406 :Fate/式神の城 ◆v98fbZZkx. :2007/11/09(金) 18:25:25

突然突き付けられた銃。
俺は……
→足がすくんで動けなかった。

動くな。その言葉とともに跳ね上がった銀髪の右手には鈍く光る拳銃が握られていた。
その黒い金属の塊は多分につくりものめいて見えた。それでも絶対に偽物では無い。
俺にはその奇妙な確信があった。
目の前の男が握っているものは、引き金を引けば即ち人を殺す殺人のための機構だ。
だから、男がほんの少し腕を動かせば、俺の生命はここで霧散する。《死》が俺に突きつけられている。
それでも俺は、そこから動くことが出来なかった。
眼前に突き付けられた《死》に恐怖したわけではない。

(———その感情は存在しない)

ただ、厳然と放たれた「動くな」という銀髪の声に、まるで射すくめられたように俺の足は、俺の体は動かなかった。
タンッ。
思ったよりもずっと軽い発砲音とともに、目の前の銃口から弾丸が吐き出された。それが立て続けに三度。
バキッ。
破砕音が響く。射出された弾丸が何か硬質なものを撃ち砕く音。耳元で、頭上で、足元で。これも三度。
破砕音が響くたびにパラパラと何かの破片が周囲に飛び散った。
「跳べッ!」
銀髪の声に、俺の身体を拘束していた威圧感が霧散した。身体が自由になると同時に、首筋に不吉な気配を感じる。
俺は迷わずに正面、銀髪の立っている場所に向けて跳躍、と言うよりも倒れこむ、と表現した方がふさわしい格好で滑り込んだ。
「———っ」
身を包んでいた制服がコンクリートで擦れ、衝撃が身体に伝わる。俺は何とか受け身をとって体勢を立て直す。
そこで、俺はようやく、自分の背後で何が起こっていたのか、そしてなにが《居た》のかを見た。
それは、少女の姿をしていた。
もっとも、大きさは精々30cmと言ったところだろう。フリルのついたドレスを身にまとったそれは、硝子の瞳から生気の無い光を放ち、肌は無機質で柔らかな微笑みを浮かべている。
もちろん、そんな人間が居るはずは無い。俺の目の前にいるそれ、否、見えているだけでも十体に近い《それら》は間違いなく、フランス人形の姿をしていた。
「やれやれ、ずいぶんと可愛らしい殺人鬼だな。もっとも、ここまで多いとむしろおぞましい、か」
「殺人鬼って……」
俺の問いかけと同時に、またも銃口から銃弾が吐き出される。人形の破片が、俺の目の前に転がった。
「っぐ!?」
俺は、その《破片》を見て絶句する。
目の前に転がった破片、人形が手にしていた剃刀の刃には、子どもの小指の先ほどのピンク色の断片が引っかかっていた。
先ほど、この路地裏でであった、あの少女の姿が投影される。閉じた目蓋のうえに添えられたあの子の手には、たしかに、小指が無かった。
「———」
俺の身体の奥に、肉体の奥にある何かに火がついた気がした。その炎が、全身をめぐる神経を電流のように駆け抜けていくのが分かる。
ザクリと脊髄を割り穿つような痛みが走り、かつて無いほどの速度で生成された回路を通して外から取り入れた魔力に引火して、炎が勢いを強めていく。

魔術回路。

魔術を行使する人間が保有する、魔力を流す擬似神経。
許せない、と思った。こんな殺人人形は、かならず壊してやると、そう思った。
全身を痺れるような痛みが駆け巡り、全身を魔力が駆け巡る。ひときわ大きな火花を発するイメージ。回路が完全に起動する。

「———同調開始」

キーワードを紡ぎ、右腕に魔力を流す。筋繊維の一本一本を脳裏に投影し、その隙間を埋めるように魔力を充填していく。

「———構成、解明」

失敗すれば、右腕はの筋繊維は魔力に耐え切れずに焼き切れ、二度と使い物にならなくなるだろう。

「———構成、補強」

だが、不思議と、失敗する気はしなかった。

「———全工程、完了」

術式を終了すると同時に、腕全体が膨張したような感覚が伝わる。
俺は術の成功を確信した。

407 :Fate/式神の城 ◆v98fbZZkx. :2007/11/09(金) 18:26:10

目の前では、銀髪が相変わらず迫り来る人形を銃弾で迎撃している。その弾丸は一発とて外れることなく、人形を撃ち砕いている。
だが、銃は一度に一発しか撃つことができない。
そして、一斉に飛び掛る九体の敵を撃つには、銀髪の銃はひどく頼りなく見えた。
かと言って、俺には武器など存在しない。都合よく地面に角材でも転がっている分けもなく、あるものと言えば人形の残骸と、少しの文房具だけだ。
だが、それでも十分だろうと思う。
俺は、ポケットに入っていた何本かのペンを右手で握りこむと、それを人形に向けて全力で投擲した。

ヒュンッ。

空気を切り裂く音とともにプラスティックの塊が飛行する。
そう、それはただのプラスティックの棒に過ぎない。だが、強化された腕力で投擲され、猛スピードで飛ぶそれは立派な弾丸となる。
豪快な破砕音とともに、シャーペンが人形の胴体に炸裂してその小さな五体を吹き飛ばす。投擲されたペンは三本、そのいずれもが狙い違わず人形の胴体を撃ち砕く。
「なんだ、やるじゃないか坊や!」
銀髪は口笛を吹き鳴らしながら三発の弾丸を人形に叩き込む。残数三。
「おっさん、下だ!」
俺は、《それ》に気付いて声を上げる。
撃ち砕かれて、地面に転がった人形の残骸、その手が、その頭部が、無数の破片が跳ね上がった。
銀髪が、あるいは俺が撃ち落とすには、それは多すぎ、そして小さすぎた。
残る三体の人形と連携するように、破片が先ほど俺が投げたペンと同じか、それ以上のスピードで、銀髪、そして俺のいる場所へと飛来しようとする。
万事休す。
だが、その絶望的な状況で、銀髪は左手を敵に向けて突き出し、さぞ面白そうに口元をほころばせていた。
「———雷球」

そして、その名が呼ばれた。

その名を呼ぶと同時に、目をくらませる閃光がほとばしる。
起こったことはそれだけだ。
それだけで、飛び掛ろうとしていた三体の人形も、降りそそごうとしていた破片も全部まとめて炭化して、コンクリートの上にはかつて人形だった黒い塊だけが、パラパラと降りそそいでいた。
銀髪は、人形を焼いたであろう光で煙草に火をつけながら、俺の方へ振り向いた。
「坊や、二ついいか?」
「あ、ああ」
「まず、俺はまだ29だ。おっさんはやめろ」
銀髪は、えらいまじめな貌で厳かに、俺に向かってそんなことを言った。
「なんでさ」
銀髪はちょっと傷ついた表情をした。
「……それとだ、よく聞け」
銀髪は先程よりも幾分か真面目な貌で俺を見る。ひやりと、背筋に緊張が走った。
「お前さんの術は出鱈目だ。使い続けるならちゃんとした師匠を見つけろ。死ぬぞ」
「う……」
サングラス越しでも分かるほど、銀髪の視線は鋭かった。
確かに、成功したからいいものの、普段の半分以下の時間で魔術回路を生成し、挙句に成功率一桁の強化魔術を自分の身体に施したのだ。もう一度試そうと思ったら、命がいくつあっても足りないだろう。
「ああ、分かった」
俺は素直にうなずいておく。もっとも、師匠の当てなど無いのだが。
「ふう、で、坊やはこれからどうする?」
「どうするって……」


俺は……
A:あの殺人人形を調べる
B:とりあえず学校にいく
C:おっさん、弟子にしてくれ

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最終更新:2007年11月16日 12:35