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鮫伏島の場合 > 1


…本日は極めて珍しい『能力』の発現を示す『鮫伏島』の事例を紹介したいと思う。
人口わずか七十七人。島民の殆どが農業に従事しているこの島は、全ての住人が共通した能力を持つ、全国でも珍しい共同体である。夜明けと同時に起こる強制的な『意識交換』により、島民は自分以外の『誰か』の体で日中を過ごすのだ。
入れ替わりは全く無作為であり、性別、年齢は関係ない。今回は『チェンジリング・ディ』以降、日没後だけが『自分』の暮らしとなった島民たちの一日を説明するため、ひとりの女子中学生、蛸船美香ちゃんのある日を追ってみよう。

蛸船家の朝は早い。とはいえ島民の半数が蛸船姓(次に多いのが烏賊崎姓)のこの島で今朝美香ちゃんが目覚めたのは、担任教師である『ヒルマ先生』の体の中だった。
ヒルマ先生も蛸船姓なのだが、テレビに出ている偉い学者にちょっとだけ似ているので、生徒僅か五人の分校のみならず島民全員にそう呼ばれているのだ。
いまや異性の身体の様々な違和感にもすっかり馴れている美香ちゃんはむくりと起き上がり、島民の枕元に必ず置かれている『重要メモ』をまず見る。
『特に無し』。不精な独身男らしい殴り書きを一瞥した美香ちゃんは、万年床を這い出して階段を降りた。一階は煙草屋、ヒルマ先生はこの煙草屋の一人息子だ。

『…おはよー』

島民の殆どはお互い、直感で『誰が誰だか』判る。今日一階の店舗屋兼リビングで先に朝食を食べている先生の年老いた母親は、美香ちゃんの同級生、サッちゃんだった。

『おお、今日は親子で登校?』

『そーだよ。クルマ出せないから早く出なきゃ。』

学生は辛い。まず大抵どんな身体に宿っても学校には行かなければならないからだ。

目覚めた家に『大人』がいれば学校まで優雅にドライブ、の可能性もあったのだが…
たとえ身体は大人でも中学生に車の運転は出来ない。急いで朝食を平らげた二人は、老婆とその独身息子、という風体でいそいそと学校に出掛ける。
眩しく潮風溢れる島の外周道路を、二人がキャッキャとふざけながら自転車で走る光景はいささか不気味だが、これも鮫伏島では珍しくない日常の景色なのだ…

続く?



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最終更新:2010年07月11日 08:38
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