53 名前: Fateサスペンス劇場 ◆7hlrIIlK1U [sage] 投稿日: 2006/08/18(金) 21:58:13


五、空を自由に飛びたくなった。

 士郎はなんで飛ぶのん?

「ツインテールですからー」

 空を飛びたいと願った瞬間、どこからともなくやってきた。そう、遠坂のツインテールがやってきた。頭にガシャンと装着されて、たちまち高速に羽ばたきだす。信じられない。俺の体が、浮かんでいた。砂をはらむ風がまとわりつき、まだみぬ可能性にワクワクせずにはいられない―――!

 風にのって舞い上がる。体は軽く、心は踊り、足は宙を蹴ってさらに空へと躍り出る。飛んでる。本当に、夢じゃなくて飛んでる。凄い凄い凄い。頬で大気を切り裂いていく。コテージがもうあんなに小さい。島は海にまぎれて見えない。黒い黒い大海原。空には幾億の星が瞬き、暗い雲が遮っていく。

 ―――子供の頃、雲に乗って遊ぶ夢をみた。

 今ならあそこまで飛べるだろうか。翼は逞しく羽ばたいている。行ける、とすんなり確信して、その凄まじさに手に汗を握った。この友と一緒なら、彼女のツインテールと共になら。どこまでも高く。誰よりも遠く。流れる雲を追い抜いて。瞬く星の彼方まで。いこう。いこう。さあ、飛ぼう―――!

 上空に向けて加速する。このスピードは既に凶器だ。体の表面を衝撃が流れる。明らかに空気が軽くなってきた。風は強く、気温は低く、耳の奥に違和感が鳴り響く。だけどそんな事は気にしちゃいられない。下を見ている暇もない。ただひたすら、上を向いて駆け抜けた。もうすぐ。本当にもうすぐ。そう、あの雲の上まで飛びたかったから。―――ラスト。手を握りしめて気合いを入れると、ツインテールが咆哮した。



 なんという光景だろう。眼下には流れる雲の海。降り注ぐ星屑。とても寒い。見渡せばどこまでも空があって、遥か下まで空がある。ガチガチ歯が鳴る。手足が痛い。指先の感覚なんてとっくに亡くて、涙がとどめなく流れてきて、耳の奥はねじ切れそうで、頭の奥までガンガンして。それでも、いや、それさえも嬉しくて嬉しくて嬉しかった。

 雲の上からのぞいた地球は、とても大きくて黒かった。ぽつぽつとまばらに、ちっぽけな灯が幾つかあった。あの一つ一つが大都市なのか。母なる地球と人は言うけど、それはこんなにも壮大なのか。大地を踏み締めてない不安感が、それが分かってしまった事が、こんなにも嬉しくてたまらない。

 轟々と気流がながれている。この世界に、俺の居場所はないようだ。ツインテールがなければ無力に落ちていく俺という存在。星空の煌めきは冷たくて、すんだ大気は凍るようで。足下を流れる広大な雲は、俺の足では踏み締められない。あのコテージで待つ、暖かいお茶が恋しかった。

 ―――帰ろう。みんなのもとへ。



 朝。酔いと疲れで泥のように眠った俺を叩き起こしたのは、昨日と同じ悲鳴だった。明らかに恐怖に引きつったそれ。放っておけばただですむはずがない。早く、一秒でも早く助けにいかなければ―――!

一、大丈夫か遠坂!?
二、大丈夫かイリヤ!?
三、大丈夫かルヴィア!?

投票結果

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2006年09月04日 17:04