1班の隊員室
狭い部屋では数人の隊員達が談笑している。
席替えで隣同士の机になったトトとイサミが忙しそうに仕事をしている。
捺印した書類を片っ端からトトの机に投げるイサミ。
机の上の電話が一斉になる。
いつものようにワンコールで電話を取るシホリ。
「1班です……、すみません。毎度毎度」
シホリが電話越しにペコペコと頭を下げる。
「どないしましたの?」
「マミがまた道場破りをしかけたそうで」
「今度はどこの班じゃい?」
「4班だそうです」
「それで?」
「勿論返り討ちにあって、袋叩きにあってるそうです」
全長5mは優に超える長寸の大太刀を背中にさすシホリ。
「センジュはん悪いんやけど……、例の件と合わせて頼めまへんやろうか?」
「御意!」
走って出て行くシホリ。
「マミはんといえば、そろそろ入隊6ヶ月やさかい、仮免許卒業の時期やなぁ」
「どうすんじゃい?」
「どうするも何も3年越しで補充が欲しい言うて申請出して、
やっと入った新人でっせ?決まってるやないですか」
「正採用にするっちゅうこっかい?」
軽く頷くトト。
「じゃが、最近定時ダッシュばっかりじゃし、朝も遅刻ギリギリじゃろう?
案外男でも出来てアッサリ寿とか……」
「ウチより先に寿なんて、1班では許されまへん」
「その1班唯一のルールで、どれだけの優秀な隊員が逃げたと思っとるんじゃい?
そんなことじゃから、1班は全班中で最少人数なんじゃないんか」
「少数精鋭と言って欲しいどすな」
「まぁ確かにそれは言えるわな」
「そろそろ、マミはんにも1班の本来の役目を、話しても良い頃合いや思うんやけどどう思います?」
「諜報活動のことか?どこまで話すつもりなんじゃい?
まさかとは思うが、ワシやハンニャのことまで話すんじゃなかろうな?」
「現在進行形のハンニャのことは話まへんて」
不満そうな表情のイサミ。
「冗談やて!監察の手伝いもしとるっちゅう話を
いつものようにするだけやさかい」
「そこまで話すんなら、
他の班に小娘が弱いちゅうのを宣伝して回るようなことは、
そろそろ止めさせた方が良いんじゃなんかい?」
「確かに長い目で見たら百害有って一利無しやさかいな。
それに課の風紀の乱れにも繋がりますねん」
ウーンと唸り声を上げるトト。
「なんじゃい?」
「コードネームも考えなあきまへんで」
「そういうことはお前に任せとるはずじゃろ。
頑張るんじゃのぉ、隊長さん」
ククククと笑うイサミ。
辞書と睨めっこしながら唸り声を上げるトト。
月明かりで照らされる地面。
地面に転がって気絶している真実。
背の高い男女数人が代わる代わる蹴りを真実に入れている。
「てめ生意気なんだよ!」
「今度ふざけた真似したらタダじゃおかないよ」
腕組みをしてそれをみつめるイズコとシホリ。
(懲りないというか、なんというか)
「止めなくて良いんですか?」
「少し痛い目に遭った方が良いのさ」
「そんなこと言っちゃって良いんですか?」
目を細めるシホリ。
「どうせ聞こえちゃいないさ……、それに……」
首を傾げるイズコ。
冷めた表情で袋叩きの真実をみつめるシホリ。
懐から刀を取り出す女。
「おい、やめとけって!」
「かまやしないよ。一生鏡が見れない顔にしてやるよ!」
「やれやれ!」
囃し立てる周囲を囲む男女。
「どりゃぁぁ!」
ドカンという大きな音。
「丸腰に得物まで出すことはないだろ?」
「先に仕掛けてきたのは、その娘なんだよ?」
ボロボロになって地面に倒れている真実の前に立つシホリ。
地面に刺さった大太刀。
「だから落とし前をつけさせるために黙って見てただろ?」
ニコリと笑って大太刀を引き抜くシホリ。
「素手なら放っておこうと思ったが、1班副長助勤センジュのシホリがお相手居たそう!」
「なんだ?アシュラが戻ってきた途端に副長から外された癖に、随分大きいこというじゃないか」
「班の内部のことまで、お前等に話す義理はない!私はこの人事に納得している」
軽々と大太刀を振り回すシホリ。
ビュンビュンと風が起きる。
後ずさりする男女。
1人・2人と逃げ出していくとあっという間に居なくなる。
「ふん!情けない!」
踵を返ししゃがみ込むシホリ。
「まさかあの程度で死んでないだろうな?」
「すみません……、失敗しちゃって」
無表情でシホリがイズコを呼ぶ。
「悪いんだけど、この娘の傷を治してやってくれないか?」
「構いませんよ」
イズコがトールの嘆きで真実の傷を治す。
具現化する真実の傷。
それを一撃で消し飛ばすシホリ。
「構えろ……」
「は?」
キョトンとして顔を見合わせるイズコと真実。
「もう我慢できん……」
起き上がる真実。
「何の事でしょうか?」
「度重なる醜態の数々……、1班の恥さらしを許してはおけん」
(恥さらしってそんな言い方しなくても良いのになぁ)
シホリが構えを取る。
「お前の行為は1班の気高き誇りと、任務に全てを捧げる1班隊員の名誉を著しく傷つけた……」
口を尖らせる真実。
軽々と大太刀を振り回すシホリ。
「危ないですって!!!」
真実が素早く後ろに飛ぶ。
「散々好き勝手やってきたんだ……、そろそろ結果を見せてもらおう」
後ずさりする真実。
「勝てるわけないじゃないですか!」
「姐さんには間に合わなかったと伝えておく」
「そんな……、馬鹿な話……」
「アンタ見てるとイライラするんだよ」
首を傾げる真実。
「強くなる強くなるってなってどうしたいんだよ?」
「それはその……」
口ごもる真実。
「今のお前の剣は人を傷つけ、さらには自分をも傷つける凶剣なんだよ。
力に力で対抗してたら、もっと強力な力に潰されて終わりだ」
イズコの方を一瞥する真実。
「確かにアタシは人を傷つけてるかもしれません……、
でもまだ死ぬわけにはいかないんです」
サムライガールに変身した真実がジリジリと間合いを詰める。
(あんな重そうな刀持ってるんだから、近距離戦闘には弱いはずよね)
欠伸をしながらそれを見つめるシホリ。
「余裕のつもりですか?」
一気に加速し、突きを繰り出す真実。
「必殺……、あれ?」
真実の刀を楽々と掴み手で折るシホリ。
「お前の剣は軽いんだよ……、冥土の土産に本当の必殺技というものを味合わせてやろう」
シホリが間合いの無い密着状態から上半身を捻り、刃を地面に水平な状態で真実を突く。
ぶっ飛ばされる真実。
「守るべきモノが無ければ、人は強くはなれない……」
踵を返し暗闇へと消えるシホリ。
口から血を吹き出す真実。
急いで駆け寄るイズコ。
「大丈夫ですか?」
「やばいよ。何か意識が……」
「しっかりしろ!」
「アタシ間違ってたのかな?」
「そうみたいですよ……」
「早く治してよ」
「私の能力は一晩に一回しか効果有りませんよ」
(え……、やばいじゃん……)
血の気がひいていく真実。
懐から傷薬を取り出すイズコ。
出血で赤くなる地面。
弓矢の風を切る音。
イズコがそれを素早く避ける。
「誰です?」
800mくらい離れた所から弓を構えているエリカ。
(困りましたね。方向はわかるけど流石に見えません)
イズコが両手を挙げバンザイする。
弓矢が真実を貫く。
グァと叫ぶ真実。
地面に零れていた血がみるみる真実の体に戻っていく。
命中を確認し闇へと消えるエリカ。
「アタシ生きてるの?」
「そのようですね」
抱きしめるイズコ。
「いたたたたたた」
「痛みまでは治して貰えないみたいですね」
満月が雲に覆われフクロウの鳴き声が聞こえる。
翌日
トトに会議室へと呼ばれる真実。
(首なのかな?)
真実が戦々恐々としながら会議室のドアをノックする。
「どうぞ」
席に座るよう促され恐る恐る席に着く。
「何で呼ばれ思います?」
首を横に振る真実。
「マミはん正採用になったんどす」
浮かない表情の真実。
「どうしたんどす?」
「アタシなんか班に居て良いんですか?」
首を傾げるトト。
「センジュさんとかアタシのこと嫌ってますよね?」
「そないなことないでっしゃろ?教育係も買って出てくれたくらいやし」
凍り付く真実。
「今……、なんと仰いました?」
「なにって?教育係の話やないですか」
体をガクガクと震わせる真実。
「じょじょじょ冗談じゃないですよ!殺され掛けたんですよ!」
「でも生きてるやないですか。
センジュはんがもし本気で殺す気やったら即死でっせ?」
「殺す気でしたって!ていうか死んだと思いましたよ」
「もう知ってる隊員も少ないんでっしゃろうが、センジュはんが荒れてた頃は凄かったんでっせ!
ウチなんて毎日他の班に菓子折持って、病院や隊員室に謝りに行ってたくらいでっせ」
懐かしそうに笑みをこぼすトト。
「何があったんやろうな。ある日突然、急に真面目になったんどすぇ」
「……」
固唾を呑んで耳を傾ける真実。
「お喋りがすぎましたな、とにかく教育係はセンジュはんどす」
「そんなぁ……」
「センジュはんの下で心技体を鍛えて早く一人前になっておくれやす」
憂鬱そうな表情を浮かべる真実。
「せやせや、コードネームなんやけどな。
『ミョウオウ』いうのはどやろうか?」
「ミョウオウ?」
「伝説の武王の名前でっせ!名前負けせんように、心機一転がんばりなはれ」
フウという息を吸い込み部屋を後にする真実。
「アタシこのままで良いのかなぁ……、同期のみんなはどうするんだろう……、
今夜同期会だしちょっと様子を聞いてみよっと」
トボトボと廊下を歩く真実。
それを腕組みして心配そうに見つめるトト。
登場キャラクター
最終更新:2010年10月03日 19:00