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村SS1

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silver25

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C1028 日の沈まぬ村 赤ログにて
■ヨアヒム/CN:虫/人狼/役者志望

ぶん・・・不愉快な音。僕はそれを潰して、手についた黒ずんだ汁を眺める。虫。不快な、虫の命がこときれた。ふいに嫌な記憶が舞い戻る。

「死んでしまえ!」
議論で尻尾を出しかけた僕を、人間たちは、いとも簡単に捨てようとした。虫けら同然に。僕の…実の両親さえも。

そしてその結果失われた命は――

◆ ◆ ◆


人狼になるということは、月夜の洗礼を受けるということ。満月の夜に狼に噛まれた者だけが、人狼の血を受け継ぐ。中には望んで狼になる者もいるというが、僕の場合はこんな事情だった。

幼い頃、好きだった女の子がいた。とても可憐で、優しい、でも傷つきやすい子だった。僕も弱虫だから、僕らの心は共鳴するように、お互いにどんどん距離が近くなっていった。でも僕は、幼すぎて気付かなかったんだ。

彼女の目の奥に潜んだ、狂気の存在に。

日の沈まないこの村では、月の沈まぬ期間がある。真っ暗な昼。その日は満月。普段より、若干明るい…僕らが遊ぶには最適な日だった。

「ヨアヒム、お願いがあるの。あの崖の上の、お花をとって」

なんでだろう。僕は彼女の唐突な申し出に、なんの疑問も抱かなかった。ただ、彼女の我侭をかなえる勇気が、弱虫な僕の心証をあげると信じて、必死でその願いをかなえることにしたんだ。
その花は、月夜に一度だけ咲く美しい花。それを彼女に見せてあげたいと、それだけを願って。手に血を滲ませて、必死に崖を登った。
大人になってからその崖に戻ったが、今の僕ですら怖い場所だ。小さい時の方が、恐怖を感じないというのは本当なのかもしれない。

ついに花にたどり着いたとき、そこにはいたんだ。綺麗な花を汚す、小さな虫が。僕は、それを払いのけようとした。その時…

「やめろ。じきにその虫の気持ちが分かるようにしてやる」

野太い声。髭の男が、僕に声をかけたのだ。刹那、僕の首筋に鋭い痛みが走った。

気がつくと、僕の愛した彼女は、僕の足元に膝をついていた。
――「人狼様…狂った私を導いて下さい」 意味が分からなかった。分かったのは、僕がさっきまでとは違う「何か」になってしまったということだけ。

「ヨアヒム。これからお前は、人間を演じ続けるのだ。さもなければ、虫のように扱われるであろう」

僕はその後に知った。あの崖の上が、狼たちの洗礼の場なのだと。そういえば、山に近づくなと、親が言っていたっけ。忘れてたよ、そんなこと。
「忘れるな、お前はもう人狼だ。人間と仇なす関係。忘れるな、奴らにとって、我々は生きる価値すらないと」
「あなたのためなら私、命すらも捨てる覚悟です」

満月に咲く花が、その花弁を落としたとき、僕の人狼としての歴史が始まった。恐怖と狂気にみちた叫びとともに。

あああああああああ!!!

◆ ◆ ◆


そう、僕が処刑台に送られそうになったあの日、助けてくれたのは彼女だった。
「待って!ヨアヒムは占い師よ!突然にわいた力に戸惑い、今まで言えなかっただけ。彼は昨晩、私を占い…その結果が人間だったと、私だけが唯一信頼できると、相談してくれたの」

「あからさまに庇うなんて怪しいな」 「待て、彼女を吊って霊視させれば、ヨアヒムの真贋も分かろうて」 「では、先にこの娘を吊ろう」

「や、やめて…」

涙ながらにそう呟いたのを、誰も聞き入れはしなかった。

が、彼女は笑った。
「いいのよ、ヨアヒム。頑張って占いの力で、村を救ってね…」

翌日、処刑台を染めた彼女の血痕を前に、僕は壊れたように泣いた。
耳に残るのは、彼女の最後の囁き。

「愛してる、ヨアヒム。あなたはきっと、良い役者になるわ。人間を演じる…ね」

手に残る虫の死骸を床に落とす。違う。僕らは…そんな存在ではない。ただ、もうこの孤独には耐えられない。月夜が、満月の夜が待ち遠しい。誰かを噛まねば…僕は一人きりになってしまう。

「愛してる。愛してるから…僕の仲間に…なってくれない?」

いつしか僕の目の奥に、彼女と同じ狂気が芽生えていたのかもしれない。僕は簡単に虫を殺すと、優しい笑顔の練習をした。
僕…良い役者に…なれるかな?
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