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 元々は工業団地として開発された土地であったが、想定していた立地条件との差異が明確になってしまい、尚且つ地盤が崩れやすいため、工業開発から見放された場所ではあるが、時雨夕はそこから見える景色が好きだった。  海沿いのそこからは、蒼く綺麗な海がどこまでも続いている。昔は、その景色を目に焼き付けるために、日が暮れるまで眺めていたことを、夕は昨日のことのように覚えている。地盤の緩みを克服するために、今はたくさんの広葉樹が植えられているが、地盤の安定はまだまだ先になりそうだ。  だからといって、子供が歩くのに危険なわけではない。むしろ、夏は海水浴場として、日帰りの客も多々訪れる。この海岸から三十分ほどのビジネスホテルから観光に来ているのだろう。  しかし、夕はどんな時でも一人きりだった。  母親を幼い頃に亡くし、マフィアの頭をやっている父親は違法な取り引きや麻薬売買などで忙しく、金だけ分け与えて夕をほったらかしにしていた。そのため、年に一度、この海岸の近くで行う重役パーティーの時にこの海を眺めることだけが夕の慰めだったのだ。 「夕焼けになりたいなぁ……そうすれば、いつだってこの景色を見れるのに……」  というのが、幼い頃の夕の口癖だった。無論、そんな願いなど叶うはずもなく――しかし、もう一つだけ叶えたい夢が夕にはできた。 「なんだったら、僕だけの夕焼けになる?」 「……君は?」  その時、一度だけ。垣間見えた少年の瞳が、とても美しかったということを、夕は覚えている。 「また、来年。ここに来たら、答えを聞かせてよ」  ニコリと微笑んだ少年に返す答えは決まっていて――しかし、それはまた来年のお楽しみだと、夕は自分の胸にしまいこんだ。 「うん! 私、君に返事を返すの、待ってるよ!」  それから一週間後。夕の父親はチームもろとも、大量検挙された。  麻薬売買に人身売買、違法銃の密輸入など、その罪状は多岐に渡った。

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