デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション
デデデはたまたま見つけた旅館に入り、和室で二時間ねむった…。
そして………、
目を覚ましてから、しばらくして
エスカルゴンが死んだことを思い出し…、
…………泣いて、また眠った。
☆ ☆ ☆ ☆
グオォオォォォーーーーーーーーッ
グゴゴォォォッーーーーーーーーーーッッ
畳四畳ほどで、備え付きのちゃぶ台に、奥には茶色に薄汚れた押し入れと小さな浴室、そして敷布団といった質素な和室。
耳を澄ませども、聞こえてくるのはチョロチョロ…とわずかな源泉かけ流しの音のみ。
虫の羽音一つすら感じ取れない、ゴーストタウンの街中温泉を象徴するとても静かな部屋だった。
先程までは。
グオオォー、スピスピスピ……グララァガアアァァアーーーーーーーーーッ
もはや地鳴りだ。
震源地は、暗い和室のド真ん中。野生動物の咆哮を彷彿とさせる高イビキが襖を、障子を、窓を揺らす。
部屋の三分の一を覆いつくすその巨体を包み込む純白の掛布団。ごろ寝する奴のその姿はまるで南極の浮氷のようである。
無論、この旅館は防音設備などあるまい。この馬鹿イビキは外まで筒抜けだろう。
この殺し合い──戦場下において、呑気にグースカ音を立てて眠ることなど、自殺行為と一緒であるのだが、そこはやはり大王の余裕ということだろうか。
巨大ペンギン・デデデ陛下は、頭だけすっぽり出して夢の世界を楽しんでいた。
グララアガアーーーーーーーーーッ、スピスピグオーーーーーンッ、グララアガアーーーーーーーーーーッ
おっと。
どうやら周囲の静寂さを乱すのはデデデの寝息だけではないようだ。
『陛下ー! 陛下ッーー! お目覚めくださァい! お眠りになる状況ではございませんよぉ!!』
独特の重厚かつ渋い声色、そして胡散臭さも一滴混じる声が混じり入る。
声の主の名はカスタマーサービス。
オープニングセレモニーで説明役兼進行として全参戦者の前に姿を現した、この悪魔的ゲームの主催者その人だ。
主催者が一参戦者にわざわざ介入するとは何の目的があっての事か、奴はデデデに起きろ起きろとモーニングコールを掛けていた。
──声の発声源は、陛下の首輪に内蔵するマイクから。比喩抜き、言葉通りのモーニングコールである。
『嗚呼ぁあ……、もう全然起きてくれない……。私としても今死なれちゃ困るというのに…っ』
マイクからも、音質の悪いため息が漏れる。──といっても、部屋中を木霊する爆音でかき消されているのだが。
とにかく、カスタマーサービスが個人的にデデデに要件、もしくは伝えたい重要事項があることは確かなようだ。
暫く、いびきのワンマン演奏が続いた和室だったが、少し間を置いて、これまた負けじと馬鹿うるさい金属音が首輪から響きだした。
カンッカンッカァンッ! カンカンカンカンッ!! カァンッ!!
『陛下っ、陛下ッ、屁以下ッ! へ・い・かっ!! お目覚めくださいぃっ! 起きなきゃ罰金967億デデンですよおっ!』
平べったい鉄を何度も打ち付けている音──フライパンをおたまか何かで叩いてる打音のそれであろう。
あまりにベタな起こし方で陛下の起床を促すカスタマーサービス。
カン、カン、カン、カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン~…徐々に音の間隔が短くなっていく様子は彼の必死さを表している。
だが、それでも徒労虚しく。
ズゥオオオオオオォォォォォォーーーーーーーーーーッ、スピスピスピリタス………、ズボボオオオオオオオォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオッ
デデデの鼾声は増しに増すばかりであった。
☆ ☆ ☆ ☆
……カンカン
…カンカンカンカンカンァンカァンカァンカァン
カァンカァンカァンカァンカァカンカンカンカンカンカンカァン!!!!!
「やぁがましいZOYッ! うるさいのは
カービィのいびきで十分間に合ってるZOY!」
『起きてくだ………おっ、やっとお目覚めになられましたか陛下』
けたたましい金属音で、とうとう目を覚ました。
デデデは寝汗を赤いガウンの袖でふき取る。
不意に、窓から朝日がお早う、と声を掛けていることに気付いた。
時計が指すは五時五十分。第一回定時放送の数刻前だ。
デデデがグッスリ夢の世界で遊び惚ける間、どれだけの人間が苦しめられ、あるいは惨死したことだろうか。
──生憎、陛下本人は「寝足りない」と言いたげな様子で寝ぼけ眼のまま大きくあくびを出していたのだが。
まあ何にせよ、カスタマーサービスはいびき魔獣の意識覚醒に成功したということなので、矢継ぎ早にマイクから声を響かせた。
『お早うございます。我が陛下。突然申し上げることで恐縮ですが、今すぐ逃げる準備をしていただ…』
「んがあ??? なんだか声が聞こえるZOY…、おいっ! この巨悪のカリスマであるワシを前にして姿を現さないとは無礼にもほどがあるZOY!!」
『…おやおや陛下、首輪! 首輪からですよ。ほら、私です』
「首輪ぁ~~? あぁ、なんだ。貴様かZOY……」
次の瞬間、怒号が弾け飛ぶ。
グースカ騒音を立てながら眠り、急に起きたかと思ったら怒り散らす、なんとも忙しい陛下なことである。
「カスタマァアアア!! 貴様アァーーーーーーッ!!! よくもこのワシをバトルロワイヤルなんかにぶち込んだゾイィィイイッ!!!!!!」
『お気持ちは察します。ですが、今は聞いてくだ…』
「それに貴様のせいで、エスカルゴン…エスカルゴンがァアアアアッ!!! 解任命令程度では許さないZOY! 訴訟モノZOY!!!」
『…はて? エスカルゴン様がどうなさったのですか?』
「──────────ッ!!!! 貴様ァアアアアアアア!!!!!!」
ただ、デデデが怒り狂うのも分からないものではないだろう。
半分自業自得の様なものだが、応答先の相手カスタマーサービスの持ち込んだゲームにより優秀な大臣であり、盟友のエスカルゴンが亡き者となったのだ。
デデデは暴れた。暴れ狂い、躍った。
サングラスの憎たらしいアイツの腐れ脳みそにハンマーで何度も殴打したい気持ちでいっぱいだったが、当人がこの場にいない以上、仕方ないので物に八つ当たりをした。
パンパンに膨れたドでかい拳を突き刺す先は、カスタマーサービスの声が発する先・首輪。
──エスカルゴンが何で死んだのか忘れたのだろうか。
ガキンッ
『って、嘘ッ?! 壊れた??!』
ところが、であった。
マイクから、音質の悪い驚きの声が発せられる。
当たりどころが偶然爆破基盤を回避した為か、それとも盟友の死で宿った『正義の心』が引き起こした奇跡なのか。
デデデの強烈なパンチで、真っ黒い無機質な首輪は爆発することなくポロリと落ちた。
「ガァアアーーハッハッハッハッハッハ!!!! 正義のデデデマンに首輪なんて通用しないZOYッ☆」
勝利の雄叫びだ。
想定外の遥か上な展開に、さすがのカスタマーサービスも思考停止の固まり切った様子。
それを体現するかのように、電話代わりであったヒビだらけの首輪は、今なんの抵抗も無くデデデに踏み潰されようとしていた。
──踏んだら踏んだで今度こそ爆発しそうではあるが、そこは思考を苦手とする陛下。お構いなしだろう。
「ワシは最強ッ!」──その巨大な右短足を一気に振り下ろす。
『あっ、あわわ…。…そうだ! へ、陛下ー!! 最後に言わせていただきますが、今すぐ退避お願いしますよ!! そちらに向かってとんでもない“殺人鬼”が来ていま…』
「んがああっ? な、なんZOY!」
カスタマーサービスの最期の言葉にハッ、とした時にはすでに遅かった。
マイク先の実質遺言を最後まで聞くことなく右足は首輪を踏み破壊しきってしまった。
首輪の金属片が厚い皮膚に突き刺さり痛む。が、それよりもデデデの脳内は後悔、そして焦りで支配されていた。
「な、なんZOYッ…? 殺人鬼が、ワシの元に近づいてるって……??」
頬を伝う大粒の汗。傲慢な笑みを浮かべていた顔が思わず引きつる。
そう、いくら首輪の縛りから解放されたとはいえ、デデデはこのバトル・ロワイヤルの会場に身を置く現状は変わりないのである。
思えば、このカスタマーサービス。先ほどから「いいから逃げろ」を言い含めたような発言を度々していた。
もしかしたら殺し合い生還のサポートに役立てたかもしれない、首輪のあまりに短絡の始末処分に、さすがのデデデも頭を抱えた様子。
とんでもない奴が殺しに来る………?
どこから、どうやって…?
一体ワシはどうすれば………?
脳をこれまでの人生史上最速に急速回転させるデデデであったが、『地鳴り』が起きたのはその折りであった。
ズドン、ズドォオオオオオオォンンン………
揺れ動く和室の電気、爆音…いや『足音』と共に縦に揺れる地面。
考えても仕方ない、とデデデは取り合えず窓から外の様子を覗くことにした。
「がぁあああっ??! こ、これはとんでもない…ZOYっ…!!!」
デデデは思わず目を丸くする。
その顔は単なる驚きではなく、『意外な人物』を目にしたが故の面を食らった表情といえよう。
というのも、窓の外に映っていたのは、ビルとビルの間を強引に踏み倒す巨大怪獣。辺りは火の海で燃え盛る。
──しかも、その怪獣というのが自分と馴染み深いあの憎たらしい永遠のライバル。まん丸ピンクの悪魔。
「ぽおぉぉよぉおおおおおぉぉおぉおっっっ、ぽよぉおおおおおおおぉぉおぉぉおっっ」
カービィその人であったからだ。
デデデは思わず身が震える。
そういえばカービィもこのバトル・ロワイヤルに参戦させられてたような気がしたが、それにしても疑問はいくつも浮かぶばかりだ。
「な、何故ヤツが巨大化しているZOY?! 何故ヤツが火を噴いているZOYッ???! いやいや、というか何故…」
デデデは思う。
──何故、あのカービィが人をたくさん殺しまくっているのか……?、と。
今、デデデの目の前で繰り広げられるは、大量虐殺であった。
虐殺…、言い様によっては鯨の補食活動とも表現できる。
「ぽっよおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
大口を開けたカービィは自身の特技である吸い込みで、一見チリゴミにも見える参戦者たちを一気に飲み込んでいたのだ。
次々とあっさり補食死していく人々…、地震、大火災、台風の天災がいっぺんに、しかもたった一匹のピンク玉によって引き起こされていく。
単純な光景の悲惨さにも驚きを隠し切れないものだが、それよりもデデデは不思議で仕方なかったことがある。
カービィという生物は、デデデにとって対極の存在。
つまり、デデデは自称・悪の独裁者な為、カービィは必然的に正義の味方というわけになる。──これはデデデも共通認識だ。
アホで単純なカービィではあるが、ヤツは到底殺し合いに乗るような卑劣で極悪な性格ではない。
何故、カービィが正義の役割を捨て殺しに矜持を置くのか。恐らくデデデが寝ていた時間で『何か』があったのだろうが、デデデはそれがまったく理解できなかったのだ。
「ゲーーーップ…、ぽよよぉおおおお!!!!!!!!」
闇落ちしたヒーロー、カービィはなおも獲物を探して進撃を続ける。
徐々に大きくなってくる地ならしの踏音。今、自分がいるこの旅館が踏み潰される…もしくは吸い込まれるのも時間の問題だ。
ならば、デデデは目の前の脅威相手にどう対処することが正解なのか。
自分の、この殺し合い下での役割というのは何が適切なのか。
暫時、唖然としたデデデ陛下だったが、短い時間の中考えに考え抜いて──ようやく動き出した。
否、厳密に言えば考えてなどほとんどいない。直感である。
「カービィ、貴様の今世紀最大級のライバルであるワシが、責任もって退治してやるZOYィィイイッ!!!!!」
先程書いてある通り、デデデとカービィは対極の存在。
つまり、カービィが『悪』になった以上、デデデは『正義のヒーロー』として己の役目を執行するまでなのだ。
「うォオオオオオオオオ!!!!!! いくゾォオオオオオオオオオイ!!!!!!!!!!!」
カブーから飛ばされたワープスターに乗りデデデはピンクの大怪獣へと対峙する。
燃え盛る熱風、火花が飛び散る中、右手に握った愛用のハンマーがキラリと光る。
もはや彼の心には雲ひとつ無かった。
「この美しくそして華麗なワシが、カービィお前を討ち取ってやるZOYィッ!! 蝶のように舞い、蜂のように刺す!! ガーハッハッハ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」
「ぽっよおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」
FINAL WARS<殺し合い>
────それは、正義デデデと悪の壮絶な戦いの物語であった。
今、戦火が交えようとする──────────。
『…か! …てください!! …かーーー…陛下っ!!』
☆ ☆ ☆ ☆
カンッカンッカァンッ! カンカンカンカンッ!! カァンッ!!
『陛下、本当に起きてくださいっ! 本当にとてつもない殺人鬼が近づいてきているんですよっ!!』
「むにゃむにゃむにゃ…グオォオオォーーーーーーーーーーッ………、カービィめ許さんゾイ……、ワシが正義ゾイ………むにゃむにゃ」
平穏。比較的静かになった和室にて、スズメの鳴き声が響く。
涙の痕を残しながらも、なんだか幸せそうに寝言をボヤくデデデの顔に、そっと朝の光が伸びてきた。
『あぁーーーーーーっ!! もうなんてグズで人でなしのダメ人間なことだァ…っ! もう、ほらっ! 早く起きて! ほら!!』
時計はちょうど五時三十分を指す。
熟睡というのも限界があるもので、間もなくデデデは辛くて悲惨で、やりきれない現実世界に目覚めることになるが、果たして生き残ることができるのだろうか。
国王陛下のバトル・ロワイヤルは、まだ始まりすらしていない。
【B7/旅館/1日目/早朝】
【デデデ@星のカービィ】
[状態]:睡眠中
[装備]:ハンマー@星のカービィ
[道具]:食料一式(未確認)
[思考]基本:未定
1:Zzz
【カスタマーサービス@星のカービィ】
[役職]主催者
[思考]基本:デデデのサポート
1:起きてください~ッ!陛下ァ!
最終更新:2024年01月12日 22:47