170 :Fate/式神の城 ◆v98fbZZkx. :2007/10/27(土) 23:30:31

通学路で出会ったのは……
→黒服にサングラス、くわえ煙草の見るからに怪しい男

そいつは、見るからに怪しい格好をした男だった。

年齢はパッと見で20代後半から30代。黒いスーツとソフト帽を身につけ、さらに真っ黒なサングラスをかけている。
これだけでもいい加減に怪しいのだが、その帽子のふちから覗く灰色、あるいは銀色の髪の毛が極め付けだ。
住宅の壁に背を預けて、見るからに安物の煙草に火をつけているその男は、千歩譲っても、通勤途中のサラリーマンには見えなかった。
「……?」
俺の視線に気が付いたのか、銀髪はふと、こちらへと顔を向けた。
別に、睨まれたわけではなかった。そもそも、サングラス越しで、俺は銀髪がどんな目をしているのかがわからない。
だが、直視しなくても分かる。あのサングラスの向こう側にある目は、きっと、ナイフの切っ先のように鋭い。
数秒もしない内に、銀髪は興味を失ったように、ふいと路地裏に姿を消した。
「はぁ」
思わず、口からため息が漏れた。背中には冷たい汗が噴き出している。
ただ見られただけというのに、銃口でも突きつけられた気分にさせられる。あの銀髪は絶対に堅気ではない。
かと言っていわゆる極道にも見えなかった。銀髪には、その手の人々が持っている一種の陽気さがまったく見られなかったからだ。
俺は、気を取り直すと通学を再会し、ふと気にかかって銀髪の消えた路地裏を覗きこんだ。

「痛い……痛……ぃ」

そして、その声が俺の耳に届いたのは、路地を覗きこむのと、まったくの同時だった。
その苦悶の声は、すぐ近くから聞こえていた。
声の調子で、小さな子どものものだとわかる。
俺は迷うことなく、路地裏へと身を滑り込ませた。
「お兄さん?」
「———っ」
路地裏に入ってわずかに数歩歩いただけで、その子はすぐに見つかった。
歳は八歳くらいだろう。小さな女の子だった。
「お母さんを、お母さんを探してください。寒くて、痛くて、動けないんです」
理由は、聞くまでも無かった。その子の体は、無残に切り刻まれ、膝の先はどこを探しても無かったのだから。
駆け寄って、俺は、どう声をかけていいのか分からずに窮した。
その子の怪我は、とても生きていられるようなものではなかった。

「目を閉じてごらん」

その時、路地の奥から声が響いた。
目を転じれば、姿を消したはずの銀髪の男が、少女の前に膝をついていた。
「こう?」
女の子は、疑いもせずにゆっくりと目を閉じる。そして、小さな両手を目蓋の上にあてがった。
その小さな手からは、指が何本も欠けている。
「もういい?」
「ああ」
銀髪がうなずくと、少女は閉じた時と同じように、ゆっくりと目を開いた。
少女が目を開くと、その体を覆っていた傷は、そのことごとくが、まるではじめから存在していなかったように、綺麗に消え去っていた。
「わあ……おじさん、魔法使い?」
「そんなものさ」
銀髪がうなずくと、少女ははじめて笑顔を見せた。それは、透き通るような、本当に無邪気な笑顔だった。
「送ろうか?」
「ううん、だいじょうぶだよ。ありがとう、おじさん」
キラキラと、少女の体から燐光が漏れ始める。
光が漏れ出るたびに、少女の体は薄く霞み、消えていく。
「お礼にね」
「礼は要らないさ」
銀髪はぶっきらぼうに言って、立ち上がる。銀髪が立ち上がる頃には、少女の姿は、この世界から綺麗に消えていた。
ふわり、と銀髪の手の上に、一枚のハンカチが舞い降りた。
かつては白かったであろうハンカチには、ところどころ茶色く変色した血の跡がこびりついている。
「どう、なったんだ?」
俺はようやく、それだけを聞くことが出来た。
「逝ったよ」
銀髪は、ハンカチを綺麗に畳んでポケットに仕舞いこむと、ポケットから煙草を出して火を点けた。
紫煙がフワリと舞う。
「あの……」
「ああ、待て、とりあえず動くな」
背筋が凍る。言葉と同時に跳ね上がった銀髪の腕には、黒く、冷たく光る拳銃が握られていた。

俺は……

1:足がすくんで動けなかった。
2:銃弾から逃れるために、思い切り後ろに跳んだ。
3:銀髪に向かって体当たりをした。

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最終更新:2007年11月16日 12:32