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智紀が透華によって強制的に同行を余儀なくされていたその頃、咲と衣は2人が話していた通り、ケータイショップから程近いところにあったファミレスに入り、注文をするべくメニューを熟読していた。

その店はファミレスらしくメニューにあまり偏りがなく、様々な料理を食べられることを売りにしているようで、中華から洋食など実に多彩なメニューを取りそろえていた。

「うーん。いっぱいあるね・・・迷っちゃうなぁ・・・衣ちゃんは何にするの?」

咲はまだメニューを決めかねているのか、開いていたメニューを一度パタンっと閉じると対面側に座る衣に向かってこう尋ねた。

窓から見える風景に目をやっていた衣は先の呼びかけに応じてそちらに顔を向けて咲に答えた

「うむ。衣はハンバーグエビフライにしたぞ!!」

「ハンバーグエビフライ?」

「そう。これは衣と今は亡き父君と母君との思い出の品で・・・大好きな料理なのだ。変か?やっぱり・・・」

衣の選んだ料理の名を聞いた咲は意外そうな表情を浮かべる。すると衣はそれが悪いことなのかもしれないとでも取ったのであろうか、少し表情を曇らせながらいった。しかし、咲は手を何度も何度も横滑りさせながら否定するとこう言ってきた

「ううん!全然そんなことないよ!!・・・うん。私もそれにする」

「・・・良いのか?それで」

咲のその言葉に衣はその表情を少しだけ嬉しそうにするが、すぐに表情を元のそれに戻すとすこし怪訝そうにしながら尋ねてくる。しかし、咲はすぐにううんと首を横に振りながらこう言ってきた

「うん、もちろん。決められないでいたし。逆に助けてもらった感じだよ。」

「咲が良いなら、それで良いのだろうな。よし、それにしよう」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「・・・2人とも同じメニューにしたようですね」

「ハンバーグエビフライ・・・衣の大好物ですわ。まぁ、想定内のチョイスですわね」

「とーか。原村と合流してから何か嬉しそうだね・・・」

「・・・国広君、ものすごい力で俺の服の袖を掴むのやめてくれないかな。痛いんだけど」

「・・・・・・・・・・・・ぅむ」

「・・・どうしてこうなっちゃったんすかね?」

「本当にそうですよね・・・」

咲と衣が楽しそうに歓談しているその一方で、透華たちはファミレスに到着するなり何やら不穏な雰囲気を漂わせていた。事の発端は席の振り分け

流石にファミレスにあるような席に7人が座るのは不可能である。なので、4人+3人で座ることにして席決めをした。その結果、和と透華、智紀で1席。そして、一と純、それに桃子と数絵で1席という形になっていた。

その結果にもちろん喜ぶ者もいれば、怒る者もいるわけで・・・

「原村和!!」

「はい。なんでしょうか?」

「・・・な、なんでもありませんわっ!」

「???」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」

「ちょっ!国広くん!?関節!その関節はそっちに曲がらない!曲がらないから!」

「はぁ・・・」

目のあたりに広がる阿鼻叫喚の地獄絵図に目を覆いつつ吐いた桃子と数絵のため息が重なり、虚空に消えようとしたその瞬間。携帯電話の着信音が辺りに一斉に響いた。

「「「・・・え!?」」」

和、桃子、数絵の3人の少し間の抜けたようなびっくりとした声がほぼ同時に重なるように発せられる。

無理もない。

その発信者は彼女たちが思っていたような人物ではなかったからだ。しかも、その人物はすぐそこにいて、話そうと思えばすぐに話せたからである。でもある種納得していた、その人物はそのような労をとらない限りこの状態でコミュニケーションを取れないからだ・・・その名は

Message: from-紫炎姫

http:///○○○~~

ここに来てくれ


~別館長野女子部屋~

のどっち さんが入室しました

ステルスモモ さんが入室しました

namber さんが入室しました

紫炎姫;よぅ。使えない子たちノシ

のどっち:・・・なんでこんな近くにいるのにわざわざチャットなんてしなければならないんですか?

ステルスモモ:おっぱいさん、それは聞かない約束っすよ・・・この状況っすし察してあげましょうよ

namber:そうですよ!このままじゃぁ紫炎姫さん、今日一日中話すこともできないんですから。

紫炎姫:・・・ありがとうよ。まぁ、変に気は使わんでいいからいつも通り会話してくれ。それとのどっちは素の状態をキープしといてくれよ?変なところでボロ出さんようにな

のどっち:わかってます。というか、リアルではあんな喋り方絶対しません!!

紫炎姫:そうか?事実、ネットでも切り替えできない時もあるみたいだし。もしかしたらリアルでも影響するかもしれない。大体、ネットしてるときに他人と話すことなんてめったにないだろ?警戒しておくにこしたことはない。・・・私にはこれ以上のミスは許されないからな

ステルスモモ:警戒しまくりっすね。仕方のない話っすけど

紫炎姫:おう、当たり前だ。これ以上は死につながる

のどっち:死って・・・で、あのですね。南場さん、お願いがあるんですが

namber:・・・はい。なんでしょうか

のどっち:確か、南場さんは国広さんと仲が良いんですよね?なら・・

紫炎姫:無理だ。あきらめろ

ステルスモモ:おっぱいさん、それは無理なお願いが過ぎるっすよ

のどっち:何でですか!?あの殺気に満ちた視線を受け続けるのがどれくらい辛いかわかってくださいよ!

ステルスモモ:それはわかるっすけど・・・あの手品さんに刃向かったら大変な目にあいそうな気がするんすよ。

紫炎姫:・・・はじめは最近本当に怖いから。むやみやたらに手を出すのは危険。ここは静観すべき

のどっち:そんなに言われるのならそうしますが・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

智紀たちが携帯電話を弄り、透華の監視下にないネット上での会話を楽しんでいた。そんな時、彼女たちが座るテーブルにいくつかの人影が止まり、携帯電話を弄る智紀たちに声をかけてきた。

「あら。和じゃない。こんなところで何をしてるのかしら?」

「部長!!?それに福路さん!そして・・・」

「モモ、今日は家の用事ではなかったのか?」

「せ、先輩まで・・・なんでたってこんなところにいるんすか!?」

そう、和たちの前に現れた人影の正体は久、美穂子、ゆみの三年生トリオ。どうやらこちらは今までウィンドウショッピングをしていたということが手に提げている買い物袋からうかがえた

ゆみの登場に驚く桃子以上に智紀はまさかの三人の登場に驚いていた。

内心、これ以上の騒ぎになることはないだろう。ミスさえしなければ身バレをする可能性はなくなる。そんなことを思っていた中でのトラブルメイカーである久の登場に激しい動揺していた。

そんな智紀の変な様子に感づいたのであろうか、久はにやりとした笑みを表情に浮かべると智紀に向かって話しかけてくる。


「あら、あなたたちもここにきていたのね。さわむ(ry)」

「部長!!!ちょっとこちらに来てください!!」

明らかに何か企んでいそうな笑みを浮かべ、智紀に話しかけようとする久の顔を見て危機感を感じた和は話を途中で邪魔すると、そのまま久の口に手を宛てがって喋らせないようにしながら半ば羽交い絞めのような状態でトイレに向かって久を連れていった。

ゆみはそんな様子を見ると、はぁっと一つため息をついて言った

「やれやれ、変なことを企むからこういうことになるんだ。私は何もしていないからな。大した問題は」

「先輩もっすよ。それと先輩にはここまでの経緯も付け加えてもらうっす!!と・くにどうして清澄の部長さんと一緒にいるのかを重点的に!!!」

「ちょっ・・・モモ!?離してくれ!腕が痛い!」

今度はゆみが鬼気迫る表情をした桃子にむんずとばかりに強く腕を掴まれ、和が去った方向へと引っ張られて行く。

そのあわただしい様子をずっと見つめていた美穂子と数絵は苦笑いをその顔に浮かべながら、お互いの顔を見合い、話し始めた。

「・・・あの、福路さん。福路さんも来てください、ちょっと込み入った話になるので」

「・・・わかりました。でも、席くらいは取っておかないと」

「・・・それは私がやっておきますから。福路さんは先にどうぞ」

「・・・は、はぁ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ふーん。そういうことになっていたのね・・・」
ところ変わって同ファミレス内のトイレ。ここに連れてこられた久たちは事情説明をしてもらったうえで自分たちのここまで来た経緯を説明していた。

納得したように久がそう呟くと、その傍らで同じように話を聞いていたゆみと美穂子がそれに続けて話し出す。

「・・・要するに君が沢村智紀だということを龍門渕透華に口外しなければいいんだな。それならば了解した。その程度の協力は惜しまないよ、君たちはモモの友達だ。理由はそれだけで十分だ」

「私もです。華菜や吉留さんもお世話になっているようですし・・・」

「私はどうしようかな~」

「久!!!!」

「久さん!!!!」

ゆみと美穂子が快く返事をするその一方で、久は何か含みを持たせるような返答を返す。するとゆみと美穂子は空気を読んでくれとばかりに久の方に振りかえって反論した。そのゆみと美穂子の反応に対して久はいつも通りの落ち着いた余裕の笑みを含んだその表情でこう答えた

「誰も協力しないなんて言ってないでしょう?・・・今から私が言う条件を飲んでくれたら協力するわ。それでいい?」

「・・・仕方ありませんね。背に腹は代えられません。なんでしょうか?」

久の出した要求を和は渋々といった様子で了承する。久はその和の返事を聞くなり、じゃぁねぇ・・・と前置きをしてから少し考え込んでからひらめいたとばかりのテンションでこう言った

「私たちも連れて行ってくれないかしら。あなたたちと一緒に」

「・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

いきなり突拍子もなく変なことを言い出した久のその言葉に和はおろか、そこまで行動を一緒に共にしてきたゆみや美穂子でさえもその言葉の突拍子の無さとその行動の突然差に唖然としていた。が、すぐに我に返ると、ゆみは久に向かって強い口調でその理由を問い詰めた

「久!!どういうつもりだ!この後はカラオケに行くのではなかったのか!?」

「そうですよ!!せっかくの久さ・・・みなさんと遊ぶ機会なのに!!!」

久の近くにいた美穂子もゆみに倣ってそう尋ねる。すると、久はまぁまぁ落ち着いて・・・と2人を宥め、そしてから説明をするようにしてこう言った。

「だって、普通じゃ張合いがないでしょ?たまにはこんな刺激的なイベントも必要なんじゃないかしら」

「しかしだな・・・」

「東横さんはどうかしら?」

「はい?私っすか??」

思いもしない相手からの話題のふりに桃子は少し驚きを含んだような表情で答え、更に問い返す。

「そう、あなたはゆみと一緒に行きたくないの?」

「!!?」

かなり突拍子の無い発言に桃子は狼狽しながらも久の提案に過剰な反応を示す。

それを見た久はにやりと笑うと更に桃子にけしかける

「ふーん・・・なら、この後私とゆみがどこに行って2人きりで何をしようとあなたは別に構わないっていうことね」

「!!?そ、そんなこと、誰も言ってないっす!!!!!!」


案の定ひどく狼狽したような表情をしながら、声を震わせながら言う桃子に対して更に気を良くした様子の久は

「ん~でも連れてってくれないなら私たちだけで行くしかないわよね?もし、福路さんが何かの理由で途中で抜けざるをえなくなったら・・・私はゆみと二人っきり。そしたら・・・」

と桃子を焚きつけるようなことを言うと久はゆみの腕を自分の方に引き寄せ、まさに見せつけるようにして腕を組んだ。

その光景を見た桃子は戦慄したとともに嫉妬の念を抱き、その後強烈な焦燥感に襲われた。そんな複数の表情の変化を一瞬でやってのけると焦燥感に心を引っ張られたような焦りを前面に出した顔で桃子はぐぬぬぬぬぬぬぬとうなりながら久を威嚇した

その様子に流石のゆみも少し怒ったような表情で言う

「久、いい加減に離せ。流石に悪ふざけが過ぎる」

「いいっすよ・・・付いてきても」

「モモ!?」

久を窘め、説得しようと言葉を紡いでいたゆみはあまりにも意外な桃子の言葉に驚きの表情で彼女を振り返り見つめる。すると、桃子はさっきとは打って変わってひたすらに冷静に言葉を重ねてその意向を久に伝える

「別についてきても良いっすよ?現状今日でもすごい人数っすし、二、三人増えたところでその行動の怪しさは変わらないっすから。でも、た・だ・し決して先輩と二人きりにならないこと。これが条件っす!!!!」

「モモ!!!落ち着け!!!これでは久の思うつぼd」

「良いわよ?かまわないわ、ウフフフ・・・楽しそうね。ねぇ?福路さん?」

「・・・知りませんっ(プイッ)」

「へ?福路さん?どうしたの?ねぇ?ねぇってばぁ!?」

「ふんっ!です。上埜さんなんか知りませんっ!!」

「はぁ・・・更に騒がしく・・・」

「・・・先が思いやられますね」




騒がしいランチタイムが過ぎた一日で最も気温が上がるその時間帯、咲と衣は街の郊外へとゆっくり足を進めていた。また道に迷うのか!という不安も衣が意外にもきちんと場所を把握しているという驚きの事実が判明し、露と消えた。つまるところ、最初の手助けさえあれば2人はちゃんとデートができたという事実が明らかとなったのだ

純のやっぱりな、という声となんてことをしてくれたんだとばかりに涙目で和に迫る智紀が印象的なその時の反応はさておいて

咲と衣の向かった先に何があるのか、一行は注意深く、そして大きな好奇心を持って2人の後をつけていた

更に20分程歩くと、咲と衣は閑静な住宅街の外れまで辿りついていた。そこはどこか先ほどまで歩いていた繁華街とは打って変わり田園都市のような優しさと長閑さに包まれていた。

「ころもちゃん、どうしてここまで歩いてきたの?」

流石にこんな街外れまでわざわざ歩いてきたことに疑問を持ったのであろう咲は衣に尋ねる

すると衣はその問いに対して足を止めずにあっさりと答えた。

「もうまもなく目的地に着く、次の目的地はそこからは近いから安心してくれ。・・・着いたぞ、咲」

「ふぇ?」

衣の声に反応した咲は前を振り向く、するとそこのカンバンにはこう書いてあった。

ワイン専門店“ヴェラーツェ”と




その店の名前を一瞥した透華と一たちの龍門渕の面々は非常にびっくりとした表情を見せる。

しかし、ワインなど到底分るはずもない女子高生である一行は一斉に首を傾げ衣の行動の真意を考えだした

「・・・ワイン専門店?どうしてこんなところに?」

当然の疑問であるそれを最初に口に出したのはゆみ。

その行動の不可解さに一同は頭を悩ませる。当然だ、まだ未成年である衣がワインの購入に来たとしてもそれを売ってもらえるはずがないからだ

皆が頭を使って考え込んでいたその時、突然透華がその口をゆっくりと開いた

「・・・ここは、龍門渕家御用達のワイン専門店ですわ。年代物のワインも数多く取り揃えている高級店です。店主が気難しくてあまり表には出てきませんが、知る人ぞ知る名店と呼ばれています」

「でも、ここは・・・滅多に僕達も来ないっていうのに何で衣がこの場所を知っているんだろう?」

一がそれに続いて言う。知っているのはわかるけれども・・・そんな感じの歯切れの悪い口ぶりだった

「まぁ、衣たちの話を聞けばわかる話だ。聞いてみようぜ」

頭を悩ませる皆に対して純がキッパリと自分の意見を主張する。

その言葉に一番早く反応した久が言う

「そうね。頭悩ませたって話を聞かないと何も分からないし、まずは話を聞いてみましょう?」

皆もそれに同意して透華を中心にして小型集音マイクに耳を傾けた

因みに、今さらであるがここまでの会話はすべて透華が衣につけた盗聴器によって把握していたりする。

それならもっと遠くで監視すればいいじゃん、そう思うのは無理ないが2人のお嬢様の意見でそれは却下されていたりするので悪しからず

さて、その咲と衣はと言うとすでに店内に入り店の中を歩き回っていた。店内は薄暗く、ただひたすらにワインのボトルが所狭しと並べられているだけのただのワインセラーのように思えるくらいに静かであった。

この光景に気味悪そうにちじこまる咲は衣に恐る恐る尋ねた

「衣ちゃん~ココ、お化け屋敷じゃないよね・・・ちゃんとしたお店だよね?」

若干涙目になりながら咲は衣に尋ねる。すると衣は

「ああ、安心しろ?咲。ここはちゃんとした店だ。ただ、店主の趣味が悪くてな。こんな感じの佇まいになっているだけだ。気にするな」

「・・・人の趣味に口を出すなと言っただろう。天江の」

「うわ―!!!で、出たー!!!」

衣の言葉に割って入り、突然現れた老人の顔に咲は仰天して叫んだ。

咲にとっては本当にお化けのように見えたのであろう、おびえたような表情をして自分より背丈の低い衣の後ろに隠れビクついていた

「・・・店主、驚かせるな。咲がおびえているじゃないか、ここは本当に暗いし衣も一瞬本当に妖怪の類かと思ったぞ」

衣の言葉にフンッと鼻を鳴らすと店主と呼ばれた老人男性は衣の問いに不機嫌そうに悪態をつきながら腰に手を当てつつこう言った。

「ハッ!知ったこっちゃないな!!俺にはそれで天江の、今日は何の用だ」

そう言って豪快に笑い飛ばすと、真剣な表情で衣に用件を聞き出した。すると、衣は言うまでもないだろう?と前置きするとこう言った

「毎年恒例のあれだ。わかって言っているのか?店主」

そういうと衣はニヤッと笑って店主に問うた。すると、店主はどこか感慨深げにそうか・・・そうだったな。もうこんな時期か、ケッ!年を取ると一年が物凄く早いものだと感じちまうな。

そう言うと、店主はそこで待ってろ。とそう、言い残すと店の奥へと消えていった。それを確認し隠れていた衣の背後から抜け出すと咲は衣に尋ねる

「うぅ~怖かったよぅ・・・で、衣ちゃん。あの人は・・・」

「衣の父君と母君の仲人をしてくれた衣たち親子の恩人ともいえる人物で、ここの店主だ。以前は国文学者をやっていたが、引退してこんな目立たない所で酒屋をやってるかなり気難しい爺さまなのだ。」

「・・・衣ちゃんのお父さんとお母さんの恩人・・・」

咲はその話を聞いて言葉を詰まらせた。それは勿論。衣にとって、彼女の両親とはとても大切でいて、触れてほしくないキーワードだと思っていたからだ。

咲は懸命に言葉を探した。この状態を打開する、そんな言葉を。

でも、出てこなかった。別居しているとはいえ、両親が健在である咲が両親を既に失くしている衣に賭けてあげられる言葉は皆無に等しかったからだ。

咲が言葉を探している途中、店主が奥の蔵から何やらボトルを一本手に持ってこちらに戻ってきた。

「ほら、いつもの葡萄ジュースだ。持っていけ。」

そう言うと店主は衣に一升瓶に入った葡萄ジュースを衣に向き合って手渡した。

それを受け取った衣は両手でそのボトルを抱えると、店主にこう言った

「ありがとう。すまぬな、毎年毎年」

「子供が気にすることじゃあねぇ、ありがたく貰っとけ。でもお前も今年で17か・・・まるでそうは見えんがw」

「衣は子供じゃないっ!!」

先ほどとは打って変わって軽い口調で話しあう2人に咲は度肝を抜かれる。しかし、咲にはそれ以上に不思議に思うことがあった。

咲はそれを衣に尋ねるべく声を掛けた

「・・・あのー、衣ちゃん?どうしてこんなところに来て葡萄ジュースなんか?」

当然の疑問であった。ワイン専門店に言って、何故かノンアルコールであろう葡萄ジュースを買う意味など一切ないからである。

ん?と店主は不思議そうに言うと衣に尋ねる

「お前、今からどこに行くか話をしてないのか?そして、こいつは誰だ?龍門渕のお転婆お嬢じゃねぇ見てぇだし・・・」

そう言うと店主は咲の顔を覗き込み不思議そうに言った。咲はいきなりの店主の行動に戸惑い気味になりながらも衣に返答を求める。すると衣は店主に向かってこう言い放った

「店主よ!聞いて驚くな、此奴は咲。衣の友達だぁ!!!」

衣は自信満々に、そして嬉しそうに店主に言い放つ。すると、店主はものすごく驚いた様子でこう言ってきた

「本当か!?信じられん・・・去年は龍門渕の奴らにすら心を開いていなかったお前が他校の友達を・・・・・」

それを聞いた店主は更に好奇の目線を強くして咲を観察する。その店主の様子に咲は戸惑いながら自己紹介する

「宮永・・・咲です。衣ちゃんとは麻雀の県大会で仲良くなりました」

「麻雀?天江の、お前麻雀嫌いじゃなかったか?無理やり龍門渕のお嬢にやらされてるとか言っていたような」

「・・・店主。透華は正しかったのだ、透華は言っていた。「きっと、麻雀を続けていれば衣と楽しく遊べる相手が必ず見つかるはずだ」と、その通りだった。衣は初めて麻雀で敗北を味わい、そして目覚めさせてもらった。衣にも大切な家族と、仲間が居るのだと気づかせてもらった。そして、咲は衣の友達になってくれた、だから・・・」

「・・・わかった。良かったなぁ、天江の・・・」

店主は嬉しそうにする衣をくしゃくしゃとなでる。衣はそれに嬉しそうに体を任せ、その体を委ねている。咲はなんだかそれが頭をなでる祖父と孫のように微笑ましく見えて嬉しかった。

すると、店主は衣の頭をなでながら、咲に言葉を投げかけた。



「ちょっと!!何言ってるか聞こえる!?」

「・・・聞こえませんわ・・・おかしいですわね。この機器は完璧な調整がされているはずですのに」

その一方、中の様子を窺おうととしている透華たちは困っていた。その理由はさっきまで正常に動いていたはずの盗聴器の故障にあった。

いきなり重要な話があると思われたところで突然、全く聞こえなくなってしまった。ほとんど声も拾えないほどの惨状で、透華たちは咲たちのその後の会話をほとんど聞きとることができていなかったのである

「途中までは聞けたのにな・・・葡萄ジュース、の下りまで。」

がっかりとした口調で言うのはゆみ。その意見は皆も同じようで皆一様にゆみの意見に賛同して首を縦に振っていた

みんなががっかりして肩を落としているそんな中透華が一人、愚痴る

「・・・あの店の店主が衣のお父上とお母様の恩人だったなんて、私、これまで知りませんでしたわ・・・」

「僕もだよ・・・ただの気難しいお爺さんだと思ってたけど、そんな縁があったなんて」

透華も一もどこか寂しそうな顔を浮かべながら言った。純も智紀も同様である、自分たちは衣の家族で友達。そんな特別な仲になって衣にとって自分たちが大切な存在になれた、そう思っていたからだ

ふと店の方を眺めていた久が店の方を指さして皆をせかしながら言った

「あっ!咲たちが出てきたわ!!みんな隠れて!」




咲と衣は手に葡萄ジュースを抱え、先ほどよりももっと仲良さげに会話をしながら店から出てきた。

2人ともとても嬉しそうで、とても清々しい笑顔をしている。どちらも自然に笑っていて、とても雰囲気は温かだった

その様子を見た透華たちは次の目的地に向かおうとしている2人の後を再びつけることにした。しかし、店から出ても盗聴器は復活せず、会話を掴めないまま2人の後を追うこととなるのだが。




またしばらく歩くと、いきなり咲が足を止めた。それに気付いた不思議そうに透華は隣の一に尋ねる

「?何故宮永咲は足を止めたのです?」

「さぁ、ボクにはわからないよ・・・」

透華たちの目線の先で咲は何かを指さすと、衣と共に近くの何かの店屋に入っていったのが窺えた。

「・・・確かあそこは花屋のはず・・・・。何かお花でも買うのかしら?」

久がぼやいたその一言に透華はあぁっ!!何かに気づいたように大きな声を上げた。

「どうした?何かわかったのか!?」

その声に何かに気付いたのであろうことに感づいたゆみは透華に駆け寄りながら尋ねた。

すると、透華はまず久に確認を求めるようにゆっくりと尋ねた。

「ここには、共同墓地がありましたわよね・・・」

久はえ、という表情をしながらもしっかりと透華の問いに答える。

「ええ、この市の中で一番大きな共同墓地のはずよ?どうしたの?透華さん、いきなり大きな声を出して・・・」

久はゆっくりと透華を宥めるようにして尋ねた。すると、透華はゆっくりと、そして、確実に自分が知りうる真実を皆に伝えた

「ここには・・・衣の両親のお墓があります・・・森の奥深く、街の風景が一望できる丘稜に2人揃って眠っていますの」






あの後、2人は花屋で適当な花を見つくろい、共同墓地へと向かっていた。森の奥のそのまた向こう。街を一望できる小さな丘稜にそれは小さく佇んでいた。

衣は二つ並ぶ十字架にゆっくりと話しかけた。

「父君、母君、お久しぶりです。衣は、今、帰りました。父君、母君、報告があります。衣はやっと友達を作ることができた。紹介する」


「はじめまして、衣さんのお父さん、お母さん。私、宮永咲って言います。衣さんのお友達やってます。これからよろしくお願いしますね」

そう言って咲は自分で買った花束を2人の墓標の上に置き、そして一礼をして目を瞑り天の二人に向かって黙とうした。

それを終えた咲に衣はありがとう、とそう伝えると二つの墓の間に置かれたグラスの存在を確認すると、そのうち二つに瓶の封を開け、グラスに注ぎこむと二つの並んだ衣の両親の墓に一つづつ、置いた。

「今年も、葡萄ジュースでごめんなさい。でも、衣が大人になったなら、父君と母君の夢通り一緒に酒を飲もう。それまでは待ってほしい」

「父君、母君、去年までは衣は一人ぼっちで寂しい。そんなことを言っていたけれど、今はとても楽しいのだ。安心して欲しい、咲やののかと言った友達もできたし、透華たちが衣のことを家族で友達だと言ってくれて新しい家族もできた。みんなが衣一緒に麻雀を打ちたいと言ってくれるようになった。」
「だから、安心して欲しい。今の衣は大丈夫だから」

衣は本当に満足げな笑みを浮かべながら自分の父母の墓に向かって語りかける

「そうですわね。今の衣に心配なんて要りませんわよね」

「!?」

聞き覚えのある声だった。でも、衣にはにわかに信じがたいことだった。ここには来ていない人物のはずだったからだ。更に声は更に1つ、更に1つと増えていく

「そうだねとーか。家族のボクたちが居るし☆」

「おぅ、いくら衣が嫌がったって絶対にそばにいるしな」

「・・・家族、だから」

「透華!?一!?純!?ともきー!?」

「そうですね。いっぱい友達もできましたもんね?」

龍門渕の面々が顔を全員表したかと思うと、更にそこには原村和の姿も加わっていた

「ののか!?」

「のどかちゃん!?」

更に驚く二人を尻目に更にその人数は肥大化を進める

「あぁ、一局交えたのならその時点で私たちはもう友人だ。良かったな。天江、お前にはもう数多くの友人がいるじゃないか」

「あなたはもう一人じゃないわ」

「数多くの友人に愛されています」

「あなたはようやく本物の友情を手に入れたの」

「だからあなたは・・・」

「「「「「幸せ」」」」になれたんだよ

「みんな、ありがとう!!!衣は、衣は幸せだぁ!!!」

そこにあるみなの笑顔は皆優しく、温かなものだった。衣は最高の笑顔で叫んだ。


晴天が広がる夏空にはすーっと伸びた飛行機雲の白い跡がうっすらと残っていた


と言った感じでたまにはまじめに閉じてみる。

ちなみに盗聴器が壊れたのはキャプテンのせいではなく、ハギヨシの妨害電波によるちょっとしたショート。事の真相を聞いて誰かが居なくなってしまうことを阻止するためだったりする

衣の喋りかたに四苦八苦したけどこんな感じで良いよね?

みんな友達、衣の友達

衣愛してる

  • 作者の衣愛がすごい -- 名無しさん (2010-06-01 14:10:49)
  • ともきー・・・出てきたらバレちゃうじゃないかw -- 名無しさん (2010-06-01 17:29:33)
  • ともきーの自信のない「……ぅむ」に吹いたwやはりあれは津山さんでないと使いこなせないのですね? -- 名無しさん (2010-06-02 12:07:39)
  • 主に地の文を校正してみました。ところで個人的には国文学者より仏文学者とか西洋史学者の方がワインと合うような気がするな。そして学者は職を辞しても学者なのだっ!なので「引退した仏文学者で」くらいをお勧めする次第じゃ -- 名無しさん (2010-06-03 01:53:04)
  • イイハナシダナー(;ω;) -- 名無しさん (2011-10-24 10:53:26)
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最終更新:2011年10月24日 10:53