これまで「医療的ケア」は、年齢、障害によって異なるニーズがあり、それぞれの体制のもと実施されてきた。そこで、「医療的ケア」の定義や理論、実践は混沌としている状況にあり、当面のやむを得ず必要な措置(実質的違法性阻却)として、在宅・特別養護老人ホーム・特別支援学校において、介護職員がたんの吸引・経管栄養のうちの一定の行為を実施することを運用によって認めてきた。こうした運用による対応については、「法律において位置づけるべきである」という見解が次第に高まるようになり、2010年7月5日には、国立長寿医療センター長の大島氏を委員長に18人の「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」が発足した。検討会を踏まえ、2012年4月には、介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律の一部改定に伴い、喀痰吸引等の一部医療的ケアが介護職等により実施できることが規定された。これを受けて、これまで実質的違法性阻却の考え方に基づいて医療的ケアを実施してきた特別支援学校の教員についても、制度上の実施を試みることになった。

■制度の概要
(1)特定行為(実施できる行為) 
口腔内の喀痰吸引 
鼻腔内の喀痰吸引
気管カニューレ内部の喀痰吸引
胃ろう又は腸ろうによる経管栄養
経鼻経管栄養
(2)登録研修機関
特定行為に関する研修を行う機関を都道府県知事に登録し、研修を修了した者に研修修了証明書を交付。研修機関は、基本研修(講義・演習)、実地研修(対象者に対して実施する研修)を実施
(3)登録特定行為事業者 
自らの事業の一環として、特定行為の吸引等を行おうとする者は、事業所ごとに都道府県知事に登録。登録特定行為事業者は、医師・看護職員等の医療関係者との連携の確保が必要。
(4)認定特定行為業務従事者
登録研修機関での研修を修了したことを都道府県知事に認定された者(教員に限らない)は、登録特定行為事業者において特定行為の実施が可能となる。

■特別支援学校における医療的ケア
「医療的ケアを行う場合には、看護師等の適切な配置を行うとともに、看護師等や教員等の連携により特定行為に当たること」とされている。看護師等が直接特定行為を行う必要がない場合も、看護師等の定期的な巡回など医療安全を確保する必要がある。また、特定行為を行う者は、児童生徒等との関係性が十分である者が望ましいとされる。特別支援学校で教員が医療的ケアを行うことの意義としては、「教育活動の継続性を確保すること」「教育活動の充実」が考えられる。具体的には、快適な状態で教育活動に参加でき教育の効果が高まること。児童生徒との信頼関係の構築。きめ細やかな自立活動の指導が可能となる、という点である。

■小・中学校における医療的ケアの基本的考え方
小中学校では、原則として看護師等を配置又は活用し、主として看護師等が医療的ケアに当たる体制が望ましいとされている。特定行為が軽微かつ頻度も少ない場合には、介助員等が実施し看護師等が巡回する体制が考えられている。通常学級で医療的ケア必要児を受け入れている例は未だ少ない。現状の体制整備にあたっては最低基準を設ける必要がある。

■考察
このように制度として前進した体制が構築されたのは、今回の法制化によって確かなものとなった。しかし一方で、制度化のスピードに対してついていけていない地方の現状が訴えられている。例えば、研修の指導者養成研修は、国としては実施しておらず都道府県ごとの解釈に応じて行うものとなっているため、地域格差や、登録機関によって受講料が異なることなどの問題がある。都道府県や事業所の負担が大きければ、この制度は浸透していかない。今後、国としてのフォローアップ体制が求められる。さらに、これまで重症児医療の基盤となっていた「生命を守る」「個を大切にする」といった行為の本質を見落とすことのないよう、看護師ではなく介護士や教員が医療行為を行うことの是非を検討していくことが必要ではないだろうか。
(あ)

最終更新:2013年03月13日 17:36