609 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/17(土) 15:52:26

「————ここに留まりなさい。3人ほど修行に適切な先生方がいらっしゃるので、その人の下で数ヶ月間君自身を鍛えてもらうわ。どの様な修行がご希望かは君の選択に任せる」

 なるほど、修行、か。鍛錬自体ならこの世界にやって来てからも毎日欠かさず行ってはいた。が、独学で鍛えるのと、師を得た上で学ぶのとでは成長するスピードが段違いだということを、遠坂との修練から教えられている。
 丁度自らの力不足に辟易していたところだ。本来ならこちらからお願いする所なのだが……。

「ちょっと待った。えと、シャントットから聞いてなかった? 実は仲間がさらわれちまって。一刻も早くそいつを助けに行かなければならないんだ。そんなに長く居座る訳にはいかない」
「知っている。誘拐したのが巨大な龍ということも。でもだからこそよ。君は知らないからそう息巻いていられるのでしょうけど、君のお知り合いをさらったその龍、ただの獣人なんかじゃないわ。いえ、獣人だったのならまだやりようはあったのだけれど…………真龍よ」
「真龍、とは?」
「人間族より遥か古代から生息すると言われる伝説の龍族。彼らの体格は山にも匹敵し、爪は大地を削る……。加えて彼らの頂点に立つバハムートは、霊獣…………世界を司る5柱の内の1柱、生ける神々の1人よ」
「神々、ね……」

 いきなり胡散臭げな話になってしまった。別に彼女を疑おうという気はさらさらないが、それでも元の世界の平穏さと比べればいささか逸脱に過ぎる。
 訝しい目で見つめられているのが気に障ったのか、セミ・ラフィーナは先程よりも僅かに早口で言葉を紡いだ。

「そんな連中に君程度の実力が通用すると思って? 真龍に勝てる人間なんて五種族のどれを探しても存在しないわ。だからせめて君には真龍級の脅威が現れても逃げ切れるくらいの実力を身につけて欲しいの。そうなれば私達も君にクリスタルを預けたって安心できるし、第一つまらない死に方をしないで済むでしょう?」
「それはそうだけど。だがそれなら俺の知り合いはどうなる? このまま放っておけって言うのか?」
「…………何度も言うけど君にどうにかなる領分じゃない。ウィンダス連邦も捜索に協力はするけど、危険な域にまで踏み込むことはしない……というよりできない。君が考えているよりも遥かに相手が悪いのよ……」
「それじゃあ全然良くないじゃないか! そんな気休め程度の調査なんて表面上のものでしかない。やってないも同然だろ!?」
「我侭を言わないで。1人の為に国が滅亡しろと? ……私達がしてあげられるのは君を今より強くして送り出すことだけ。これはウィンダスにとって、とても大きな譲歩だということを理解して欲しい」
「…………」

 言われるまでもなくわかっている。……それでも、動くべき時に何もできない自分が悔しかった。
 彼女の言い分は正しい。傍から見れば今の俺は駄々をこねて桜を困らせている慎二に過ぎないという訳か。…………まるで成長していない。

「説明はもういいでしょう? これからのことについて聞きたいことがあるの」
「……ああ」

610 :ファイナル ファンタズム ◆6/PgkFs4qM :2007/11/17(土) 15:53:16

「始めに、3人の先生がいると言ったわね? 彼女らはそれぞれの分野のプロフェッショナルなんだけど、何を学ぶかは君が決めて。まずシーフを担当するナナー・ミーゴ。知っているわよね?」
「酷い目にあったよ。……まさかその泥棒の所で修行しろと?」
「ええ。私としてはできれば君にシーフになんてなって欲しくないんだけど。——次に黒魔道士を担当するシャントット博士ね。彼女のことは君も知っていたみたいだけど?」
「俺がここに運ばれて目覚めた時、シャントットと会話したんだ。クリスタルをよこせって迫られた」
「……災難だったわね。ご存知の通り、彼女はスパルタ志向よ。苛烈さ故にもしかしたら万が一の場合があるかもしれないけど、その代わり彼女の荒行に耐え抜くことができたら相当な強さを得ることができるでしょうね」
「…………万が一、ね……」
「さ、最後に狩人を担当するペリィ・ヴァシャイ族長よ。一応聞くけど会ったことはあるかしら?」
「いや、ないよ」
「じゃあ軽く説明しておくわね。彼女はここ、ウィンダスに住むミスラ達の族長をしているの。今でこそ視力を失い狩人を引退なさっているけど、20年前のクリスタル戦争時にはミスラ傭兵団を率いてウィンダスを守り抜いた英雄なの」
「目が、見えないのか? 全然?」
「……ええ、大戦の時に光を全て失ったとか。でも勘違いしないで。彼女はお飾りで族長の座に居座っている訳じゃない。何よりも彼女が凄いのは、心の強さなの」
「心の強さ?」
「そう。多くのミスラを惹きつけてやまない硬い心。そして狩人の鑑である厳しい信念。…………私も狩人を称する身なれど、彼女程の狩人にはまるで届かない。最高の狩人よ」
「…………」

 気のせいかそのペリィ・ヴァシャイ族長の紹介には他の2人以上に多くの熱を込めた印象を受ける。彼女も狩人だと言っていたがそのせいだろうか?

「誰の下で修行するかは君の自由。もっとも開始するのは君の怪我が治ってからですけど。……さあ、決めて」



Ⅰ:ナナー・ミーゴの下で修行する(シーフ)
Ⅱ:シャントットの下で修行する(黒魔道士)
Ⅲ:ペリィ・ヴァシャイ族長の下で修行する(狩人)

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最終更新:2007年11月18日 23:03