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17歳女子高生、異界の地に降臨する_2 - (2006/03/23 (木) 02:07:28) の編集履歴(バックアップ)


  …………
  ……
  あ゙~むかつくっ!
  小娘小娘って、私には内藤若菜って名前がちゃんと付いてるっての!
  ってか魔王に負けた八つ当たりを私にするなっ!

  だんだんと怒りがエスカレートしてきた。
  ベッドから枕を取り、ドアの向こうへと……

「どっせぇぇぇぇいっ!!」
「ああ騎士様、食事はべらがぁっ!」

  あ、大臣さん階段転げ落ちてった。
  ……むしゃくしゃしたからと言ってさすがにこれはまずいわ。反省反省。

「食事でございますが、3時間後を予定しておりますがそれでよろしいでしょうか」
「はい、すいません。いやホントすいません」

  腰をさすりながら呆れ顔で見下ろす大臣さんへとペコペコと謝る。

「あの……大丈夫ですか」
「まぁ、鍛えておりますので。しかし枕とは言えいささか効きましたぞ」
「すいませんすいません」

  頭を下げすぎて逆Uの字になろうかと言う私に、
  大臣さんが押し殺した笑い声を投げかける。

「いやいや、魔王と戦うのですからこれぐらいの元気が無くては。
ではまもなく侍女共が着替え持ってくると思いますので」

  開きっぱなしのドアの所で礼儀正しく礼をし、ノブに白手袋の手をかける。

「ああ、騎士様」
「はい」

  ジャージ姿で突っ立っている私にニヤリとして一言。

「おてんばは程々に願いますぞ」

  顔を真っ赤にしている私を置いて、ドアが閉められた。
  ほてった顔を冷やそうと窓を開け、縁によりかかる。
  鳥が舞う澄み渡った青空の下にグレーの山脈が連なる。
  その手前に草原が、川が見える。
  そして眼下には赤い瓦の家が立ち並ぶ。

  石で舗装された大通りを馬車が走り、広場には噴水を囲むようにして露天が広がる。
  町を行く人々も、まるで指輪物語やらドラクエの村人Aやらみたいな格好をしている。

「うわぁ、すっご~い」

  何だかうずうずしてきて、手の平を窓の外に向け腕を伸ばし叫んでみた。

「ファイアっ!」

  ……何も起きませんでした。
  顔がますます熱くなっちゃいました。別に誰かに見られた訳でも無いけど。
  何だか恥ずかしくて鼻から上だけ窓からのぞかせて景色を眺めてたら、
  もくもくと黒い煙が上がっているのが見えた。

「やばっ、やっぱりファイア発動してた!?」

  がばっと立ち上がり、煙の方を眺める。
  どうも町の外っぽい。
  馬車が横倒しになって、小さい点が走り回ってる。
  ん?
  森の中から黒い塊が現れた。
  だんだんと町に近づいてくる。
  塊の中に一つ二つ見える大きい影……

  げぇっ、ドラゴンっ!?

「うわ、どうしよどうしよっ!」

  とりあえず訳も分からず部屋の中をぐるぐる走り回っては、
  また窓から黒い塊を観察する。
  さっきよりも個々の姿がはっきりと見て取れた。

  ドラゴンに、ゴーレムに、ベヒーモスに……

「ちょっ、いきなりボス級とか反則だからっ!」

  ぐるぐる部屋の中を走り回る。

「うん、とりあえず落ち着こう」

  ベッドに腰掛けて深呼吸。

「騎士様っ!」
「のわぁっ!?」

  ノックもせずに飛び込んできた大臣に驚いて、思わず声が裏返ってしまった。

「魔王の軍勢が現れました、このままでは……」

  固唾を呑み、体を強張らせる。

「農作物が荒らされてしまいますっ」

  ちょっ、カラスやイノシシ扱いかよっ!!

「あの、いや、もっとこう町とか……」
「ああ町でしたらアミュレットで守られておりますのでご心配無く」
「ともかく一刻も早く奴らを追い払わなくては、
あの辺りにはトウモロコシ農家もございますし」

  いまいちスケールの小さい話をしながら大臣さんの後について行く。


                    ■


――12番区画の大根が全滅しましたっ。
――くそっ、早く奴らを追い払わなくては!

  鎧に身を包んだ兵士達が、ローブ姿の魔法使い達が慌しく城内を走り回る。

「さあ、こちらに武器を用意しております」

  大臣さんが金具で補強された大きな木の扉を開いた。
  かび臭い部屋の中で、ロングソードや長槍なんかが松明の光で輝いていた。
  学校の教室ぐらいの広さのその部屋をざっと見渡す。
  樽に無造作に突っ込まれた剣の類。
  壁に一列に立てかけられた全長3mはあろうかという槍の数々。
  棚の上に無造作に放り込まれているボウガンや斧。

「あの、これだけ?」
「はい」
「ほら、もっとこう、エクスカリバーとか、王者の剣とか……」
「何でしょうか、それは」

  ……もしかして、かなりピンチ?

「じゃ、せめて防具とか」
「鎧兜は子供用でもサイズの合う物が無いでしょうから、
盾で頑張って頂くしか無いでしょうなぁ」

  ぎゃふん。
  仕方無いのでとりあえずその辺にあった剣を手に取った。
  刃の部分だけで1mはあるだろうか。
  にしては、やたらと軽い。

「大臣さん、もしかしてこれはやぶさの剣とか?」
「いや、存じませぬが」

  再び大臣さんの後について行く。
  ごつい感じの鞘に剣を収めてるんだけども、やっぱり軽々。
  通学かばんでももうちょう重いよなぁ。

「盾はこちらからご自由にお選びください」

  薄暗い廊下の壁に盾が立てかけられていた。
  その中からとりわけ頑丈そうな、鉄製の私の体が
  すっぽり覆い隠せそうな奴を選び手に取る。
  ……やっぱり軽い。

「ささ、騎士様こちらへ」

  扉をくぐり、再び赤絨毯が敷かれた廊下へと出た。
  そして草花が生い茂る中庭を立ち並ぶ円柱の隙間から眺めつつ、
  雑踏の聞こえる方向へと向かう。

  廊下の突き当たり、金で所々を飾られた重厚な扉の前に到着した。
  大臣さんがそれを大きく開け放ち、
  扉の向こうの広間で駆け回っていた兵士達へと大声で呼びかける。

「皆の者、足を止めこのお方を見よ!」

  兵士達が次々に足を止め私の方へと注目する。

「かの伝説の勇者、地平の騎士様がここバラムの地に降臨なされた!」

――地平の騎士だと……?
――おお、伝承の通り紺の衣だ……

  だんだんとざわめきが広がって行く。

「さぁ騎士様、彼らにお言葉を」
「えっ」

  大臣さんが一歩下がり、兵士達の視線が私に集中する。
  ぼさぼさ頭ですっぴんで、ジャージ姿にうさちゃんスリッパの私に。

「え~と、あの~」

  さっきのアレとはまた違った意味で視線が痛い。

「頑張って農作物を守るぞぉ」

  中途半端に剣を掲げ、気の抜けた声をあげる。
  しぃんと、広間が静まり返る。
  ……外したか、こりゃ。

――うん、そうだよ、守んなきゃなぁ。
――とりあえず魔王より畑優先だよな。

  ボソボソと声が聞こえてきた。

「作物を守るぞ」
「おお、守るぞっ」

  だんだんと声が広がって行く。

「作物を守るぞぉっ!」
「農作物を、守るぞぉっ!」

  声が一つにまとまって行く。

「農作物を、守るぞぉっ!」
「農作物を守るぞぉ~」

  手にした武器を高々と掲げ、広間の壁が
  ビリビリとうなるほどの声をあげる兵士達と一緒になって、
  私も剣を掲げ声を張り上げる。

「えい、えい、お~!」
「えい、えい、お~っ!」

「さすがです騎士様、おみごと」

  大臣さんが背後から嬉しげに言った。

「いやいや、それほどでも」
「さぁ騎士様、彼らの先頭に立ち、いざ戦場へっ!」
「お~!」

  すっかりノリノリになった私は剣を掲げ、目の前の兵士達へと大声で言った。

「いくぞぉっ!」
「おぉぉぉっ!!」
「……ところでどこ行けばいいの?」

  いや、一斉にため息つく事は無いでしょあなた達。


                    ■


  とりあえず前を行く部隊の後ろに付いて行く事にした。
  他の部隊と異なり、私の両サイドの兵士が赤地に金の鷲が翼を広げている旗を
  高々と掲げ、鼓笛隊のラッパと共に行進していく。

「地平の騎士様、ご出陣、ご出陣っ!」

  兵士の声に町の人々が注目する。

――紺の衣、まさしく伝説のっ!
――おお、生きている内に地平の騎士様にお目にかかれようとは……

  鳴り止まぬ歓声に、否が応にも気持ちが高ぶってくる。
  だんだんと町の外れが近づいてきた。
  突如轟音が鳴り、右手の方で赤い光が走った。

「な、な、なに!?」

  炎がガラス窓にさえぎられるようにして、広がっていた。
  そして小さな翼竜がその壁に叩きつけられ、血しぶきを散らしながら
  か細い鳴き声をあげる。

  だんだんと、気持ちが覚めてきた。
  これは、もしかしたらダメかもしれんわ……

  大きかった歩幅が徐々に小さくなって行く。
  眼前を行進していた部隊が次々と駆け出す。
  町の外まで、もう100mも無い。
  全身から血が引いていき、いよいよ足も止まってしまった。
  だが、後に続く兵士達は依然ノリノリで行進してくる。
  それに押され、私もどんどん外へと追いやられていく。

「ちょ、やばいってアレ、死ねるって」

  行進が止まらない。

「やだ、やめて、止めて、やめて、止めて」

  次々と兵士が駆け出していく。
  そしてその波に飲まれるようにして私もまた町の外へと流されていく。

「やめて止めてやめて止めてやめて止めてぇぇっ!!」

  気が付いたら草原の上に投げ出されていた。
  周囲を見渡す。
  ゴブリンや、スケルトン兵と兵士達が剣を交えている。
  互いに血しぶきを上げ、炎で焼かれ、氷に包まれ、倒れていく。

「マジなのこれ、人死ぬって……」

  目の前で広がる惨劇に体が凍りつく。
  突如、大きな影が私を覆った。
  上を見上げる。
  牙の並んだ大きな口、鱗に覆われた顔、赤い瞳。

「ドラゴ……ン……」

  うなり声と共に、口内が赤々と輝き始めた。

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