日本料理店のような店内。
真実が店内を見渡す。
「きゃははは!」
カエデの楽しそうな笑い声が聞こえる。
真実が声のする方に歩き出す。
店員が素早く近寄ってくる。
「霧隠の連れです」
「かしこまりました」
丁寧にお辞儀をしてから店員が先を歩く。
沢山の魚が泳いでいる生簀。
調理場には清潔感のある白衣に身を包んだ板前が、手際よく活け作りを作っている。
一部屋一部屋が襖で仕切られた部屋。
(会費大丈夫かなぁ?)
財布の中を心細そうに確認しため息をつく真実。
「こちらになります」
襖がゆっくり
「お疲れ~」
一角の掘りごたつの個室に向かう真実。
白い手袋をした霧隠とカエデ、それにリョウコが座っている。
首を傾げる真実。
「こんだけ?」
「しょうがないよ。入隊してもう6ヶ月だもの」
「タカノリとトンマとユウキと凛子は夜勤だってさ」
「え~、ユーちゃん来ないの」
席に着く真実の前にグラスが置かれる。
「そいじゃ、お疲れ」
グラスのぶつかる音。
一気にグラスを空にする真実。
「ていうか早!」
呆れた様子のリョウコ。
「飲まなきゃやってらんないんですよ」
「荒れてるねぇ」
「当たり前よ!この前だって同期会だって言ってるのに、
ワザと帰り際に仕事頼んでくんだよ?」
「言うからだよ。言わなきゃいいんだよ」
再びグラスを空にする真実。
「みんなはどんな感じなんですか?」
「あっしはうまくやってるっす」
「僕は一緒に配属になった同期みんな辞めちゃったけど、
凛子さえいればそれで良いんだ」
フッと吹き出すカエデとリョウコ。
真実の前に並ぶ空のグラス。
「みんな辞めちゃんですか?」
「嘘でしょ~、基本各班に1人で、後全員7班だったのに」
「7班ってブラックなんだっけ」
「しょうがないよ。医療・回復要員だから他の班から馬鹿にされてるしね」
「アタシの班も似たようなもんだよ!女ばっかりだからって……」
リョウコが枝豆に手を伸ばす。
「1班にそんなこと言う命知らずがいるの?」
「いますよぉ。フウジン先輩とライジン先輩がすぐ抗議してますけど」
「誰それ?」
首を傾げる一同。
枝豆を口に放り込みながら、身振り手振りで説明する真実。
「鎖鎌の達人と、槍の達人なんですよ!」
「アンタさぁ、班変わった方が良いんじゃないの?」
「何でですか?」
「明らかに浮いてるっていうか……」
相槌を打つリョウコ。
「だってマミってウチ等同期の中でも、可もなく不可もなくだったじゃん」
「戦闘集団って感じじゃないよねぇ」
「これから頑張れば良いんですよ~だ」
グラスを一気に飲み干す真実。
ウーロン茶を片手に真剣な表情で霧隠が呟く。
「アシュラさんとは、いつか勝負してみたいな……」
真実が言葉を失う。
「なんでもない。気にしないで」
首を傾げる真実。
「ところで、みんなは今の班で正採用になるんですか?」
頷く一同。
「アタシはどうしよっかなぁ?」
「馴染めないんなら、転属希望出しちゃえば?」
「でもさぁ、私達これからどうなるんだろう?」
料理に舌鼓を打っているカエデ。
「アタイは玉の輿見つけてサッサとトンズラするさぁ」
「それは無理じゃないかな」
ドッと笑い声がおこる。
「そんなことはないっす。先輩で格好いい人見つけたっす」
夜は更けていく。
翌日
(昨日はちょっと飲みすぎちゃったかな)
結局昨日は店中の酒を殆ど1人で飲み尽くし、翌日昼番にもかかわらずカエデと三軒もハシゴしたのだ。
ズキズキする頭を押さえながら、真実が廊下を歩いている。
廊下に反響して話し声が聞こえる。
周囲に他に人気がいないことを確認してから、ちょこんと壁に耳をあてる真実。
(この声はセンジュさん……?)
「先日はウチの隊員がとんだご迷惑を」
平謝りのシホリの声。
真実が驚きながら、壁際を小走りに走る。
ガチャンというドアの閉まる音。
(あれは4班の隊長さん?)
先日、返り討ちにあったことを思い出し、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる真実。
ザイヤとシホリが神妙な顔で話している。
おもむろに手に持っていた紙袋をザイヤに渡すシホリ。
「お気遣いなく、もう十分ですよ」
「そういわず、つまらない物ですが、皆さんで召し上がってください」
「道場破りなんて、最近の若い子にしては積極的で良いじゃありませんか
ウチの新人にも見習わせたいくらいですよ」
「確かに積極性は買いたいところですが、
それはそれ、これはこれ……。ケジメは付けなければ」
ペコリと頭を下げるシホリ。
「いやぁ、実はウチの隊員の何人かがよほど悔しかったのか、熱心に訓練をするようになりましてね……」
「随分派手にやってしまったようで」
「マミさんでしたっけ?
彼女の剣は人に希望を与える、言わば活人剣なのかもしれませんね」
「買いかぶりすぎです……」
「そうですかねぇ?」
フフフと笑うザイヤ。
「あまり上手くいっていないようですね。では隊長らしくアドバイスを一つ……、
人を育てたければ、まずは相手を認め、そして褒めることです」
「褒めるですか?」
「笑う門には福が来たるというやつです」
ニコリと笑うザイヤ。
最敬礼して歩きだすシホリ。
ドアがしまる音。
(アタシのこと嫌いだったんじゃないの)
訳がわからないといった様子の真実がシホリのあとをつける。
その後も次々と真実が道場破りをした隊にお詫び行脚するシホリ。
(まさか今までもこうして謝ってたわけ?)
唖然とする真実。
腕組みをしたシホリが一班の隊員室に入っていく。
顔を真っ赤にして後をおう真実。
「どこ行ってたんどす?」
「散歩です」
「長い散歩だったどすな」
慌てて物陰に隠れる真実。
(何で隠れなきゃいけないのよ)
「その後どないなっとんです?」
「相変わらず、他の班に喧嘩打って回ってるみたいです……、すみません」
「一度ちゃんと話した方がええんちゃうん?ウチからいいましょうか?」
「待ってください!自分で気がつかないと同じ事を繰り返すんです!
そして最後には道を踏み外します……」
「いっそ他の班に飛ばします?」
「そ!それだけはやめてください!
今は現実から目を背けて背伸びしていますが、自分以外の者のために刀を振ることを知って、
段階を踏んでいけば必ず強くなりますから!」
「いつも言うとりますやろ、1班には強いだけの隊員ならいりまへんて」
延々と続くトトのお小言。
(何で言い返さないのよ。アタシなんかのこと庇うのよ)
「なんか言うてみなはれや」
「……してみせます……」
「何言うてまんのん」
「姐さんが私を一人前に育ててくれたように、
私があの子を1班に相応しい心技体の揃った隊員に育てて見せます!!!」
「言うのは簡単でっせ?」
「もし3年経って一人前に出来なかったときは、その場で腹を切ります!!!」
「本気どす?」
力強く頷くシホリ。
「ほな、任せますわ。よろしゅう頼みましたで」
「ありがとうございます!」
物陰から飛び出す真実。
(なんなのよ!意味わかんないわよ)
真実が隊員室に背を向けて走り出す。
「ちょっと危ないわね!」
「ミョウオウも仕事でしょ?」
初芽と千鶴が廊下の端に避けながら叫ぶ。
「体調不良です!!!」
呆れて憤慨する二人。
「もうあり得ない!」
「また残業か……、全く人使いが荒いはんよのぉ」
裏山をダッシュで登る真実。
誰も居ない高原。
「何でアタシなんかのために、あそこまで言うのよ!!
それに姐さんにあんなに言われて……」
目を瞑る真実。
「でも一言も言い返さなかった……。
アタシのこと庇ってくれてた……」
大きくため息をつく真実。
(アタシは何やってるんだろ)
「ズル休みまでしちゃって……」
真実が地面にへたりと座り込む。
「言われてみれば、あれだけ道場破りしてたら報復位来るはずなんだよね。
ずっとアタシの知らない所で、謝って回ってくれてたんだ」
真実の大きな瞳から零れる涙。
「あれ?なに?なに?」
慌てて涙を拭う真実。
「止まらないよ……」
顔を両手で覆う真実。
「アタシどうしたらいいの?」
目を瞑ってガイアブックを発動させる。
『本当の強さ』『
バフ課』
目の前が真っ暗になる。
(答えは自分で見つけるしかないってことか)
一週間後
「お……、おはようございます」
白い目でみる隊員達が目を疑う。
照れくさそうに笑う肩まであった自慢の黒髪をバッサリ切った真実の姿。
「アンタどうしたの?」
「駆け落ちしたって聞いてたんだけど!」
隊員達が真実の周りを囲む。
シホリがそれを掻き分け真実の前に立つ。
「一週間も無断欠勤した償いのつもりか?」
深々と頭を下げる真実。
「色々すみませんでした。
これからは1班の隊員として、その名に恥じぬよう精一杯頑張ります」
首を傾げるシホリ。
「だから、この班に居させて貰えませんか?」
「その前に一つ聞こう……、その剣を何のために振るうつもりだ?」
鋭い目つきで真実を睨み付けるシホリ。
「守るためです。信頼や愛情とかそう大切なものを……、それと応えるためです。
アタシを支えてくれるみんなの期待や希望に……」
背筋を伸ばし、ハッキリとした口調で答える真実。
見つめ合う二人。
「志半ばで散っていった後輩や同僚は数知れぬ、
全てを叩き込んでやるから、私より先に死んだら承知しないからな」
深く頷く真実。
これが後に1班の顔と呼ばれる『ミョウオウ』の誕生になるのだが、それはまた別のお話。
登場キャラクター
最終更新:2010年10月03日 19:54