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森博嗣

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書籍情報

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著者 : 森博嗣 発行元 : 講談社 単行本発行 : 1996.7 文庫版発行 : 1999.3

犀川助教授と西之園萌絵のコンビが活躍するS&Mシリーズの第2弾。実質的には森先生の初執筆作品である。

あらすじ

以下 単行本内容紹介より引用


同僚の喜多助教授の誘いで、N大学工学部の低温度実験室を尋ねた犀川助教授と、西之園萌絵の師弟の前でまたも、不可思議な殺人事件が起こった。衆人環視の実験室の中で、男女2名の院生が死体となって発見されたのだ。完全密室のなかに、殺人者はどうやって侵入し、また、どうやって脱出したのか? しかも、殺された2人も密室の中には入る事ができなかったはずなのに? 研究者たちの純粋論理が導きでした真実は何を意味するのか。


引用終わり

書評

大学工学部の低音度実験室を有する研究施設での密室殺人。 ミステリとしてはオーソドックスなタイプではありますが、犯人だけではなく、被害者さえもその密室に入れたはずがない、というところが面白いです。 被害者を含む登場人物たちが「宇宙服か潜水服のような」ヘルメット付きの作業着を着て事件直前に動き回っているというところで、おぼろげにトリックのタイプが読めてしまうのではありますが、森先生自身の専門家としての知識に裏付けられた研究施設全体の描写によって、あまりとってつけたように見えないところはさすがです。

今作は前作の「すべてがFになる」のような、一種非現実的で大がかりな舞台設定ではなかったことから、西之園嬢の数学的な論理のみで組み上げられたかのような推理と、犯人側の主観、すなわちそのような犯行方法をとるに至った現実的な根拠という視点に立って可能性を限定していく犀川先生の推理の対比が分かり易く、また、素直に謎解きを楽しむことができたように感じました。 これによって、推理小説によくある、変な推理ばっかりするワトソン役と超絶推理の名探偵というステレオタイプから脱却できています。もっとも、西之園嬢はワトソン役ではないのですが、単に彼女の推理がダメダメで、犀川先生の推理の引き立て役という感じになってしまっていたら、そのようなステレオタイプに陥っていたのでは、という意味です。

今作の見所としては…… やはり、犀川先生の酔っぱらいシーンでしょうか?

それでは、ネタバレコーナーに行く前に、未読者向けの総評を。

はじめに述べたことと重なりますが、骨格はあくまでもオーソドックスな本格ミステリ(しかも館もので密室もの)なので、素直に謎解きを楽しむことができるでしょう。その分森作品によく見られる、一種独特な幻想的な趣は薄かったように思いますが、森先生の初執筆作品であることを考えると、この直球勝負にも頷けます。






{以下、ネタバレありです。未読の方はご注意を };







というわけで、理系的な道具立てが濃いものの、直球の本格ミステリだと思うわけですが、ちょっと納得のいかない部分もちらほらと。

一番首をかしげたのは、動機と人間関係ですね。 最後に一気に明かされるわけですが、ここだけ激しく土曜ワイド劇場。 木熊教授と市ノ瀬さんの親子関係もいかにも過ぎてアレですし、親子揃って殺人計画を推し進めるには動機的にもちょっと弱い気がします。市ノ瀬さんの単独犯なら何とか理解できないこともないのですが。いくらプライドの高い二人だといっても、それではちょっと納得できなかったりします。ましてや、増田君が死んでいたことは二人とも知らないのですから、市ノ瀬さんがいくらそう思い込んでいたといっても、お父さんが無条件にその前提に乗っかってしまうのは不自然です。また、市ノ瀬さんの殺意は、自分に乱暴した者に対する怒りであると同時に、増田君を死に追いやった者に対する恨みという意味合いも強いと思うのですが、木熊教授に関しては娘を傷つけた者に対する怒りというものがほとんどを占めていたと考えられます。にもかかわらずその娘と一緒に、娘も殺人者にしてしまう形での殺人計画を練るというのがちょっと……。

あと、珠子ちゃん。 あんまりにもかわいそう。

そもそも珠子ちゃんがことの顛末を知っていたとも限らない上に、知っていたとしても殺されるようなことは何にもしていないのでは? と思うのは私だけ? そして、ここが一番の疑問点なのですが、丹羽君って、市ノ瀬さんがらみの話を、本当に珠子ちゃんに話していたんですか? 極悪人の男と女がくっつくのならわからんでもないですが、珠子ちゃんは「大人しくて、真面目で、誰にきいても評判の良い」ような人らしい。(調査 西之園萌絵嬢) そんな女性との結婚までの道のりの途中で「おれ、市ノ瀬さん襲っちゃったんだ♪」みたいなこと絶対いわねーのではないでしょうか?? うん。 絶対言ってない。 まあ、言ってたとしても、珠子ちゃんが殺される必要は全くないと思われますが。

あと、事件の時点では丹羽君は市ノ瀬さんと増田君の関係を知っていたということなのですが、それなのに彼女も絡んだお色直しショーの提案に全く疑問を持たなかったのでしょうか? う〜ん。無防備というか無邪気というか……。

そんなわけで、最後に明らかになった動機やら人間関係やらには疑問符が死ぬほど付いてしまうのですが、そこまでの謎解きについては非常にロジカルで素晴らしかったと思います。 場合によってはこの動機の部分は明確なオチをつけなくても良かったのかも知れません。森先生の作風と、探偵役の犀川先生の性格からすると、それでも受け入れられるものになったように思います。

ケチをつけるのはホント簡単ですねぇ。まったく。

「全体的にとても良かったからこそ、ここだけは納得いかなかった」といった類の文句だと思っていただければ幸いです。

うん。 面白かった。

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最終更新:2008年11月28日 19:16