プイッと、わざとらしく背中を向けるルヴィア。あやうく吹き出すところだった。きっと拒絶してるふりのつもりなんだろう。白すぎる肌では染まった頬なんて誤摩化せないけど。ちらちらと後ろを気にしているのはバレバレだけど。
だけど、意地悪する理由も余裕もない。
その仕種の可愛さに、一瞬で降参して抱き締めた。本能のままに優しく、愛しさにまかせて激しく。腕の中の身体は暖かくて華奢で。ルヴィアゼリッタという少女の存在をあるがままに感じさせてくれている。
「もっと、ぎゅっと……」
強く、全力をもって強く、力を込めて要望に応える。きっと痛いだろうに、苦しいだろうに、それでも満足そうな吐息をもらして、ルヴィアは俺を許してくれた。
「そのドレス、似合ってるよ」
「遅いですわ、もう……」
549 :とても気持のいいFate(二周目) ◆edf0CCxP0Q :2007/11/14(水) 01:20:43
そしてようやく、すっかり機嫌を直したルヴィアは、呆れるぐらいにくっついてきた。隣に座って残った書類仕事を手伝ってくれるのは嬉しいのだけど、肩に寄り掛かられては集中できない。だって俺も男だし。
「なあ、ルヴィア。早く残った仕事を終わらせたいんだけどさ」
「でしたらこのまま続けなさいな」
「せめて少し離れてくれ……」
「我慢なさいませ。当家の優秀な執事が、これ位で弱音を吐いてどうしますか」
うっとり、ご満悦な表情のお嬢様。そのまま肩に頬を擦り付けてきた。女性のいい匂いが鼻孔をくすぐる。そこでつい、終わるまで我慢してくれないか、と振り向いたのが悪かった。今のルヴィアは新しい、胸の開いたドレスを着ているわけで。絶好の角度から見える魅惑の谷間に、不覚にも釘付けになってしまった。
「……もう」
恥ずかしそうに腕で隠すのは反則だ。押されて潰れて寄せられた柔らかな二つの丘が、かえって強調されてしまうから。
「わ、悪いっ!」
あわてて視線を書類に戻し、誘惑の記憶を振り払おうと努力する。鼓動が驚くほど激しかった。ゆっくり、深呼吸をして落ち着かせる。
「ほら、シェロったらこんなところで手を止めないで」
手の平を、ペンをもつ手にそっと重ねられて、続きを促された。優しい体温が伝わってくる。心臓も大分落ち着いてくれた。なら、これくらいはいいかなと頭を寄せて口付けをねだると、ご褒美は後でと人指し指で押さえられて拒まれた。
「だって、その方がお互いに楽しめますでしょう?」
「ずるいぞ、ルヴィア。自分だけ楽しんでおいてその台詞は」
「でしたら……、そうですね」
俺の唇に触れたその指を、自分でくわえて微笑むルヴィア。
「ん、シェロの味」
無邪気に、嬉しそうにルヴィアが目を細める。なんて気恥ずかしい遊びを考え付くのだろう、このお嬢様は。無垢な童女のような瞳のまま、娼婦の様な誘惑をしてくる。
「ルヴィア。俺も———」
誘われるまま、柔らかい唇を目指して人指し指を近付ける。想いもよらない悪戯が待ち受けているとは想像もせずに。
唇に触れた指はくわえられ、暖かい口の中に迎えられた。潤いに満ちた舌で愛撫され、目を細めたルヴィアに吸い付かれる。最早人指し指は逃げられない。歯で甘噛みされて暴れないように、手首に手を添えて離さないように、ルヴィアに捕まってしまったから。
俺は、妖艶な蜘蛛に捕らわれた羽虫の様な、それなのに小鳥に餌をやる親鳥のような、この上なく矛盾しつつも楽しい心境になった。指だけがルヴィアの口の中で快楽を得ている。そのささやかさがくすぐったくて、ちっぽけな甘さが純粋に楽しい。
たっぷり五分ほど弄ばれて、ようやく指は解放される。うっとりと、ルヴィアの顔が染まっていた。とろんと蕩けた茶色の瞳が、彼女の想いを語っている。指が離れる時にかかった一筋のアーチが、何故か恥ずかしくてたまらなかった。
すっかり唾液に濡れた俺の指を、ルヴィアはどうして欲しいのか。それは考えるまでもない。普通にキスするよりも恥ずかしかったけど、期待するように見上げる彼女の視線に、誰が打ち勝つ事ができただろう。指はルヴィアの味がした。
「これ以上は、終わってからにしましょう、シェロ?」
恥ずかしそうに耳打ちするルヴィアが可愛かった。
二人がその気になれば後は簡単だった。優秀すぎるルヴィアが協力してくれるというのだ。効率は俺一人のときとは比べ物にならず、二人とも楽しみながら進めれば尚更早い。あっという間に残った仕事を消化した俺は、ルヴィアを抱き上げて隣へ向かった。
最終更新:2007年11月15日 14:39