silver25@人狼BBS
他SS1
最終更新:
silver25
-
view
襲撃浪漫
■血とか苦手な人はご注意を
「その傷は? どうしたんだ?」
心配そうに皆が、彼を覗き込む。僕も、人間の群れの中にまぎれて、心配なふりをしながら、それをみていた。時折周囲に気を配りつつ。
それでも目に入るのは、占い師としてそこにいるニコラスの首筋についた、二つの赤い痕。狼の牙の深く食い込んだ印。喉がチリチリした。
心配そうに皆が、彼を覗き込む。僕も、人間の群れの中にまぎれて、心配なふりをしながら、それをみていた。時折周囲に気を配りつつ。
それでも目に入るのは、占い師としてそこにいるニコラスの首筋についた、二つの赤い痕。狼の牙の深く食い込んだ印。喉がチリチリした。
「狩人さんが守ってくれなかったら…今頃どうなっていたか…」
涙交じりに、そう言って力なくへたりこむニコラスを、周囲の人間が支えた。
「痛くない?」
「そりゃ痛いけど…。僕、村のために頑張らなきゃ」
涙交じりに、そう言って力なくへたりこむニコラスを、周囲の人間が支えた。
「痛くない?」
「そりゃ痛いけど…。僕、村のために頑張らなきゃ」
◆ ◆ ◆
「心配そうな顔しながら、何、思ってた?…ちゃんと、狩人探し出せた?」
「ん。もっと深く噛めばよかったなって、思ってたよ。だって、ほら…傷口、もう乾いてるよ」
「ん。もっと深く噛めばよかったなって、思ってたよ。だって、ほら…傷口、もう乾いてるよ」
無防備に傍にいるのを良いことに、つと指で触れてみた。
薄く桃色の皮をはり、その下に組織液の透けた傷口を。
するとニコラスは、顔を歪めて後方へ引き「ひどい!まだズキズキするのに」と言いながら、傷を庇う仕草をする。
なぜか、同情できなかった。むしろ――
薄く桃色の皮をはり、その下に組織液の透けた傷口を。
するとニコラスは、顔を歪めて後方へ引き「ひどい!まだズキズキするのに」と言いながら、傷を庇う仕草をする。
なぜか、同情できなかった。むしろ――
『動く元気を残すくらいなら、もっと深く噛んどけば良かった』
そんなことを思う。
僕のそんな表情を見取ってか、「なんだ不機嫌そうだな? どうした?」と、仲間に問われ「腹が減ってるからさ」と返す。
実際、腹は減ってるのだ。
僕のそんな表情を見取ってか、「なんだ不機嫌そうだな? どうした?」と、仲間に問われ「腹が減ってるからさ」と返す。
実際、腹は減ってるのだ。
肉をくれ。さもなくば、血を。
◆ ◆ ◆
昨晩のこと。
人狼たちは寝ずに囁き合い「誰を喰うか」などという和やかな話題に興じていた。
人狼たちは寝ずに囁き合い「誰を喰うか」などという和やかな話題に興じていた。
「本当の占い師さんを食べると、明日はたぶん僕が処刑されてしまうの」
狂人のニコラスも、その話題に参加している。占い騙りは短命とはいえ、すぐに手放すには惜しい気もした。
「ずいぶん弱気じゃないか。自分でなんとかしろ」などと茶化すが、確かに現状、占い師の信用度はイーブンといったところ。その読みは手堅いところをついていた。
「ずいぶん弱気じゃないか。自分でなんとかしろ」などと茶化すが、確かに現状、占い師の信用度はイーブンといったところ。その読みは手堅いところをついていた。
「ん。じゃ、なんか案ある?」
周囲を見回す。人狼たちは、尻尾をふわりと振りながら、おのおの思案を巡らす顔をした。
◆ ◆ ◆
「まあ、大人しく死んでくれ」
「ヤダ。そんな言い方、洒落に聞こえないよ」
「ヤダ。そんな言い方、洒落に聞こえないよ」
薄暗い闇の中。占い師として脅えた夜を過ごしているニコラスの元に、僕は忍び込んだ。もちろん、そんな脅えは演技に過ぎないわけだが。
「僕が力加減を間違えたら、本当に死んでしまうかも。でもいいよね、どうせ明日は吊られる覚悟してたワケだし」
「そんな…!」
「そんな…!」
瞳に不安が浮かんだのが分かった。満足だ。
首に手をかけて、唇を近づける。離れていても、ふわりと体温が感じられた。
首に手をかけて、唇を近づける。離れていても、ふわりと体温が感じられた。
僕らの作ったシナリオはこうだ。
ニコラスのところに狩人がいて、僕が撃たれればそれで良し。
いなければ、噛み痕だけつけて、襲撃阻止されたふりをする。
本物の襲撃阻止であれば、狩人が真占を誤認し、率先して議論を誘導してくれる可能性がある。今後の襲撃も通りやすくなろう。
また、襲撃阻止を装って、狩人の動揺を引き出すことで、彼を割り出すのも容易になるだろう。占い師を長く生かすことにはなるが、得るものも多い。
ニコラスのところに狩人がいて、僕が撃たれればそれで良し。
いなければ、噛み痕だけつけて、襲撃阻止されたふりをする。
本物の襲撃阻止であれば、狩人が真占を誤認し、率先して議論を誘導してくれる可能性がある。今後の襲撃も通りやすくなろう。
また、襲撃阻止を装って、狩人の動揺を引き出すことで、彼を割り出すのも容易になるだろう。占い師を長く生かすことにはなるが、得るものも多い。
「人狼はね、ちゃんと肉を喰って血をすすらないと…判断が狂うんだ。そしたら、明日、尻尾を出してしまうかもしれない」
「何、言ってるの?」
「何、言ってるの?」
ニコラスの声が震えている。
「だから血を分けて…」と言うつもりだったが、あまり考える間もなく、自分の牙を彼の肌に刺してしまった。
歯止めが利かぬとは、こういうことを言う。
歯止めが利かぬとは、こういうことを言う。
『優しく噛めって、教わったのになぁ…』
頭の片隅で、少しだけ後悔していた。
◆ ◆ ◆
――きゃあああ!!!!
その叫び声は、台本通りだ。
だが、おそらく、台本にあるよりも…もっと真に迫っていたと思う。
僕が、手加減を忘れて首の根元に歯を立てたからだ。
だが、おそらく、台本にあるよりも…もっと真に迫っていたと思う。
僕が、手加減を忘れて首の根元に歯を立てたからだ。
口の中に広がる血の味。
狂っていても、彼は人間だ。大好きな、人間の味がする。
このまま爪を立て、骨を砕き、むさぼり喰いたいという衝動が、五臓六腑から湧き出すように…僕を支配しようとしている。
狂っていても、彼は人間だ。大好きな、人間の味がする。
このまま爪を立て、骨を砕き、むさぼり喰いたいという衝動が、五臓六腑から湧き出すように…僕を支配しようとしている。
銀の矢よ、飛んで来い。
さもなくば僕は、この子を食べてしまうよ。
目の奥に、無残な死体の映像が浮かぶ。ああ、甘美だ。
作戦、変更してもかまわないかな。
さもなくば僕は、この子を食べてしまうよ。
目の奥に、無残な死体の映像が浮かぶ。ああ、甘美だ。
作戦、変更してもかまわないかな。
そのとき、肩のところに何かが触れた。僕の服の布を掴む、拳の感触。
ニコラスの無意識が、痛みに耐えるために、何か掴むものを探していて、それが僕の肩だったのかもしれない。
本能から舞い戻った僕の、僅かな隙に、言葉が忍び込んできた。
ニコラスの無意識が、痛みに耐えるために、何か掴むものを探していて、それが僕の肩だったのかもしれない。
本能から舞い戻った僕の、僅かな隙に、言葉が忍び込んできた。
「ッ。う…だいじょ…う…ぶ…だから、いいよ」
何が良いのか分からないが、彼の方がもっと分かってないのだろう。
息をするのすらままならず、痛覚を殺すように、ぎゅっと拳を握っている。
口元に血をつけたまま、ふと顔をあげる。
汗をいっぱいにかいて、音もなく涙を流している顔があった。
息をするのすらままならず、痛覚を殺すように、ぎゅっと拳を握っている。
口元に血をつけたまま、ふと顔をあげる。
汗をいっぱいにかいて、音もなく涙を流している顔があった。
ぽん。
頭の上に手を置いて、わしわしと髪の毛を掻き混ぜた。
「終わり。もーすぐ人が来るから、僕は行くよ」
彼の手が、僕から離れる。
僕は血液を無造作に拭きながら、なおも続く身体の痛みと格闘しながら、小刻みに震えるニコラスを見ていた。
抱きしめてやろうか? などと、最後の逡巡をするも、何も言わずに素早く踵を返した。
やはりここに長居するのは、一利もない。
僕は血液を無造作に拭きながら、なおも続く身体の痛みと格闘しながら、小刻みに震えるニコラスを見ていた。
抱きしめてやろうか? などと、最後の逡巡をするも、何も言わずに素早く踵を返した。
やはりここに長居するのは、一利もない。
無数の足音が、近づきつつあった。
◆ ◆ ◆
窓の外。夜の風がここちよい。
目を閉じる。壁の向こう側のざわめきが遠くに感じる。
目を閉じる。壁の向こう側のざわめきが遠くに感じる。
今はただ、彼の皮膚の破けた瞬間やの歓喜や、筋肉の隙間を牙が通るあの感覚を、自分の中で繰り返していたかった。
身を横たえる。草の匂いがした。身体の中に、ひとときの和平が訪れる。
身を横たえる。草の匂いがした。身体の中に、ひとときの和平が訪れる。
欲が満たされ、自然に溶ける。
だけどきっと、またすぐに満たされなくなる。
だけどきっと、またすぐに満たされなくなる。
――どうすれば満たされる?
自問。ゆっくりと、声にならない囁きで答えを出した。
『痛みに見合う、戦果と愛を』