577 :運命夜行  ◆ujszivMec6 :2007/11/15(木) 20:14:39

 元々バゼットに聞きたかったのは、誰に襲われたのかということだ。
 それが新都の教会のモジャ神父だとわかった以上、当初の目的は果たしたと言える。
 バゼットのサーヴァントについては、ついでだから聞いとこうという程度のつもりだった。

「そういうワケだから、アンタが話せる範囲でいいぜ。話してくれ」
「話せる範囲ですか?」
「そ、要するに真名だの弱点がバレるのがマズいんだろ?
 ならさ、それがわからない程度の特徴……男か女か、とか髪型、とかそんなレベルでいいから」
「それくらいなら……そうですね、青髪短髪の野性的な感じのする男です」
「ふむ、青髪短髪の野性的な感じの男ね」
 ……やっぱそれだけじゃまったく真名は思いあたらないな。
 とりあえず青髪らしいから仮称「青いの」と呼んどくか。なんか他にもいろいろ青そうな気もするし。

「参考になった。そんじゃ今日はもうゆっくり休んどけ」
 そう言って部屋を出ようとした途端、バゼットに呼び止められた。
「あ、待ってくださいアンリ。もし彼に出会って……襲われるようなことがあったら、彼を食事に誘ってみてください」
「食事?」
「はい、食事です。彼ならその誘いに応じるはずです」
 ふむ、食事ね。……確かサーヴァントに食事は必要ないはずだったよな。オレみたいな例外はともかく。
 それとも生前よっぽど食いしん坊なヤツだったのだろうか。
 例えばはむはむこくこくとかもっきゅもっきゅとかそんな勢いで。
 ……ん? 今なんかヘンなイメージが頭をよぎったような。

「……とりあえず、それらしいヤツに襲われたら試してみるな。
 そんじゃお休み、バゼット」
「はい、お休みなさい、アンリ」
 そう言って、今度こそバゼットの部屋を出た。

 ※『青いのへの対策』 青いのとの戦闘の際、選択肢が増えることがあります

578 :運命夜行  ◆ujszivMec6 :2007/11/15(木) 20:15:39

 ———さて、この辺でいいか。
 母屋と離れを繋ぐ廊下で立ち止まって声をかけた。
「出てこいよ。今の話、聞いてたんだろ?」
 その瞬間、オレの背後にいた赤いのが実体化した。
「……やはり貴様、見えていたか」
「まーな。ごまかしたって仕方ねぇし」
「では、やはり貴様はサーヴァントということなのだな?」
「あ、それは誤解。オレは今回の聖杯戦争とはなんの関わりもねーよ」
 説得力ゼロなのは自分でもわかるが、事実だから仕方ない。

「……ふざけるな。この時期、この冬木市に存在する実体化できるほどの霊体が、サーヴァント以外のなんだというのだ?」
「たまたまこの時期、この冬木市に住んでる実体化した霊体だよ。まあ、全くサーヴァントと関係がないわけじゃねーけどな。
 少なくとも、今のオレはサーヴァントじゃない」
 まあ、言うなれば、元サーヴァントといったところか。

「ならば聞こう。貴様は一体何者だ」
「……何者だと聞かれてもな。強いて言うなら衛宮杏里。穂群原学園に通う学生で、この家に住んでる衛宮士郎の兄弟だよ」
「———そんな戯言を聞いているのではない。貴様、衛宮士郎の兄弟になりすまして何を企んでいる」
「何を企んでる、と言われてもな。たまたま親父に十年前に拾われて、たまたまこの家の養子になっただけだ。
 士郎も同じよう養子になってな、兄弟になったのは本当に偶然なんだよ」
 またしても我ながら説得力ゼロだが、これも事実だ。

「……そんなはずはない。衛宮切嗣が拾った子供は一人だけだ。衛宮士郎に兄弟などいるはずがない」
 ———どういう意味だ? オレの言葉を疑ってるだけにしては、妙なところに食いついてくるな。

「こっちは実際に十年前からこの家に住んでるんだ。
 そこを否定されてもな。どこで聞いた話かは知らねーけど、アンタの仕入れた情報が間違ってるんだろうさ」
「そんな、馬鹿な……いや、もしや……あの召喚が原因なのか?」
 何か思い当たることでもあったのか、赤いのはブツブツ呟いて考え込んでいる。

「おい、何だ突然。今の説明で納得したのか?」
「……貴様の説明などで納得などできるはずがないだろう。
 だが、一つ確かめなければならない事ができた。全ては、それからだ」
 そういい残して、赤いのは霊体化してしまった。

「おーい、オレなんぞより、新都の教会のモジャ神父を探ったらどうだ? ヤツは間違いなくクロだぜ?」
 霊体化した赤いのに声をかけたが、聞いているのかいないのか、返事は返ってこなかった。

579 :運命夜行  ◆ujszivMec6 :2007/11/15(木) 20:16:44

 居間に戻ると、藤ねえと遠坂がちょっとした言い争いをしていた。
「ですから、衛宮くんたちへのお話というのは、すこし長くなりそうなんです。
 わたしは少々遅くなっても大丈夫ですから、藤村先生はお気になさらないでください」
「ダメよ。遠坂さんも葛木先生から聞いたと思うけど、最近物騒なの。
 長くなるんならお話は明日にして、今日はもう帰りなさい。わたしが送っていってあげるから」

 どうしたもんかと居間の隅から二人の言い争いを眺めてると、士郎が話しかけてきた。
「どこ行ってたんだ、杏里。あのあと大変だったんだぞ」
「バゼットを部屋まで送っていったんだよ。一応ケガ人だからな」
 まあ、本当はそれだけじゃねえんだけど。

「で、この状況はなんだ?」
「ああ、もう夜遅いからな。藤ねえがそろそろ遠坂に帰れって言い出したんだよ」
「なるほどな」
 グッジョブだ、藤ねえ。
 最近は物騒だという建前がある上に、今の藤ねえは教師モードだ。
 さすがの遠坂も今回は旗色が悪いようである。

 結局、遠坂は藤ねえが送って帰ることになった。
 玄関で二人を見送る。
 内心はどうだか知らないが、遠坂は表面上は極上の笑顔を浮かべている。
「今夜はご馳走様になりました。明日こそはちゃんと話をつけさせてもらいますね」
「行こっか、遠坂さん。それじゃまたね、士郎、杏里」
「おう、さっさと帰れ帰れ」
「それじゃお休み、藤ねえ、遠坂」

「ところで遠坂さんの話ってなんだったの?」
「ちょっとプライベートに関わることなので秘密です。大した話じゃないんですけどね」
「えー、気になるなぁ」
 玄関の扉越しに聞こえる、遠坂と藤ねえの声が遠ざかる。
「大丈夫かな、俺も送っていくべきだったかも」
「大丈夫だろ。送り狼ならぬ送り虎がいるし。
 藤ねえの腕っぷしはオレたちが身をもってよく知ってるだろ」
 それに、遠坂は魔術師だし、赤いのもいるしな。

580 :運命夜行  ◆ujszivMec6 :2007/11/15(木) 20:17:34

 客人のいなくなった居間で、テレビをぼーっと見ながらくつろいでいると、
 台所で洗い物をしていた士郎が話しかけてきた。
「なあ杏里」
「ん? なんだ?」  
「なんか遠坂や藤ねえが来たからうやむやになってたけどさ、バゼットさんって何者なんだ?」
 あ、やっぱ気になるか。

「怪我していたところをたまたまオレがみつけて助けただけだから、オレも詳しいことは知らねーんだ」
「でも、弓道場ではたしか魔術師だって言ってたよな」
「ああ、どうもそうらしいな。左腕無くしたのもどうも魔術がらみらしいし」
「左腕を無くしてる?」
「え? オレ何かおかしい事言った?」
「……そうだ、そう言われてみれば確かにバゼットさんには左腕がなかった。でも、なんで気にならなかったんだ?」
 あ、そういえば晩飯の時も誰も左腕にについては触れなかったな。

「そりゃアレだ、そういうのが気にならなくなる魔術とか使ってんたんだろ? 催眠術みたいなやつ」
「あ、そっか。魔術師ならそういうこともできるよな」
「おいおい、オマエの方が真っ先に魔術を思いつかないとダメだろうが、現役魔術師見習い」
「すまん、確かにそうだよな」

 藤ねえも多分それでごまかされたんだろう。
 遠坂と赤いのは気づいてて黙ってたのかも知れないが。

「でもそれじゃ、なんでバゼットさんは左腕を無くすようなことになったんだ?」
「そこらへんの事情は明日詳しく聞こうぜ。バゼットももう寝てるだろうし」
 まあ、オレは一足先に聞いちゃったんだけどな。
「そうだな、遠坂も明日、何か話があるらしいし明日は忙しくなりそうだな」

 ふと時計を見ると、もう零時近くだ。
「士郎は今から鍛錬だろ?」
「ああ、杏里はもう寝るのか?」
「おう、今日は色々ありすぎたからな。さっさと寝ることにする」
「そうか、それじゃお休み」
 そう言って士郎は日課の鍛錬に向かった。

 さて、オレももう寝るとしよう。
 部屋に戻り、寝巻きに着替え、布団に潜り、さて、寝るかと目を閉じた途端———

 女帝の正位置:玄関のチャイムが鳴った


 吊るされた男の正位置:結界の鳴子が鳴った

 塔の正位置:庭の方から破壊音がした

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最終更新:2007年11月18日 23:17