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鮫伏島の場合 > 2



早くもギラギラと照りつける日差しのなか、島の高台までひたすら自転車を漕いで美香ちゃんたちは中学校に到着する。校門をくぐるとセーラー服を着た『美香ちゃん』が一心不乱にバットを振っていた。

『…あ…』

『…おう…』

美香ちゃんを一瞥して小さく唸り、また寡黙にスイングを続ける今日の『蛸船美香』は唯一の三年生、烏賊崎龍彦に違いなかった。彼とは家も近く小学校までは大変仲が良かったのだが、最近はあまり口をきかない。
別に喧嘩をしたわけではなく、美香ちゃんが中学校に入った頃から急激に背が伸び、声も低くなった彼を、もう『タッちゃん』という愛称では呼びにくいのだ。
心なしか大人びて見える自分の身体を無言ですり抜け、美香ちゃんは一.二年生の複式クラスへ向かう。このところよく彼女を襲う、泣きたくなるような切なさは、賑やかな教室に入っても消えなかった。

『…おはようございまーす。』

今日のヒルマ先生は白髪の郵便局長だった。偶然クラスの生徒たちも中高年揃いでなんとなくむさ苦しいが、この奇妙な暮らしが始まってから、『働き盛り』の切実な体力低下をよく知っている美香ちゃんたちはこんな日、、親父たちを労る意味で出来るだけ大人しく過ごすようにしている。
まあ、むやみにタフな小学生ボディのときは、みんな必要以上に馬鹿騒ぎするのだからバランスは取れているし、なにより島民の身体はみんなのものだ。健康や安全に注意するのはある種の義務でもあるのだ。

『…例題2、次の文章の中で…』

眠気を催す教卓からの声。だが時々自分の身体が気になるらしいヒルマ先生/郵便局長の視線は美香ちゃんから離れず、うかうか居眠りも出来なかった。
窓から見える美しい岬の風景と裏腹に、美香ちゃんの憂鬱は続く。タッちゃん…烏賊崎龍彦は今頃何を考えているだろう。『チェンジリング・デイ』が無ければ、本土の高校へ通い、島では出来ない野球をする筈だった彼。
…だのに彼は今日、女の子のベッドで目覚め、ヘアゴムを付け、セーラー服を着ているのだ。一体ブラジャーはどれを選んだのだろうか…
言葉にならぬ想いのままに頬杖をつくと剃り残したヒゲがじゃりじゃりとして、美香ちゃんはまた少し泣きそうになった。

続く

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最終更新:2010年07月16日 08:51
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