著者 : 高里椎奈 発行元 : 講談社 単行本(ソフトカバー)発行 : 1999.3 文庫版発行 : 2005.5
落ち着いた好青年座木(くらき・通称 ザキ)、超美少年の深山木秋(ふかやまきあき・通称 秋)、赤毛で元気いっぱいな少年リベザルが営む「深山木薬店」を舞台にした「薬屋探偵妖綺談」シリーズの第1作にして高里先生のデビュー作。メフィスト賞受賞作。
以下 新書版内容紹介より引用
とある街の一角に、その店は存在する。燻べたような色の木の板、木の壁、木の天井。まるでそこだけ時に取り残されたかのような―その店。蒼然たる看板に大書された屋号は、『深山木薬店』。優しげな青年と、澄んだ美貌の少年と、元気な男の子の三人が営む薬種店は、だが、極めて特殊な「探偵事務所」で…!?メフィスト賞受賞作。
引用終わり
雪の校庭に残された巨大な「雪の妖精」の真ん中で発見された子どもの遺体。 悪魔に魂を売ってしまった不動産会社社員。 亡くなった子どもの幽霊に悩まされる母親。 「深山木薬店」を中心にそれぞれの事件が絡まって、一つの解決を導き出す。
アイデアは面白いが描写は弱い。でも続きが楽しみなシリーズ開幕作。
高里先生のデビュー作ですが、さすがメフィスト賞受賞作。 まっすぐではありません。 落ち着いた好青年座木(くらき・通称 ザキ)、超美少年の深山木秋(ふかやまきあき・通称 秋)、赤毛で元気いっぱいな少年リベザルが主人公ですが、妖怪です。 「深山木薬店」を経営していますが、裏家業は妖怪達の起こした問題を秘密裏に解決することを目的とした問題解決業。
こういう設定ですから、物語には当然怪奇色がつきまといます。(注:怖くはないw) 悪魔くんも出てきます。 3人の元に持ち込まれる事件も、当然超常現象的です。 悪魔に魂を売ってしまった男。 校庭に残された巨大な雪の妖精(人間が雪の上に仰向けになって手足を動かしたときにできる蝶のような形)と、その雪に埋もれて死んでいた少年。 その少年の亡霊に悩まされる母親。 これらの謎が物語の展開と共につながってゆくのですが、面白いのは、超常現象に見せかけた人間の仕業でもなければ、単なる超常現象でもない、その中間的な過程をたどるところです。 あまり詳しく書くとネタバレになってしまいますので控えますが、本格ミステリとしてはぎりぎりのラインでしょうね。面白い試みだと思います。 ただ、これはまともな謎解きがほしい、と思っていた部分があっさり超常現象側に投げられたりしてしまったところもあるのでそれは残念です。
また、デビュー作だけに、残念な点が他にもちらほらと。
キャラクターは、いわゆる漫画的な設定です。 絶世の美少年に、いじられ役のかわいらしい子ども、そして暖かく2人を見守る好青年。 まあ舞台設定が設定なので、このくらいのインパクトはあってもよいと思います。ただ、この作品のみでは、キャラの魅力は正直書けていたとは思えません。このような漫画的設定の場合は、深い心理描写などの重要性は低くなると思いますが、その分読み手の脳裏にある程度ビジュアル的なものが浮かばないといけないのかなと思うのです。 例えば、主人公の秋はいろんな人と会話を重ねますが、設定にある、超絶美少年といったところが相手の反応から見えてこないのですね。 舞台設定と共に「キャラ」がこのシリーズの大きな売りになっていると思いますので、そこら辺の描写はもう少ししっかりした方が、と思いました。
次に、会話部分でやたら読みにくいところが所々ありました。 テンポよく読んでいたと思ったら、会話が続くところになると、急に誰の台詞かわからなくなってしまうところがあるのです。 例えば――
以下 単行本P50〜51 から引用
秋「一飯の徳も必ず償う。『史記』だ。些細な恩にも必ず報いろってコトさ」 リベ「へえ、師匠らしからぬ、善人ぶった言葉ですね」 ザキ「リベザル。秋は省略したけど、この詩には続きがあるんだよ。『睚眦の恨みにも必ず報ゆ』ってね」 リベ「どういう意味ですか?」 ザキ「どんな些細な恨みにも必ず仕返しをせよ、って意味だよ」 リベ「ポン」 秋「なにが『ポン』だ。陰口なら陰で叩け」
このようなやりとりがあるのですが(今これだけを見てもそりゃわかりにくいかも知れませんが)実はこの台詞部分を読んでいるときはスムーズに読めている(=発言者を無意識に理解しながら読めている)のですが、ここに次のフレーズが続きます。
ザキの容赦ない台詞にリザベルが右の手の平を握った左手で叩いて納得の意を示すと、秋は足を止めて憮然とした声を投げてよこした
ここでは、台詞の頭に人物の名前をつけましたし、また動作をあらわすような台詞もあったので比較的分かり易いかも知れませんが、わたしは台詞自体はスムーズに読めていたにも関わらず、この台詞について語られた状況描写を読むに至って、かえって混乱して、もう一度台詞から読み返すこととなりました。 おそらく連続する台詞に対して、次の一文で全部の台詞の説明が詰まっているから、読者は前に進むつもりなのに、無理に後ろに引き戻されてしまい、瞬間的に混乱してしまうのでしょう。もちろんこの部分だけの話ではなく、所々で同じような感覚を味わったので指摘したのですが。 これもせっかくキャラのやりとりを通じて、頭の中にイメージが湧きそうなのを阻害されるという意味において、上で述べたキャラの描写を不十分に感じてしまった一因かも知れません。
あと、最後は謎解きですが。 小さな謎がつながって大きな謎を解明する、といった類の謎解きで、本来わたしの好きな形なのですが、それぞれが一応理屈ではつながっているのかも知れませんが、どうも散文的というか、それぞれの謎が積み上がっていく過程の描き方が弱いように感じました。結果として大きな謎が解けた、というカタルシスは感じることができませんでした。この辺もアイデアというよりは、描き方の問題のように感じます。
どうしても、苦言を呈するときほど慎重になるために、分量が多くなってしまいますが、デビュー作であり、シリーズものの第1作ということを考えると、今後の作品も読んでみたいと思わせるものでありました。 アイデアは本当に面白いです。 ラノベテイストかと思わせておいて、なかなかの入り組んだ謎の設定であるところも好印象です。とにかく気になったのは描写というか、テクニカルな部分でしたので、作品ごとに格段に面白くなっていくのでは、と期待しております。 結果、単発ものならキツイですが、シリーズの幕開けとしてはよい幕開けだったように思います。
実際、わたしは現時点で未読ですが、なが〜く続いているシリーズですし、おそらく期待してよいのでしょう。
次作も楽しみにしております。
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