著者 : 鯨統一郎 発行元 : 光文社 新書版発行 : 2003.3 文庫版発行 : 2006.4
本格ミステリ入門者の教科書的小説。 ミステリ研究会の活動とそこに起こる様々な事件を通して、本格ミステリの歴史、分類、そして醍醐味が語られる。巻末の本格ミステリ度MAPは初心者ならずとも必見。
収録作品
以下、文庫版裏表紙より引用
ミステリアス学園ミステリ研究会、略して「ミスミス研」。ミステリは松本清張の『砂の器』しか読んだことがない、新入部員・湾田乱人が巻き込まれる怪事件の数々。なぜか人が死んでいく。「密室」「アリバイ」「嵐の山荘」…。仲間からのミステリ講義で知識を得て、湾田が辿り着く前代未聞の結末とは!? この一冊で本格ミステリがよくわかる―鯨流超絶ミステリ。
引用終わり
わたしはコレで本格ミステリをはじめました
わたしは昔から国内物のミステリ作品はほぼ全く読んだことがありませんでした。ほんの数年前までは。小学生の頃からアガサ・クリスティが大好きで、国内文学といえばどちらかというと純文学ばかり。そんなわたしが今や、貪るように国内本格ミステリを読みあさっています。 この「ミステリアス学園」こそが、わたしを本格ミステリの世界に引き込んだ、まさにその本なのです。 それほどの影響力を持つ本作はいったいどんな作品なのでしょうか?
ミステリアス学園ミステリ研究会、略してミスミス研に入部した新入生、湾田乱人(わんだ・らんど)はミステリの初心者で、今まで読んだミステリは社会派の巨匠――松本清張の名作「砂の器」のみ。しかし、ミスミス研では今、本格ミステリをその研究対象から外そうという動きが……。 このような状態で始まるこの物語。 湾田乱人は、そんなミスミス研の活動や、同じ新入生で本格ミステリマニアの同級生「薔薇小路亜矢花」(ばらこうじ・あやか)からのミステリ講義を通して、ミステリの知識を吸収していく……のですが、毎回毎回取り上げられていた題材――密室、アリバイ、ダイイングメッセージなど――に沿った事件が起こり、部員がひとりひとり殺されてゆく。 こう書くと、なんだか本格中の本格のような気がしますが、それはまさしく気のせいです。
これは鯨先生にしか書けないヘン格ミステリ。
ミステリにおいて、その作中に作中作として別のミステリが存在するものなどを「メタミステリ」と呼びますが、この作品は更にそれを超越して、各話それぞれが次の話の中では部員の誰かが書いた「ミステリアス学園」という小説として語られます。マトリョーシカ小説と例えるのがもっとも分かり易いでしょう。 更に詳しくは書きませんが、ラストももうヒドイもんです(鯨作品に関しては、この言葉は必ずしもけなし言葉とは限りません)
こんな作品を有栖川有栖先生が書いたとしたら、わたしは怒り狂うでしょう。 しかし、鯨先生が書いたのであれば、納得してしまうこの不思議。
ある意味――というか徹底的に――単調な短編の繰り返し。普通の作家さんが書けば、間違いなく駄作にしかならないでしょう。しかし、鯨先生にとってはこれこそ得意ジャンル。波田煌子シリーズなどでも見せてくれる、単調ながらも、その単調さを読者に期待させる独特のテンポがあるのですね。それに加えて豊富な知識に裏付けられた様々なうんちくが読者を退屈させません。
本作においては特にその「うんちく」部分に比重が置かれていて、あえていうなら、別に事件がなくても充分「本格ミステリの教科書」として成り立ってしまうと思います。本格ミステリの総論からトリック総論、「嵐の山荘」「密室」「アリバイ」「ダイイング・メッセージ」そして「意外な犯人」と各論的な章立てになっており、しかもそれぞれの中では更に細かいいろんなうんちくが語られています。「キャラ萌え」にまで触れらているのには驚きです。 また、主人公にミステリ初心者を持ってきたことで、自然に分かり易い語り口で、懇切丁寧に説明する、というスタイルをとることができていますし、本格嫌い、ハードボイルドや社会派ミステリ好きの部員を配置して、それとの対比で本格ミステリを語る形をとっていることも、分かり易さに貢献しています。本当に初心者が本格ミステリの概観を自然に、しかもそれなりにきちんと体系づけて学ぶことができるのです。
結論 この本は評価が難しいです。 ミステリとしてはかなりの変わり種で、素直に謎解きを楽しみたい人には正直お勧めできない……と思いつつ、そのような本格ミステリファンの方なら、この全編に渡るミステリ講義は必見だとも言えます。
まあ、だまされたと思って読んでみてはいかがでしょう?
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