著者 : 鯨統一郎 発行元 : 祥伝社 単行本発行 : 2001.3 文庫版発行 : 2004.1
鯨統一郎先生の得意とする、わずかな手がかりから話を広げて謎を解くタイプの短編集です。伝説のサイコセラピスト、波田煌子(なみだきらこ)が活躍するシリーズ第1作。
収録作品
以下、新書版裏表紙より引用
港区六本木にあるメンタル・クリニック「なみだ研究所」。新米臨床心理士の松本清は、そこへ大学の恩師に薦められ見習いとして赴くことになった。研究所の所長・波田煌子は数々の臨床実績を持つ伝説のセラピスト。が、松本はほどなく愕然とすることになる。波田の幼い容姿と同じく幼い知識と、トボけた会話。果たしてこんなことで患者は治せるのか?不安になる松本をよそに、波田先生の不思議な診療が始まった…。推理界の奇才が放つ、ユーモア溢れる本格推理の決定版。
引用終わり
波田先生、いいですねぇ。 子どものような貧相なスタイルに、野暮ったい雰囲気。 (伝説の)サイコセラピストなのに、心理療法の知識よりもお茶の知識の方が豊富。 ぼけっとしているのに結構辛辣。 おどおどしているようで(かなりの)自信家。 そしてなぜか詩吟の群馬県チャンピオン。
このような波田先生のキャラが、頭の固い、真面目で多少エリートな感じの新人心理療法士の松本先生の視点で語られていることで、より一層面白みを増しています。 波田先生の外見的な幼さと、知識のなさに、どうしても素直に従えない松本先生の心の声に笑えます。
ストーリー的には、あくまでも「日常の謎」感覚のライトな話題ばかりで、いわゆる犯罪らしい犯罪は出てきません。しかも、今回はその「謎」に関しても、いわゆるメンタルカウンセリングにきた人の問題解決がメインとなっているのですから、事件色は一層低くなっています。また、その謎のタイプも論理的な解決を図るタイプではなくて、なんだか連想ゲームのようですので、謎解きしようと身構えて読むと少し肩透かしかも知れません。 しかし、鯨作品になれている人なら、安心して楽しめる感じがします。 元々、いかにも本格推理、という雰囲気を漂わせている作品ならいざ知らず、この作品は元々そんな感じもしないので、それほど裏切られた感はありませんでしたし、連想ゲームみたい、とは言いながらも鯨先生の発想力にはやはり脱帽です。
どちらにせよ、波田先生のキャラと軽妙だけどちょっとずれている登場人物たちの会話を楽しむだけの目的でも充分楽しめる作品だと思います。
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